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52 物語を抱きしめて

 ペイズリー3世は真っ白な砂の上に立ったまま、ラクラミキオアラたちを背中に乗せているライオンを見上げました。夜空に浮かぶおおきな月とライオンが重なり、おおきな翼を広げたライオンの姿は、逆光になった月の光で、ぼやけた黒い影のように見えました。

 ゆっくりと円を描くように降下して、ライオンは砂の上に着地しました。

「ペイズリー、君はそのままの大きさで、背中に乗りなよ」

 ライオンはそう言うと、ぺたんと地べたに腹ばいになりました。三倍の大きさになっているので腹ばいになっても結構な高さがありましたが、のぼれないほどの高さでは無かったので、3世は魔法を使わずにのぼって、翼よりも前の、前足の上あたりに跨がりました。その間ラクラミキオアラたちは、ペイズリーに押し潰されてしまわないように、ライオンのお尻の上の方に避難していました。ペイズリーが無事、ライオンに跨がったことを確認したラクラミキオアラは、

「ねえ!ペイズリー!わたしたちを、肩に乗せてよ!魔法がかかってるから、落ちたりしないでしょ?」

 と叫びました。

「えっ?ああ、いいよ!」

 そう言ってペイズリー3世は身体をひねり、後ろに手を伸ばしました。ラクラミキオアラたちは、広げられた3世の手のひらに次々と乗り移りました。3世は慎重に手のひらを自分の肩の真横まで移動させました。3世は襟付きのシャツを着ていたので、ブリキのきこりとかかしは襟によりかかって座りました。かかしは、「これは最高だ。座り心地がいい」と言いました。二人はあぐらをかいて座って、脚の上にカシオペイアとカルキノスを乗せていました。カシオペイアとカルキノスの甲羅に、

「タシカニ スワリゴコチ サイコウデス」

「ホント! ズット スワッテイタイクライ!」

 と文字が浮かび上がりました。それを見たかかしは、

「亀と蟹なのに、座るとか、立つとか、あるの?」

 と言って笑いました。

 ドイナとドロシー、モモは、3世の胸の方に脚を投げ出す形で、肩の上に座りました。ラクラミキオアラは座る前に、立ったまま3世の顔を見上げて、

「ペイズリー!本当に、本当にごめんね」

 と言いました。3世は顔をラクラミキオアラの方に向け、

「え?何が?」

 とききました。

「あの懐中時計…"傷がついたら嫌だ"って言うくらい、ものすごく大切にしていたでしょ?それなのに…ごめんなさい」

 ラクラミキオアラは深く頭を下げて謝りました。

「それと…わたしのこと守ってくれて、ありがとう…」

 ツンデレで小悪魔的なラクラミキオアラにとって、そんな風に素直に感謝の気持を伝えるのは、とても難しいことでした。しかし彼女は真っすぐな性格をしているので、"伝えなきゃいけないときは、どんなに難しくても、絶対に伝えないとダメ!"と思って、頑張ったのです。でも、言い終えると急に恥ずかしくなってきて、逃げるようにドイナの横に行って座りました。3世はそういうラクラミキオアラの性格をもう分かっていたので、何も言わずに少し笑みを浮かべ、

「ライオンさん!お城に戻る前に、星空を散歩しましょう!」

 とおおきな声で言いました。

「よしっ!!まかせてくれ!!」

 ライオンはそう答えて、ゆっくりと翼を広げてから、力強く羽ばたき始めました。ライオンのおおきな身体は宙に浮き、3世は魔法で、東の魔女が入った立方体を浮き上がらせました。立方体はそのままライオンの後ろをついてくるように飛行し始めました。

「魔女さんにも見せてあげようか、この景色を」

 3世はそう言って、右手の人差し指をくるくる回し、ひょいっと後ろの立方体に向けました。すると白かった立方体が透明になり、中でしょんぼりしている東の魔女の姿が見えました。その姿が見えたのはほんの一瞬で、すぐに魔女は立方体が透明になったことに驚き、目を丸くしました。最初は何か、こっちに向かって文句を言っていましたが、しばらくすると、何も言わなくなりました。ラクラミキオアラは、"こんなに綺麗な星空にやさしく包まれてしまったら、汚い言葉を口にすることなんて、人は出来なくなるのかも知れない"と思いました。

 魔女の心すら穏やかにしてしまうほどうつくしい星空の中を、ライオンはゆっくりと泳ぐように、優雅に、飛行しました。流れ星がいくつも、落ちては消えてゆきました。下に目を向けると、数え切れないほどの光る石が底に敷きつめられたおおきな泉が、青白く輝いていました。ラクラミキオアラはそれを見て、"あの泉は、まるで地球みたいだ"と思いました。数え切れないほどの物語をやさしく抱きしめている青い地球の上を、ラクラミキオアラたちを乗せたライオンは、ゆっくりと、ゆっくりと、飛んでいました。

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