27 ガブリエラの城
「さ、アデラさん。乗って!」
ラクラミキオアラは、小さくなったアデラのすぐ横に手のひらを広げて言いました。アデラは、
「ありがとう!」
と大きな声でお礼を言って、手のひらに乗りました。最初は手のひらの上で立っていましたが、そのまま持ち上げて、アデラが落ちたら大変だと思ったラクラミキオアラは、
「アデラさん!ちょっと、横になって!」
と言いました。アデラはうなずいて、横になりました。揃えた指がちょうど背もたれの役割をはたしアデラの姿勢が安定しているのを見て、"これなら落ちる心配は無さそうだ"とラクラミキオアラは思いました。しゃがんでいたラクラミキオアラは慎重に立ちあがり、ゆっくりと手をポケットの中に入れました。ポケットの中を覗きこみ、アデラが手から降りたのを確認して、慎重に手をポケットから出しました。アデラは無事、ラクラミキオアラがお母さんに作ってもらった"モモ風"ワンピースのポケットに入りました。ラクラミキオアラはポケットの中のアデラに向かって、
「アデラさん!居心地どう?わるくない!?」
とききました。アデラは高くあげた右手の親指を立てて、
「だいじょ〜ぶ〜!」
と大きな声で言いました。ラクラミキオアラは笑顔でうなずいて、ドイナや3世たちに、
「じゃあ、森に向かって、あらためて、しゅっぱ〜つ!」
と言いました。
歩き続けたラクラミキオアラたち一行は、いよいよブランの森に入りました。森の中の"道無き道"を歩いて進むのは大変なことですが、ラクラミキオアラたちには、頼れる仲間がいました。
まず黒猫のバズムです。バズムは先頭を歩き、道案内をしてくれました。樹齢千年を超える黒檀の精霊であるバズムは、世界中の森を知り尽くしています。なので、ラクラミキオアラたちを女王ガブリエラのところまで案内するくらいのことは、彼にとっては簡単でした。
魔法使いの天才少年であるペイズリー3世は、魔法でみんなの靴を、登山用の靴に変えてくれました。"この冒険が終わったら、ちゃんと元の靴に戻してやるからな!"と彼が言ったので、みんなは安心しました。ラクラミキオアラとドイナの二人は、"お気に入りの靴が登山用の靴になって、ずっとそのままっていうのは、ちょっと嫌だなあ…"と思っていたので、特に安心しました。3世がしたことはそれだけではありません。彼はバズムの後ろ、つまり前から二番目の位置で歩いて、魔法を使い、大きめの石があったらそれを脇へ移動させ、歩きにくい窪みがあったら周りにある小石や落ち葉をその上に移動させ、できるだけ平坦にして、みんなが歩きやすいようにしました。
「ねえ、ペイズリー。そんなに何度も魔法を使っていたら、疲れるんじゃない?懐中時計に乗れば?」
ラクラミキオアラがそう言うと、ペイズリー3世は、
「いや、森の中であれに乗ると、樹を何度もよけながら進まないといけないし、バズム君より速く進むわけにはいかないから、ゆっくり移動することになるでしょ?そうすると、余計疲れちゃうと思う。巨大化させた懐中時計を浮かせてるだけでも、少しずつ体力を削られてる状態になるからね。あれは高速で短時間、移動するのには向いてるんだけど、その逆は向いていないんだ」
と説明しました。
「なるほど…そうなんだね。疲れて休みたくなったら、ちゃんと言ってね。休憩は大事だよ!」
「うん。ありがとな!」
3世はそう答えて微笑みました。
森の中を歩き始めて二時間ほど経ったとき、バズムが急に歩くのをやめて止まったので、みんなも立ち止まりました。
「あれ?バズム君、どうしたのかな」
ラクラミキオアラがそう言うと、エレナが、
「いま、心の中で、女王さまの声がきこえたような…。ちょっと待ってね」
と言って、ポケットからペトリファイドウッドを取り出しました。
「あ…それ、持って来ていたんですね」
3世がそう言うと、エレナはうなずきました。
「ええ。これは女王さまと交信するときに使うもので、手のひらを当てると一番よく女王さまの声がきこえるんだけど、ポケットに入れてるだけでも、一応、交信することはできるの。ただ、それだとちょっと、声がきき取りにくいの」
エレナはしゃがんで地面にペトリファイドウッドを置き、その上に開いた両手を重ねて、目を閉じました。
「エレナさん、いま女王さまとお話してるのかな」
ドイナがラクラミキオアラの耳元で、小さな声で言いました。
「たぶん、そうだろうね。何を話しているんだろうね」
とりあえずエレナと女王さまの会話が終わるのを待つしかないので、ラクラミキオアラたちは近くにあった倒木に腰掛けて待ちました。五分ほど経ったとき、エレナが目を開け、ペトリファイドウッドを拾い上げて立ち上がりました。
「いま、女王さまとお話することができて、バズムが立ち止まった理由が分かったわ!バズムは不思議な力を持っているから、女王さまと常に交信しているような感じなの。だから女王さまの方も、バズムが考えていることは大体、分かっちゃうの」
「えー!そうなんですか?バズム君、どうして立ち止まったんですか?」
ラクラミキオアラが驚いて、ききました。エレナは真面目な顔でこう、答えました。
「疲れたから、だそうよ!」
ラクラミキオアラたちは一斉にずっこけました。
「わたしたちも疲れたし、ちょっと休憩しよっか」
とドイナが言って、みんなで休憩することになりました。
「他にも色々、女王さまと話したの。まず、みんな門限のこと、気にしてるでしょ?」
エレナがそう言うと、ラクラミキオアラが、
「あ、はい!早めに帰らないとおかあさんたちが心配しちゃうんですけど、今日は早く帰れそうにないので、どうしようかと思ってました!」
と答えました。
「門限のことは気にしなくて大丈夫。女王さまが暮らしている場所は、ブランの森の中にあるのだけれど、ブランの森とは全く違う場所であるとも言える場所なの」
「え!?それって、どういうことですか?」
3世がききました。
「亜空間って呼ばれている場所なのよ。そこでは時間の流れ方が、この、わたしたちが暮らしている世界とは全くちがうの。向こうの世界、つまり女王さまが暮らしている場所で一週間過ごしても、こっちの世界では七秒くらいしか経っていないの」
「えー!一日が一秒になるってことですか!?」
ラクラミキオアラが驚いて、ききました。
「そういうこと。それにバズムは、今は黒猫の姿をしているけれど、ものすごく大きな鳥になったり、小さなリスになったり、何にでもなれるそうよ。だから、大きな鳥になったバズムの背中に乗れば、あっという間に帰れるわ。帰れるし、女王さまのところにも、あっという間に行けるそうなの。わたしもそのことは知らなかったから、驚いて思わず"え〜!じゃあ、もしかして本当はわたしたち、歩く必要無いんですか?"って女王さまに、きいちゃったのよ」
「何て言ってました?女王さま」
ラクラミキオアラの質問に、エレナはこう答えました。
「"そうよ!でも、それじゃ冒険にならないから、つまらないでしょ"って、おっしゃっていたわ」
みんなは再び一斉にずっこけました。
「大きな鳥になったバズム君の背中に乗って大空を飛ぶって、むしろ、ものすごく物語の中の冒険って感じがするけど…!」
ドイナがそう言うと、みんなは同感してうなずきました。
「大丈夫よ!あと少しで亜空間に入るための入り口に着くわ。どうせ飛ぶなら、亜空間の世界で飛んだ方が、見たことも無いような景色を観ることができて、楽しいわよ!」
エレナの言葉に、ラクラミキオアラたちは目を輝かせました。
休憩を終えたラクラミキオアラたちは、再び歩き始めました。そしてしばらく経ったとき、とても大きな橅の樹の前でバズムが立ち止まりました。
「ニャ~」
右の前足で樹に触れて、ラクラミキオアラたちの方を見ながらバズムは鳴きました。
「間違いないわ。この橅の樹が、わたしたちを女王さまがいる亜空間に連れていってくれる樹よ。バズムが樹と交信して、女王さまが暮らしている亜空間への入り口を開いてくれるの」
と言いました。バズムは、右前足をずっと樹の表面に当てていました。
二分ほど経ったとき、高さが五十メートル以上にもなる橅の巨木と、それに前足を当てているバズムの身体が、同時に白く光り始めました。その光はどんどん強くなり、周りにいたラクラミキオアラたちを飲み込んで、彼女たちは光の中で、まぶしくて何も見えない状態になりました。
「きゃ〜!どうしちゃったの?これ〜!」
ドイナが叫びました。その直後、光は急速に弱まっていき、十秒ほどで完全に消えました。そしてラクラミキオアラたちの周りには、さっきまでいたブランの森とは、まったく違う景色がひろがっていました。
夜のように暗いのだけれども、ふつうの夜とは違っていました。空に浮かぶ月は、ラクラミキオアラたちが見慣れている月よりもはるかに大きく見えました。その大きな月が白く輝いているので、夜なのに、それほど暗くありません。世界全体が月あかりに照らされて、青白く輝いて見えました。周りには樹がたくさん生えていましたが、それらの樹も月光に照らされて、きらきらと青白く輝いていました。空には月だけでなく、数え切れないほどたくさんの星が輝いていました。
地面はブランの森よりもずっと平らで、ラクラミキオアラたちは、とても歩きやすく感じました。少し離れたところに樹があまり生えていない広い公園のような場所があり、その真ん中に、長さがばらばらの鉛筆を集めて直立させたような形の、白いお城がそびえたっているのが見えました。そのお城に視線を向けながら、エレナが言いました。
「あれが、森の女王ガブリエラさまのお城よ」




