6 ドイナの秘密
「ラクラミキオアラ…とっても素敵な名前ね。『人魚姫』の他には、どんなお話が好きなの?」
ドイナがラクラミキオアラにききました。
「えっとね、『オズの魔法使い』とか、『モモ』とか」
ラクラミキオアラが答えると、ドイナは、
「『不思議の国のアリス』は?」
とききました。ラクラミキオアラは、
「もちろん、大好き」
と答えました。そのときラクラミキオアラは、あることに気づきました。さっき、ドイナは自分と同じように、『人魚姫』の本に指を伸ばして、あと少しで触れそうな感じでした。でも、この本屋さんには、子供が、高いところにある本をとるための台は、ひとつしか置いてありません。『人魚姫』の本は高いところにあって、台を使わなければ、ドイナの指が、さっきのように触れそうなところまでくるはずはないのです。ドイナの背の高さは、ラクラミキオアラと同じくらいなのですから。
「ねえ、ドイナ。あなた、さっき、どうやって『人魚姫』のところまで手を伸ばしたの?」
ラクラミキオアラがそうきくと、ドイナはキョロキョロと、店の中を見回しました。他のお客さんがこっちを見ているか、確認しているようでした。少し離れた場所で、立ち読みをしている男のお客さんがいるのを見て、ドイナは、
「ここだと、ちょっと説明しにくいから、こっちに来て」
と言って、ラクラミキオアラの手首をつかみ、引っぱって店の外に連れ出しました。そして、店の前の歩道にも歩いている人がいるのを見て、人がいない場所までラクラミキオアラを引っぱって行きました。
「ドイナ…こんなところまで連れて来て、いったい、どうしたの?」
ラクラミキオアラはききました。ドイナがようやく立ち止まったのは、お店が並んでいる通りから少し離れたところにある、樹々に囲まれた小さな公園でした。ベンチがあったので、ラクラミキオアラは座りました。ドイナはラクラミキオアラの目の前に立って、再びキョロキョロと周りを見回してから、顔をラクラミキオアラの耳元に近づけて、小さな声で、
「わたし、本当はね、鳥なの」
と言いました。
ラクラミキオアラはびっくりして、自分がきき間違えたのかと思い、
「え?なに?」
と言いました。するとドイナはもう一度、
「わたし、本当はね、鳥なの」
と言いました。ラクラミキオアラは、「この子、何を言っているんだろう」と思い、こまった顔になりました。
「鳥って、あの、空を飛ぶ鳥?」
「うん。空を飛ばない鳥もいるけどね。わたしは飛ぶ種類の鳥。ムネアカヒタキっていうの。ちょっと見ててね」
そう言うと、ドイナは静かに、立ったまま目を閉じました。次の瞬間、ドイナの身体はきらきらした光につつまれて、光の中から、小さな、可愛らしい一羽の鳥が現れました。そのかわり、ドイナは消えていました。小さな鳥は元気に羽ばたいて、ラクラミキオアラの肩にとまり、キスをするように顔を近づけて、小さく鳴いていました。まるで、ラクラミキオアラに「ほら?本当だったでしょ?驚いた?」ときいているかのようでした。
ラクラミキオアラが目を丸くして見ていると、鳥は再び羽ばたいて、現れたときと同じ場所に移動しました。そして再びきらきらした光につつまれて、今度は光の中からドイナが現れたのでした。ドイナは、驚いているラクラミキオアラに、
「これで、信じてくれた?わたしね、鳥だから、人間の姿をしているときでも、少し浮いたりできるの。だから、さっきは台を使わずに『人魚姫』のところまで手を伸ばすことができたんだ」
と説明しました。
いつか、ファンタジーの世界で不思議な友達をつくって冒険してみたいと思っていたラクラミキオアラは、今までの人生で一番と言えるくらいの嬉しい顔をして、
「ドイナ、すてきっ!!」
と大きな声で言いました。とても大きな声だったので、今度はドイナの方が驚いて、ひっくり返りそうになりました。




