57 朝をむかえて
いつも読んでくださっている方、本当にありがとうございます。
ドイナとペイズリー3世はドレスとタキシードを着たままだと気づいたので(笑)、『38 月下の散歩道』を少し修正しました。なにとぞご容赦下さい。
おおきなベッドの上でお喋りをしているうちに、まずモモの目がトロンとしてきました。それに気づいたラクラミキオアラが、
「モモ、大丈夫?もう寝る?」
とききました。モモは、
「ううん、だいじょうぶ…」
と答えましたが、それから五分もたたないうちに、モモはころんと横になって、眠りに落ちていました。ベッドの上には薄手の麻の掛け布団が折りたたんだ状態で用意されていたので、ラクラミキオアラはそれを広げて、モモの身体の上にやさしく掛けてあげました。そのあと、ドロシーとカシオペイアも同じように眠りに落ち、ラクラミキオアラは同じように布団を掛けてあげました。ベッドは普通のダブルベッドよりもふた回りくらいおおきく、しかもみんな大人よりも身体が小さいので、隣のベッドに移したり別の布団を用意する必要はありませんでした。モモたちは同じベッドの上で、同じ掛け布団に包まれて眠ることができました。カシオペイアは亀なので、布団を掛ける必要があるのかラクラミキオアラは一瞬考えましたが、"布団を掛けられて眠る亀なんて、可愛過ぎる…"と思い、甲羅の上から布団を掛けてあげました。
ラクラミキオアラとドイナが眠りに落ちたのは、ほとんど同時でした。ふたりはウトウトしてきたので枕に頭を乗せて、身体を寄せ合うように横になりました。
「ドイナ…ずっと…ずっと友達だよね…」
眠りに落ちる直前に、ラクラミキオアラはそう言いました。それは半分、寝言のような感じでした。ドイナも、そう言われたときには半分眠りに落ちていましたが、
「…当たり前でしょ…心配しなくていいよ、ラクラミキオアラ…」
と、答えました。ラクラミキオアラはほとんど眠った状態で少し笑みを浮かべ、ドイナの腕にしがみついて、そのまま深い眠りに落ちていきました。
翌朝、ラクラミキオアラたちは、ドアをノックする音で目を覚ましました。ラクラミキオアラは目蓋を指でこすり、あくびをしながらゆっくりとドアを開けました。そこには、白いシャツに黒のモーニングコート、黒とグレーのストライプのコールパンツという伝統的な執事服に身を包んだ執事が立っていました。
「みなさん、朝食をご用意しましたので、大広間にお越しください。…あれっ?みなさん、お洋服を着替えずに、そのまま寝てしまったんですか?パジャマをご用意しておいたのですが」
執事は少し驚いた様子で、そう言いました。
「えっ…。あ、もしかして、あれですか?」
部屋に置かれた全てのベッドの枕の横に、丁寧にたたまれた状態のパジャマらしきものが置かれていました。そのうちのひとつを指差して、ラクラミキオアラがききました。
「そうです、あれです。魔法を使えば、実際に着替えることなく服を替えたり、シャワーを浴びずに身体を綺麗にすることもできるのですが、女王様が"それじゃ、お泊り会の雰囲気が出ないじゃない"とおっしゃいまして。それで、パジャマやバスルームをご用意させて頂いたわけです」
ラクラミキオアラは、"し…しまった…ピローファイトで疲れてたし、お喋りするのが楽し過ぎて、そのまま寝てしまった…!"と思いました。
「わ、分かりました!!じゃあ、わたしたち、これからシャワーを浴びて、パジャマに着替えます!!パジャマで、朝食をいただきたいと思いますっ!!」
ラクラミキオアラがそう言うと、執事は、
「お、起きてからパジャマに着替えるんですか!?逆転の発想というやつですね、アハハハ…。かしこまりました、それでは、みなさまが朝食を召し上がっている間に、いま着ておられるお洋服は、洗濯をして、乾かしておきますね。それも、魔法を使わずに、本当に洗濯をする形で行います。一時間後にお洋服を取りに参りますので、それまでにシャワーと、お着替えを済ませておいて頂けますか?」
と答えて、やさしく微笑みました。
「はいっ!!ありがとうございますっ!よろしくお願いしますっ!!」
ラクラミキオアラは元気にお礼を言い、執事は丁寧にお辞儀をして立ち去りました。
「よしっ!!じゃあ、順番にシャワーを浴びて、パジャマに着替えよう!!」
ラクラミキオアラの言葉に、みんなは笑顔でうなずきました。
「カシオペイアは…どうする?亀って、シャワー浴びたりしないよね!?」
ラクラミキオアラがそうきくと、カシオペイアは甲羅に文字を浮かび上がらせて、こう答えました。
「セッカクナノデ ワタシモ チョット ミズヲ アビマス」
一時間後、シャワーを浴びてパジャマに着替えたラクラミキオアラたちの待つ部屋に、執事が再びやって来ました。執事は二人に増えていて、一人はさっき来たのと同じ人でした。その執事はラクラミキオアラたちを大広間へ案内し、もう一人は彼女たちの洋服をおおきな籠に入れ、
「お預かりいたします!」
と言って、洗濯をするための部屋に向かいました。
ラクラミキオアラたちが大広間に入ると、おおきなテーブルを囲むように置かれた椅子のうちのひとつに、ペイズリー3世が座っていました。その横には、ブリキのきこりと、かかしと、カルキノスもいました。それぞれ、椅子に座っていたのですが、カルキノスは小さいので、座っていると言うよりも、ちょこんと"置かれている"感じでした。
「キャハハハ!カルキノス、それじゃ、みんなの顔見えないでしょ?テーブルに乗ればいいのに〜!別に、"行儀悪いな"とか、思ったりしないよ?」
ラクラミキオアラが笑いながらそう言うと、カルキノスの甲羅に、文字が浮かび上がりました。
「テーブルニ ノボッタラ チョウショクト マチガエラレテ タベラレチャウデショ?」
ラクラミキオアラは吹き出して、
「う〜ん…確かに、可能性がゼロとは言い切れない!!」
と言いました。 それからペイズリーの顔を見て、
「ペイズリー、おはよう!作業、お疲れさま!結局、どうなったの?東の魔女を閉じ込めておくための部屋は、完成したの?」
とききました。
「おはよう、ラクラミキオアラ。うん、かなり大変だったけど、なんとか完成させたよ。『物語の宝石箱』を改修することができる魔法工芸職人が見つかるまで、東の魔女には、あの部屋で過ごしてもらう。かなり広い部屋だし、ベッドもソファもバスルームもあるし、散歩を疑似体験できる装置も入れてあるから、環境としては悪くないと思うよ。まあ、怨霊にソファとかバスルームが必要なのかは、分からないけどね!」
ペイズリー3世はそう答えて笑いました。
「そうなんだね。悪いことをした人だからと言って、ひどい扱い方はしないっていう考えなんだね。ペイズリーと、女王さまは」
「うん。それをしちゃったら、マンチキンの人たちを奴隷にしていた東の魔女と同じになっちゃうからね。あと、"東の魔女は物語の中で、役割としてそういうことをしただけ"っていう考え方もできるでしょ?だから、"普通の犯罪者と同じように考えるのは良くない"っていうのが女王さまの考えなんだ。おれもその意見をきいて、なるほど確かにそうだよなって、思った」
「なるほど!確かにそうだね。かなり難しい問題だね!」
ラクラミキオアラがそう言うと、ペイズリー3世はうなずきました。
「それはそうと、ラクラミキオアラ」
ペイズリー3世は顎を人差し指と親指で挟み、眉間に皺を寄せ、謎の密室殺人事件の現場を見回した直後の名探偵のような顔で、こう言いました。
「なんで君たち、みんなパジャマなの!?」




