53 帰城
しばらくすると、遠くに小さく見えていたお城が、おおきく見えるようになってきました。お城の周りは庭園になっていますし道もあるのですが、空から見ると、白く尖ったお城だけが暗い森の中にあるように見えました。夜空に向かって、鋭く尖った屋根をいくつも伸ばしているお城は、星と月の光に照らされて輝いていました。ラクラミキオアラは、まるで、図鑑で見た水晶の原石のようだと思いました。
ライオンはゆるやかな曲線を描いて少しずつ、ゆっくりと降下し、無事、お城の前の庭園に着地することができました。東の魔女が入っている立方体も、無事、着地しました。ペイズリー3世はまず、魔法でライオンを元のおおきさに戻しました。そのときに翼も消えて、完全に元のライオンの姿に戻りました。それから3世はラクラミキオアラたちを一度ライオンの背中の上に降ろして、先に自分がライオンから降りました。それからラクラミキオアラたちを手のひらに乗せ、地面の上に移動させてから、魔法をかけて元のおおきさに戻しました。
「あ〜!楽しかった〜!めちゃくちゃスリルあったけど。ライオンさん、ありがとう!」
ドイナはそう言って、ライオンの身体をやさしく撫でました。ラクラミキオアラも同じように撫でながら、
「ライオンさん、疲れたんじゃない?ありがとうね。今日はこのあと、ゆっくり休んでね」
と言いました。それからペイズリー3世の前に歩み寄って、
「あの、ほんと、ごめん…懐中時計…」
と再び謝りました。3世は笑って、こう答えました。
「ほんと、大丈夫だから、そんなに気にすんなよ!そもそも、物なんて、いつか必ず壊れちゃうものだし。だけど君やドイナと一緒につくった今日の思い出は、どんなことがあっても絶対に壊れないだろ?だからおれは今、すごく嬉しい気分だよ」
「でも、おじいちゃんから代々、受け継がれてきた大切な時計でしょ…?」
「そうだけど、友達を守るために使って壊れたって報告したら、きっと、じいちゃんはめちゃくちゃ褒めてくれると思うよ。あの人がおれに一番伝えたいことって、多分、そういうことだから。魔法の技術とかよりも、そっちなんだよ。でも、言っとくけど…」
「なあに?」
「あのとき懐中時計を飛ばしたのは、おれが、そうしたいと思ったからだよ。おれの意思で、したことだよ。そうしないとじいちゃんに怒られると思って、したわけじゃないよ。だから、もう、気にすんなよ?」
「分かった…ありがとう…」
3世が想像以上にいいやつだったのでラクラミキオアラは思わず泣きそうになりましたが、泣いたら恥ずかしいと思い、必死にこらえました。そしてドイナに小さな声で、
「さすがドイナの友達だね…めちゃくちゃいいやつじゃん、ペイズリー。わたしのこと、友達って言ってくれた…」
と言いました。そして、照れ隠しで、
「でもやっぱり、ナルシストだよね…絶対…!」
と付け足しました。ドイナは、
「ちょっと!助けてもらったのにそんなこと言ったら悪いよ〜!」
と小声で答えながら、必死に笑いをこらえていました。そしてラクラミキオアラに、
「どう?そろそろペイズリー3世のこと、好きになってきた?恋愛的な意味で」
とききました。ラクラミキオアラは目を丸くして、
「無い無い!!ぜったい、それだけは無いからっ!」
と答えました。
「ラクラミキオアラの好きなタイプって、どんな感じなの?」
「えっとね…」
ラクラミキオアラは少し考えてから、少しおどけた表情で、こう答えました。
「魔法を使わなくて、やさしい人」
「何それ〜!でも、それならペイズリー、半分は当てはまってるじゃん」
ドイナがそう言うと、ラクラミキオアラは微笑みながら夜空を見上げて、
「うん、そうだね」
と答えました。おおきな丸い月と、今にも落ちてきそうなほど夜空いっぱいに散りばめられた星たちが、ラクラミキオアラたちを静かに、やさしく見守っていました。




