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33 トカゲのトラウマ

※『不思議の国のアリス』のネタバレを含みます。あらかじめご了承下さい。

 ラクラミキオアラたちが囲んで座っていたおおきな丸いテーブルの上には、様々な料理やお菓子、飲みものが並べられていました。ガブリエラは笑顔で「どうぞ、召し上がれ」と言ったあと、自分は椅子に座らず、どこかに行ってしまいました。それでラクラミキオアラたちは、お菓子を食べながらモモと話したりしていたのです。

「このタルト、美味(おい)し〜い!」

 そう言って、真向かいに座っているエレナの顔を見たときラクラミキオアラは、エレナが凍りついたように固まって、自分の方を見ていることに気づきました。しかしエレナはラクラミキオアラと目を合わせているわけではありませんでした。エレナの視線はラクラミキオアラのすぐ横を通り抜けて、もっと遠くにある何かに向けられている感じでした。そしてラクラミキオアラは、ペイズリー3世やドイナ、アデラも、同じ方向を見て、同じように固まっていることに気づきました。

「ど、どうしたのっ!?みんなっ!?」

ラクラミキオアラは驚いて、そう言いました。ラクラミキオアラの隣に座っているモモも、"みんな、どうしちゃったんだろう"というような顔で小首をかしげて、ラクラミキオアラの顔を見ました。

「う、うしろ…!!うしろ…!!」

 ドイナがふるえながら、ラクラミキオアラの背後を指差しました。

「えっ!?」

 ラクラミキオアラとモモがうしろを振り返ると、10メートルほど離れたところにガブリエラがいました。その左右には二人の女の子がいて、三人はこっちに向かって歩いていました。女の子のうち一人は、白い丸襟の、可愛らしいパフスリーブの半袖ブラウスの上から、水色のギンガムチェックのエプロンドレスを着ていました。それを見た瞬間、二人が誰なのか分かったラクラミキオアラは、失神しました。そして、椅子から落ちそうになりました。

「あぶないっ!!」

 とっさにペイズリー3世が魔法でラクラミキオアラの上半身を垂直に起こしました。そしてモモが身体を支え、ラクラミキオアラは椅子から落ちずに済みました。

「あら、あら!驚かせ過ぎちゃったかしら!!」

 テーブルのところまで来たガブリエラはそう言って、ラクラミキオアラの肩に右手を乗せました。すると不思議な力によって、ラクラミキオアラは意識を取り戻しました。しかし、再び二人の女の子が視界に入ると、

「きゃ〜〜〜!!!!!」

 と叫び、口を両手で押さえました。今度はぎりぎりのところで、失神せずに済みました。ラクラミキオアラは、がたがたふるえながら、

「あ、あ、あの…その…あの…ドドドドド…ドロシーさん…と、アアアアア…アリスさん…ですよね…!?」

 と、二人の女の子に向かって言いました。

「はい!お話はききましたよっ!あなたがラクラミキオアラさんね?」

 ドロシーが笑顔で答えました。

「きゃ〜〜〜っ!!!ドロシー、大、大、大好きなの〜〜〜っ!!!」

 ラクラミキオアラが嬉しさを爆発させて、ドロシーに抱きつきました。ドロシーは、

「きゃっ!!嬉しい!!」

 と言って、ラクラミキオアラを抱きしめました。一方、アリスは、

「あっ!!タルトっ!!!わたし、ちょっとトラウマなの…タルトは…!!!」

 と言って顔をしかめました。

「すっ、すみませんっ!!」

 ドイナが慌てて、クローシュ(※皿の上にかぶせる半球状のふた)でタルトを隠しました。

「ごめんなさいねっ…!!」

 アリスが謝りました。

「無理も無いですよ!!タルト裁判、読みましたけど、ひどい目に遭いましたね!!」

 ドイナがそう言うと、アリスは着ているワンピースのポケットからトカゲを取り出して、自分の肩に乗せました。

「じゃあ、この子のことも覚えてる?」

「きゃ〜!!!そ、その子!!トカゲのビルじゃないですかっ!!アリスさんが思い切り蹴飛ばして、空高く飛んでいったビルですよね!?」

 ドイナがそう言うと、アリスではなくビル本人…厳密には本人ではなく本トカゲですが、とにかく本人が答えました。

「めちゃくちゃ痛かったぜ、あのときは!裁判のときも、陪審席に雑に突っ込まれたしな…逆さまに!トラウマって言うなら、おれの方が強烈(きょうれつ)なトラウマだよ、まったく!」

 トカゲのビルの言い方にアリスはちょっぴりイラッとしたようで、わざと肩を大きく振って、ビルを肩から落としました。そして落下したビルを、あのときと同じように、思い切り蹴飛ばしました。ビルは弧を描いて10メールほど飛んで、真紅の絨毯の上に落ちました。そして、こっちに向かって「やってられねえや!こんちくしょう!」と叫んで、大広間の出入り口の方に走っていきました。アリスは、「まて〜〜!!こら〜〜!!!」と叫びながらビルを追いかけて、結局アリスもビルも、大広間から出ていってしまいました。ラクラミキオアラは呆気(あっけ)にとられて、

「…い…行っちゃった…」

と、つぶやきました。ドイナは苦笑いしながら、こう言いました。

「ま、まあ、これで良かったような気もするね…正直…。ていうかアリスさん、巨大化してなくてもキック(りょく)、すごい…」

「あんな小さなトカゲを、あんなに上手(じょうず)に蹴るって、なかなかできることじゃないよね。道徳(どうとく)的にはちょっと問題あるけど…。あと、追いかけたときのダッシュ(りょく)も、すごかった。キック力とダッシュ力、両方ある」

「うん。サッカー選手、目指せるかも…」

 ドイナが真面目な顔でそう言ったので、ラクラミキオアラは吹き出してしまいました。それからラクラミキオアラは、女王ガブリエラに視線を向けました。

「女王さま!わたしの夢を叶えてくださって、本当にありがとうございますっ!!わたし、『物語の宝石箱』を見てみたいですっ!」

 その言葉をきいたドイナも、目を輝かせて、

「わたしもっ!!わたしも見てみたいですっ!!!」

 と言いました。

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