56 硝子の花
そのあとラクラミキオアラたちは、眠りにつくまで、色々なことについて、たくさんお喋りしました。モモは人の話をきくのが得意な女の子なので、自分から積極的に喋ることはあまり無いのですが、ラクラミキオアラが「モモはどう思う?」ときいたときには、ちゃんと自分の意見を言ってくれました。
ラクラミキオアラは『モモ』を読んでいたので、モモが芯の強い、周りの意見に流されない女の子だということは知っていました。モモは自分自身が強いだけでなく、人の話をきくことによって、その人にも元気と勇気を与え、幸せへと導くのです。
芯が強いのは、ドロシーも同じでした。彼女は様々な困難にも負けず、周りの人達を幸せにしていきました。自信を持てずに生きていたブリキのきこりやかかしが自信と誇りを持てるようになったのは、ドロシーと出会えたからです。そして周りの人達に対してだけでなく自分自身にも嘘をついて生きていた、オズことオスカー・ゾロアスター・ファドリグ・アイザック・ノーマン・ヘンクル・エマニュエル・アンブロワーズ・ディッグスが、まっとうな生き方をしようと決意できたのも、ドロシーと出会えたからでした。
ラクラミキオアラの心も、二人のおかげで強くなっていました。彼女は、別に心を強くしようと思って『モモ』や『オズの魔法使い』を繰り返し読んだわけではありません。面白いから何度も読んだだけなのですが、自分でも気がつかないうちに、モモとドロシーの行動や言葉に勇気をもらい、憧れるようになり、いつの間にか、二人と同じように芯の強い女の子になっていたのです。
森の女王ガブリエラが用意してくれた、乙女ちっくで広々とした寝室の、おおきなベッドの上で、ラクラミキオアラとドイナ、ドロシー、モモ、カシオペイアは何時間もお喋りしていました。もちろんカシオペイアは声を発したわけではなく、甲羅に浮かび上がる文字で参加していました。
「わたしね、ずっとずっと前から、『オズの魔法使い』と『モモ』を読むたびに、思ってたの。"どうしたら、ドロシーやモモみたいな格好いい女の子になれるんだろう"って。ねえ、どうしたら、なれるの?」
ラクラミキオアラにそうきかれたドロシーは、
「ラクラミキオアラ。あなたはもう、強くて格好よくて、最高に可愛い女の子になっているわよ?自分で気づいていないだけよ」
と言って微笑みました。モモも、やさしい目で微笑んで、うなずきました。ドイナが、
「わたしも、そうなりた〜い!」
と言うと、カシオペイアの甲羅に、文字が浮かび上がりました。
「アナタモ トックニ ナッテイマスヨ!」
ラクラミキオアラも、
「そうだよ!カシオペイアの言う通り!…じゃなくて、文字の通りっ!!ドイナはムネアカヒタキっていう小さな鳥の妖精だけど、芯の強さは鷲にも鷹にも隼にも負けないよ!しかもすっごく可愛いの!」
と言って、ドイナに抱きつきました。そのときドイナは、こう思いました。
"それぞれの存在は、本当は、とても弱くて、硝子でできた花びらのように壊れやすいのかも知れない。だけれど、出会って、心を通わせて、この人のようになりたいと思ったとき、人は、信じられないくらい、強くなることができるのかも知れない"
そしてドイナは、気づきました。
"物語というのは、勇気と希望をあたえてくれる人と出会うための、宝石箱なんだ!"
森の女王ガブリエラが所有する『物語の宝石箱』だけが、不思議な力をもっているわけではない…もし、心の底から大好きになれる物語と出会えたなら、その物語は不思議な力で、生きていくための力をあたえてくれる。無限の勇気を与えてくれる。たったひとつでも、ふたつでも、星の数ほどたくさんでも、大好きな物語がある人はみんな、魔法の宝石箱をもっているのだと、ドイナは気づいたのです。




