55 わたしは、わたし
ラクラミキオアラたちはピローファイトが盛り上がり過ぎて、なかなか終わらない状態になっていました。
"これ以上続けたら明日、筋肉痛になる"
そう思ったラクラミキオアラは、肩を上下させてハァハァゼェゼェ呼吸を荒くしながら、
「そ…そろそろ終わりにしようか?アハ、アハハハ」
と言って勝敗のお茶を濁そうとしましたが、鳥の妖精なだけに筋肉痛の心配などしたことがないドイナは、
「ラクラミキオアラ、まだ勝負はついてないわよっ!!」
と容赦なく答えました。ドイナはムネアカヒタキなので、渡り鳥ほどの持久力は無いのですが、そうは言っても、数十分のピローファイトくらいでへたばるたまではないのです。読書が趣味で完全なインドア派のラクラミキオアラは、
"ヤバい!この人が鳥だってこと、すっかり忘れてた!体力で勝てるわけないじゃん。このままじゃ、過労死させられる!"
と思い、
「あっ!そういえば、冷蔵庫にプリンが入ってたよ!!ドイナ、プリン好きだよね!?お腹がすいてるなら、プレーンオムレツも入ってたよ?」
と言いました。ラクラミキオアラはドイナから"わたし、プリン好き"などと言われたことは一度も無く、はっきり言って完全に適当な発言でした。普段のラクラミキオアラは、そんな適当なことを言う人ではないのですが、あまりにも疲れていて、正常な判断ができなくなっていたのです。本来はとってもいい子なので、どうか許してあげて下さい。
「えっ!?わたし、別にプリン好きじゃないよ!?ていうか、プリンもオムレツも、思いっ切り卵を使うでしょ!!鶏は鳥で、わたしも鳥なんだから、食べるわけないでしょっ!!」
ドイナは口を尖らせて、そう言いました。
"し…しまった!!鳥の妖精に、ヒヨコが生まれないタイプの卵であるとはいえ、鳥の卵が使われているスイーツと料理をオススメしてしまうとは…わたしとしたことが、痛恨のミス…!"
ラクラミキオアラは有精卵、無精卵という言葉はまだ知りませんでしたが、冷蔵庫に入っている卵からヒヨコは生まれないことは知っていました。
人間は鳥の卵を食べているという問題を深堀りして議論するようなことになったら、最終的に話が鶏肉料理にまで及んでしまい、せっかく出来た素敵な友達を失うことになりかねないと判断したラクラミキオアラは、何が何でも話題を変えなければと思いました。
「アハ、アハハハ!そ、そうだよね!!ごめんなさいっ!!ねえ、ドイナって、鳥の姿から人間の姿に変身するとき、服を着た状態で現れるじゃん?あれって、一体どうなってるの?魔法で服を作っているような感じなの?」
「うん。魔法みたいな感じだよ。"こんな感じの服にしよう"って頭の中でイメージすると、そのイメージ通りの服を着た状態で人間になれるの」
「え〜!すご〜い!!ドイナの着てる服、すっごく可愛いよね!冬はどんな服を着てるの?わたしは去年、お母さんにダウンジャケットを買ってもらったんだけど、色が白でね。すっごく可愛いの!」
ラクラミキオアラはそこまで言ってから、
"ヤバい!!また、やってしまった!!"
と思いました。ダウンジャケットに使われているのは、鳥の羽です。鳥の妖精であるドイナと仲良くしたいのであれば、ダウンジャケットの話は禁物なのです。
「ごっ!!ごめんなさいっ!!本当にごめんなさいっ!!もう、わたし、あのダウンジャケット着ませんっ!!」
謝るラクラミキオアラを見て、ドイナは少し困った顔で微笑みながら、こう言いました。
「せっかくお母さんが買ってくれたんだから、着なよ!ラクラミキオアラ。わたしだって鳥の姿のときは生き物を捕まえて、食べて、生きているんだよ」
ドイナはとても真剣な目で、真っすぐラクラミキオアラを見ました。
「大切なのは、自然とか命に対する感謝の気持ちを、ちゃんと持つことだと思うよ。"人間と仲良くするなんて、おかしい"って言う鳥もいるかも知れないけど、わたしは、わたしの考えで生きていくよ。わたしは、ラクラミキオアラのことが大好きだし、これからもずっと友達でいたいよ」
「ドイナ…」
ラクラミキオアラは目を潤ませて、ドイナに抱きつきました。
「ドイナ、大好きっ!!…だから、ピローファイトは、もう終わりにしようねっ!!」
ドイナは笑いながら、
「じゃあ今日のファイトは、もう終わりね。でも、またいつか、やろうね」
と言って、ラクラミキオアラの頭をやさしく撫でました。




