30 未来への希望、Happy Birthday
アデラと女王の間に立ちはだかったエレナに向けて、ひろげた女王の手のひらから、直視できないほど強い光が放たれ、その光は一瞬で二人を飲み込みました。光は二人をつつみこんだあと、更に激しく輝いたかと思うと、急速に弱まり、消えました。そこに現れたのは、ティリアンパープルと呼ばれる、うつくしい紫色のドレスを身にまとったアデラとエレナでした。そのドレスはベルベットという素材でつくられており、光をそのまま反射するのではなく、光を飲み込みながら反射するのです。そのベルベットならではのうつくしさを女王は愛していました。
「こ、このドレスは、いったい…。どういうことですか?女王さま!?」
涙で頬を濡らしたアデラが、ききました。エレナも、驚いた顔でドレスから女王の顔に視線を移しました。
「二人とも、わたしのこと、そんなに怖くて厳しい人だと思ってたの!?まあ、確かに厳しいところもあるけど…お互いのことをそんなに強く、誠実に想い合っているあなたたちを、罰したりしないわよ!わたし、魔王じゃないんだからね!?」
そう言って女王は、おどけた表情で微笑みました。
「そのドレスは、これから始まるパーティーのためのドレスよ」
そう言われた二人は、きょとんとした顔になりました。
「パーティーって…何のパーティーですか?」
エレナがきくと、女王はにやりと笑みを浮かべました。
「ラクラミキオアラの、バースデーパーティーよ」
「えっ!?ラクラミキオアラの誕生日って、今日なんですか!?」
「そうよ。きっとあの子、おうちに帰ったら夜は家族とバースデーパーティーよ。でもね、ここは亜空間で、時間の流れる速さが向こうの世界とは違うでしょ?こっちでゆっくりパーティーを楽しんでから帰っても、余裕で間に合うわ。なんなら、一週間こっちで過ごしてから帰っても問題無いくらいよ」
女王はそう言って笑いました。
「ペトリファイドウッドで交信したときに、わたしは、あの子がとてもきれいな心をもっている女の子だと分かったわ。私なんかより、ずっとね。あの子は自分のことより人のことばかり考える子だから、わたしに言うのを忘れたまま交信を終えたんだけど、あの子が叶えたいと思っている夢が何なのかも、分かったの」
「『物語の宝石箱』を使って、大好きな物語の主人公たち…モモやドロシーに会うこと、ですよね」
エレナの言葉に、女王はうなずきました。そして、いたずらっぽい笑みを浮かべながら、
「あのね、これを言ったらきっと、あなたたちも、びっくりすると思うんだけどね」
と言いました。
「えっ?何ですか?びっくりすることって」
エレナは、女王が何を言い出すのか予想できず、びくびくしながら、ききました。
「実はもう、モモには、宝箱から出てきてもらってるの」
「え〜〜〜っ!!!!!!!」
エレナとアデラは驚きのあまり、とても大きな声で、同時に叫んでしまいました。アデラも子供のころ、エレナに強くオススメされて、『モモ』と『オズの魔法使い』を読んだことがあったのです。
エレナはラクラミキオアラに負けないくらいの"物語好き"で、子供のころ、ガブリエラに「『物語の宝石箱』を使って、モモやドロシー、アリスに会わせてよ〜」とお願いしたことがありました。しかし『物語の宝石箱』は、ただ開けて名前を呼べば簡単に物語の登場人物が出てくるものではないのです。宝石箱の中にいる登場人物たちと心で話し、説得をして、出てくることを承諾してもらわないと、出てきてもらえないのです。『物語の宝石箱』の所有者であるガブリエラは、そのことを"ホラのルール"と読んでいました。
ホラというのは『モモ』に登場する人物、「マイスター・ホラ」のことです。ホラは『モモ』という物語の中で、「人は、自分の時間をどうするかは、自分で決めなくてはならない」「自分の時間が盗まれないように守ることも、自分でしなくてはならない」と言います。ホラは、時間をつかさどる存在です。『物語の宝石箱』は、「それぞれの登場人物にも、自分の時間をどうするか、自分で決める権利がある」という考えに基づいて作られています。なので、登場人物が「会いたくない」と思っているのに、無理矢理ひっぱり出すことは出来ないのです。
そしてエレナとガブリエラは昔、何度かモモ、ドロシー、アリスの三人に出てきてもらおうと説得をこころみたことがありましたが、すべて失敗におわりました。その三人のことをエレナとガブリエラは、「チェレ・トレイ・フェテ・レジェンダレ」つまり「伝説の三人の女の子」と呼んでいました。その三人は、それぞれ違う理由で、出てきてもらうのがとても難しかったのです。
まずアリスですが、アリスは退屈だったからという理由で白ウサギを追いかけて、そのせいで大変な目に遭いました。異世界で散々な目に遭った経験を持っているので、三人の中でも、特に出てきてもらうのが大変な人物でした。
次にドロシーですが、ドロシーはハリケーンで家ごと飛ばされて、カンザスに帰りたいのに帰れない経験をした人です。なので、知らないところに行くことに対して、アリスと同じような警戒感を持っていました。なので、アリスほどではありませんが、出てきてもらうのがなかなか難しい人物だったのです。
最後にモモですが、『モモ』が何を描いた物語なのかは、読んだ人ひとりひとりが感じたり、考えたりすることです。その解釈は自由であるべきです。ラクラミキオアラは『モモ』を読んで、「時間とは何なのか」「時間を無駄にしない生き方とは、どういう生き方なのか」「本当の豊かさとは何なのか」を描いた物語なのではないか、と感じました。モモにはジジとベッポじいさんという二人の親友がいますが、三人の生き方に共通して言えるのは、「大勢の人よりも目の前の一人を大切にする」「全てを手に入れてそろえても、幸せにはなれない」「時間を節約し、無駄を無くそうとすればするほど、人生は痩せ細っていく」という考え方です。ジジは、お金持ちになりたい、有名になりたいという気持ちを持っていて、一度は間違った方向にいきかけましたが、途中で、間違っていることに気づきました。
『モモ』はそういう物語なのに、そのことを分かっていない人間が『物語の宝石箱』を使ってモモを呼び出し、モモをちょっと嫌な目に遭わせていたのです。それについて説明をすると少し長くなるのですが、どうか、少し我慢をして読んで下さいね。
そのことについて説明するには、まず、『物語の宝石箱』とは、そもそもどうやってできた物なのかを説明しなければなりません。
『物語の宝石箱』は、森の女王ガブリエラの祖母にあたるコドルツァという先々代の森の女王が、天才的な魔法工芸職人であるラドゥに命じて、作らせたものです。そのときラドゥは、コドルツァには言わずに、ひそかにあと二つ、『物語の宝石箱』を作っていたのです。つまり合計で三つ作り、そのうちのひとつをコドルツァに献上しました。残りの二つをラドゥは、「これを手に入れたことは、決して誰にも言わないように」と念を押して、二人の大富豪に売りました。大金を得るためにです。
購入した大富豪のうちの一人は当時、ルーマニアにいたミハイという男性です。この男性は働かなくても生きていけるほどの大富豪だったので、自由に使える時間のほとんどを読書と語学の勉強に費やしていました。特に日本語の研究に熱心で、日本の小説も愛していたので、夏目漱石の『吾輩は猫である』の語り手の猫を宝石箱から出して、喜んだりしていました。ただ、出してみると「ニャ~」と鳴くだけで日本語を話したりはしなかったので、彼はがっかりしたようです。
もう一人の購入者は、その当時、たまたま仕事でルーマニアに来ていた、エマという女性です。この女性は貿易会社を経営していて、毎日とても忙しく働いている人物でした。物語がとても好きというわけではなかったのですが、ラドゥが宝石箱から『クリスマス・キャロル』のスクルージを出したのを見て、「信じられない!これ、欲しい!」と言って購入したのです。
エマはそもそも、知っている物語の数が少なかったので、モモを何度も宝石箱から出していました。出すと言っても、説得をして承諾してもらわないと出てきてもらえないので、「モモ!お願い!出てきてよ〜!」などと言って、何度も説得をしていたのです。そういうときのエマは、お酒をのんで酔っていることも多かったので、出てきたモモは、何を言っているのかよく分からない愚痴のようなものを聞かされていました。ときには、「わたしは、世界一の大富豪になってやる!」「全てを手に入れてみせるわっ!」などとモモに向かって言うこともあったので、さすがにモモは「もう、嫌だ」と思って、エマに限らず、宝石箱を開けた人が自分の名前を呼んでも、無視するようになってしまったのです。実際、夏目漱石好きのミハイも、モモに呼びかけて無視されたことがありました。宝石箱は世界に三つありますが、中の世界はひとつに繋がっているのです。だから、三つの宝石箱から三人のモモが出てくることは絶対にありませんし、三つのうちの二つから二人のモモが別々に現れることも絶対にありません。
モモ、ドロシー、アリスの三人に宝石箱から出てきてもらうことの難しさを知っていたエレナは、目を丸くして、
「よ…よく、出てきてもらえましたね。なんて言って説得したんですか!?」
と、ガブリエラにききました。
「たくさん言葉をかさねて説得したわけじゃないのよ。シンプルに、"モモ〜!!あなたに、すごく、すごく会いたがっている女の子がいるの〜!!"って叫んだの」
「なるほど…。ストレートに、シンプルに言ったのが良かったんですかね」
「たぶん、そうだと思う。わたしも、本当に、ラクラミキオアラを喜ばせたいっていう気持ちだけで叫んだから」
「それで…女王さま、どうなさいますか?ラクラミキオアラをここに連れてきましょうか?」
エレナの問いかけにガブリエラは、
「いえ。わたしね、ちょっとしたサプライズを考えているのよ」
と、再びいたずらっぽい笑みを浮かべて答えました。ガブリエラは「ちょっと待っててね」と言ってエントランスホールを離れ、奥の部屋に入っていきました。そして、しばらくして戻ってきたときには、ある生き物と一緒でした。その生き物を見たエレナとアデラは、
「こ、この子はっ!!!まさかっ!!!」
などと言って、大興奮していました。
「この子に行かせるわ。わたしはもう一度、ドロシーとアリスを説得してみる。ラクラミキオアラたちが入ってきたら、左の廊下の突き当たりの大広間に案内してね」
ガブリエラはそう言って、大広間に向かいました。
ラクラミキオアラたちはお城から少し離れた場所で、お城の大きな扉が開くのを待っていました。
「エレナさんたち、何してるのかな…?お城に入ってから、もう結構経つよね?」
ペイズリー3世がそう言って、ラクラミキオアラの顔を見ました。
「きっと、そろそろ出てくるよ…」
ラクラミキオアラがそう答えた、まさにそのとき、お城の扉がゆっくりと開きました。しかし、人影は見えませんでした。
「あれ…?誰も出てこないね…?」
ドイナが不思議そうな顔でつぶやきました。
「うん…」
ラクラミキオアラは返事をして、そのままお城の方を見つめていました。しばらくしてから、
「あれ…!?なにか、歩いてる?」
と言いました。3世が、
「誰もいないよ」
と答えると、
「ちがうの、人じゃなくてさ…地面の方に、何か見えない?動いてる塊みたいな物が」
3世は目を凝らして、ラクラミキオアラの視線が向いている方を見ました。
「ん…?何だ、あれ。亀か!?」
ペイズリー3世のその言葉をきいた瞬間、ラクラミキオアラは、いま自分が見ている動く物体が、森の女王ガブリエラのサプライズであることと、その物体が何であるかを察し、感動でふるえました。がたがたふるえるラクラミキオアラの目からは、涙がとめどなく流れ落ちていました。
「カシオペイアだよ…あれ…!モモといっしょに、灰色の男たちから時間を守った…亀のカシオペイアだよ!!」
ラクラミキオアラはカシオペイアに向かって駆け出しました。そして目の前まで来たとき、
「あなたに会えるなんて…夢みたい…!!!」
と、カシオペイアの顔を見て言いました。カシオペイアの甲羅に、ほんのり光る文字が浮かび上がりました。
「ワタシモ アナタニ アエテ ウレシイデス」
ラクラミキオアラは、ぽろぽろ涙を落としながらカシオペイアの頭をやさしく撫でました。
「オシロノ ナカニ イキマショウ」
甲羅に浮かび上がった新しいメッセージを読んで、ラクラミキオアラはペイズリー3世たちに、
「行こう!お城に!」
と言いました。
一行は開けられたままの扉から、お城の中に入りました。中には、ベルベットのドレス姿になったエレナとアデラがいました。その横にはガブリエラの側近の一人である、女性の魔法使いが立っていました。
「みなさま、はじめまして。わたくし、シルビアと申します。女王さまのご命令で、みなさまに魔法をかけさせて頂きます。まず、みなさまを元気にする魔法です。疲れていらっしゃるでしょうから。よろしいですか?」
ラクラミキオアラたちは、少し戸惑った表情で、お互いの顔を見ました。特に反対する人はいなかったので、ラクラミキオアラが、
「じゃあ、お願いします!」
と言いました。自分も魔法使いであるペイズリー3世も含め、全員に魔法がかけられました。森の中を歩いてきたのでみんなとても疲れていましたが、その疲れが一瞬で吹き飛んで、とても元気になりました。着ていた服も、洗濯をしたかのように、きれいになりました。疲れがとれたのはバズムも同じだったようで、嬉しそうな声で「ニャ~」と鳴きました。
「次は、お洋服です。女王さまは、パーティーを開くおつもりです。よろしければ、女性の方はドレスに、男性の方はタキシードに、お洋服を魔法で変えさせて頂きますが…どうなさいますか?」
「わ、私は大丈夫ですっ!このお洋服、すっごく気に入ってるんです!もしもモモと…モモと会えるのなら、このお洋服で会いたいんですっ!」
ラクラミキオアラはそう答えました。ドイナは、
「私は、ドレス着てみたいからお願いしますっ!」
と言い、3世も、
「おれも、タキシード着てみたい!お願いします!」
と笑顔で答えました。
「承知致しました。それでは、失礼致します」
そう言って、シルビアは二人に魔法をかけました。ドイナはミッドナイトブルーの、うつくしいベルベットのドレス姿になりました。3世は光沢感のある黒のタキシードです。
「おお〜!最高!!」
と言って3世は喜びました。ドイナも、
「きゃ〜!うれし〜い!!」
と、女の子らしくはしゃいでいました。
「ドイナ、すっごく可愛い!!!3世も、かっこいいよ!!」
ラクラミキオアラにそう言われた二人は、照れながらシルビアに「ありがとうございます!」とお礼を言いました。
「それでは、みなさまをパーティー会場の大広間に、ご案内致します!」
雰囲気を出すために、エレナはふだんよりも丁寧な言葉遣いで言いました。少しおどけた顔をしていました。
廊下を真っすぐ進んだラクラミキオアラたちは、大広間の入り口の前まで来ました。カシオペイアに会わせてくれたガブリエラが、次に会わせようとしているのが誰なのか、ラクラミキオアラには分かっていました。だから、扉が開かれる前から、彼女の目からは涙が流れ落ちていました。ずっとずっと、長い間、会うことを夢見てきた女の子が、扉の向こうにいる。そう思うと、涙がとまりませんでした。
扉の両脇に立っていたガブリエラの執事が、ゆっくりと扉を開きました。
縦も横も三十メートルくらいはありそうな、とても広い部屋でした。床には真紅の絨毯が敷かれ、天井からは大きなシャンデリアがいくつも、吊り下げられていました。遠くの方にはオーケストラがいて、モーツァルトの『フィガロの結婚』を演奏していました。しかし、ラクラミキオアラにはその音はほとんどきこえていませんでした。彼女の意識は、広大な部屋の真ん中で、背中を向けて立っている一人の小さな女の子に集中していました。髪はくしゃくしゃで、服はぼろ。後ろ姿であっても、それが誰なのかは明らかでした。
ラクラミキオアラはゆっくりと、その女の子の方に向かって、歩き出しました。一歩一歩、踏みしめるたびに、ラクラミキオアラは『モモ』のいろいろな場面を思い出しました。ラクラミキオアラにとって『モモ』は、生きていくうえで一番大切なことを教えてくれた、大切な大切な本でした。そしてラクラミキオアラは、モモのことが、言葉では言い表せないほど大好きでした。モモだけではありません。ジジも、ベッポじいさんも、カシオペイアも!
「モモ!」
ラクラミキオアラは、背中を向けているモモに声をかけました。モモの肩が、びくんと少し跳ね上がりました。
「わあ!びっくりした」
振り返ったモモは、そう言ってラクラミキオアラの顔を見ました。
「あなたが…ラクラミキオアラ?」
「うん!」
「わたしに、会いたがっている女の子がいるって、きいたの。それで、ここで待ってたの」
モモは、そう言って微笑みました。
「待たせちゃって、ごめんなさい…!」
「…なんで、泣いてるの…?」
「ごめんなさい、あなたに会えたことが、あまりにも嬉しくて…」
ラクラミキオアラがそう答えると、モモは、
「ふ〜ん…そうなんだ?」
と、とても嬉しそうな顔で言いました。そして、ラクラミキオアラの手を取って、
「あの人たち、もっと近くで見てみたい!一緒に行こ!」
と言って、ラクラミキオアラをオーケストラの方に連れて行きました。そのあとを、カシオペイアがのそのそ歩いて、ついて行きました。
モモと並んでオーケストラの演奏を聴いていたラクラミキオアラの肩を、後ろから誰かがトントンと叩きました。振り返ると、女王ガブリエラが立っていました。
「あっ…!」
「はじめまして。ラクラミキオアラ」
「女王さま…ありがとうございます…わたし…何てお礼を言えばいいのか…本当に、本当にありがとうございますっ!!」
涙を流しながらお礼を言うラクラミキオアラの顔を、女王はやさしい目で見つめました。
「ラクラミキオアラ…わたしは、あなたが今まで、どれだけ頑張ってきたか、よく分かっています。あなたは、自分が悩んでいるときでも、辛いときでも、いつも明るさを忘れずに、笑顔を絶やさずに生きてきましたね。それは、何よりも素晴らしいことです。あなたは知らないでしょうけれど、あなたの笑顔で救われた人は、たくさんいるのです。その人たちは、辛いとき、苦しいとき、いつもあなたの笑顔を思い出しているのです。そして、あなたのような人になりたいと思って、いろんな壁を乗り越えていくのです。あなたはまだ大人ではないけれど、そんなことは関係無いのです。自信を持ちなさい、ラクラミキオアラ。あなたは太陽のように、周りの人達を照らし、未来への希望を与えているのです。まるで、モモやカシオペイアのように…。わたしはこれからもずっと、ずっと、あなたの味方です。どんなときでも、あなたは一人ではありません。わたしは、どんなときも、あなたを応援しています。それを、決して忘れないで。…誕生日おめでとう、ラクラミキオアラ」
女王はそう言って、ラクラミキオアラをやさしく抱きしめました。
「女王さま…ありがとうございます…」
ぽろぽろ涙をこぼしながら女王の胸に顔をうずめていたラクラミキオアラは、足首に何かが触れたのを感じて、下を見ました。そこにはカシオペイアがいました。甲羅に、ほんのり光る文字が浮かび上がりました。
「オタンジョウビ オメデトウ」
嬉しそうに笑ったラクラミキオアラの頬から、カシオペイアの頭の上に、涙がひと雫落ちました。カシオペイアは目をぱちくりさせていました。




