31 ゆっくり流れる時間
「さあ、ラクラミキオアラ。あなたの席を用意してあるわ。行きましょう」
ガブリエラはそう言って、オーケストラの演奏がよくきこえる特等席にラクラミキオアラを案内しました。そこにはモモとドイナ、ペイズリー3世、エレナ、アデラ、そしてカシオペイアの席まで用意されており、ドイナたちも執事に案内されて到着したところでした。白い手袋をはめた執事たちが彼女たちが座る椅子を丁寧な手つきで後ろに引きました。座る前にドイナが、
「じゃあ、みんな、いい?せ〜のっ!」
と言いました。
「ラクラミキオアラ、お誕生日、おめでとう!!」
森の中を一緒に歩いてきたみんなが一斉に、ラクラミキオアラに向かって言いました。そして、おそらくガブリエラが用意しておいた物なのでしょう、みんなは手に持っていたクラッカーの紐を引いて、パン!パン!と、派手に鳴らしました。きらきら光る金銀の紙吹雪が宙を舞いました。
ラクラミキオアラは驚いた顔で、
「ありがとう…ありがとう…!みんな…!」
と、潤んだ瞳で一人ひとりの顔を見回しながら、言いました。
「わたし、今日のこと、ずっと忘れないよ」
ドイナはラクラミキオアラの言葉をきいて、やさしく微笑みました。そして隣の席に座っている…というか乗っている、カシオペイアを見ました。甲羅に、文字が浮かび上がっていました。
「ワタシモ ワスレマセン」
「ラクラミキオアラ!カシオペイアも、忘れないって言ってるよ!」
ドイナがそう言うと、ラクラミキオアラが歩み寄ってきて、甲羅の文字を見ました。
「ほんとだっ!」
ラクラミキオアラはカシオペイアの頭をナデナデしました。
「わたしも、モモさんに会えて、すっごく嬉しいです!!あのっ、質問してもいいですか!?」
ドイナが目をきらきら輝かせて言いました。
「…もちろん…。…あの…呼び捨てでいいよ…。敬語も使わないで…仲良くなりたいし…」
モモが静かに、少し微笑みながら答えました。
「じゃあ、モモ!…ベッポじいさんって、どんな人なの!?あ、ベッポおじいさんって呼ぶべきなのかな。アハハハ…」
「ベッポじいさんで…大丈夫…ふふふ。本に、書いてある通り…。遠い先のことは、あえて考えないようにしている人。目の前のことをコツコツ、片付けていくの。せかせかしている人は、きらいだと思う…。彼の時間は、ゆっくり流れているの。とても、とても、ゆっくり…」
『モモ』という物語の大ファンであるラクラミキオアラ、ドイナ、エレナは、うっとりとした目でモモの言葉に耳を傾けていました。
「ラクラミキオアラ…」
「はいっ!」
ラクラミキオアラは、モモにとつぜん名前を呼ばれて、びっくりしました。
「わたしにも、言わせて…」
ふたりは真っすぐ、見つめ合いました。
「お誕生日、おめでとう」
亜空間のなかで、時間はゆっくり流れていました。そのゆっくり流れる時間の中で、ラクラミキオアラのバースデーパーティーは行われたのです。モモに会えば誰でも喜ぶのかというと、そうではありません。なんとも思わない人だって、たくさんいるでしょう。人間ひとりひとりに与えられた人生の時間は、限られています。ラクラミキオアラはその限られた時間をつかって、『モモ』という物語をなんども読んできました。そしていつの頃からか、自分でも気がつかないうちに、モモという存在が自分にとって大きな大きな存在になっていったのです。モモに会いたいという夢は、ラクラミキオアラ自身も気づかないうちに、ゆっくりと心の中で大きく育っていったのです。




