26 修行をしたからできたこと
「じゃあ、3世。アデラさんを魔法で小さくしてくれる?」
ラクラミキオアラがそう言うと3世は、
「それは別にいいんだけど、なんで小さくしてポケットに入れる必要があるの?このまま一緒に歩いて行けばよくない?」
と、きき返しました。
「アデラさんと一緒に暮らしてた男の人が、アデラさんを連れ戻そうとして探してるかも知れないでしょ?わたしのポケットに入っていれば、絶対に見つからない。だから、ね、お願い!」
「あ、なるほど。そういうことね!分かった。じゃあ、えっと…アデラ…さん。ちょっと魔法かけますんで、心の準備をしておいて下さい。精霊や妖精や人間を小さくするのって結構難しい魔法なんで、長めに集中しないとかけられないんです」
3世はアデラに、そう説明しました。3世は、アデラをロープで縛り上げてエレナを守ったことについて、自分は正しいことをしたのだという確信は持っていましたが、まさかアデラが一緒に森の女王のところまで行く"仲間"になるとは思っていなかったので、どう接したらいいのか分からず、少し気まずそうな様子でした。しかし、しばらく一緒にいれば少しずつ気まずさは消えていくだろうと考えていました。
「分かりました。あの…3世さん、本当に…ありがとうございます。あなたがさっき、魔法で止めてくれなかったら、わたしはもっと大きな罪を犯してしまっていたでしょう。もちろん、途中で止められたから罪が消えるわけではありません。エレナを狙ったこと自体が、大きな罪です。それでも、あなたがいてくれたおかげで、わたしは、取り返しのつかないところまで行かずに済んだのです。本当に、ありがとうございます」
アデラは目に涙を浮かべながら、3世にお礼を言いました。3世は予想もしていなかったことを言われて、少し驚きました。
「い…いえ、そんな。…あの、おれ…何て言えばいいのか分かりませんけど、ラクラミキオアラがあなたにやさしくしているのを見て、おれもこういう人になりたいって思いました。それに、あなたの話をきいて、すごく気持ち分かるなって思ったんです。おれも、人のこと羨ましく思ったり、嫉妬したり…することはありますから。たくさん!」
「えっ。3世さん、あなたくらいの年齢で、あんなに魔法を使える人って滅多にいないでしょう?それほどの才能に恵まれていても、嫉妬したりするの?」
アデラがそうきくと、3世はこう答えました。
「もちろん、ありますよ!まず、伝説の魔法使いの孫っていう立場は、結構大変なんですよ。幼いころからめちゃくちゃ大変な修行をさせられて。だから、ふつうの家に生まれた、ふつうの子供にまず、嫉妬するんですよ。羨ましい!って」
「なるほど…!3世さん、苦労しているんですね」
アデラは納得した顔で言いました。二人の会話をきいていたラクラミキオアラは、
「でも、その苦労、まったく無駄になってないよね、3世」
と言いました。
「え?なんでそう思うの?」
「だって、すごい魔法が使えるようになったおかげで、さっきも、二人の女性を同時に守ることができたんだよ?エレナさんだけじゃなく、アデラさんのことも守ったんだよ、3世は」
ラクラミキオアラの言葉をきいた3世の顔は、少し赤くなりました。
「あ…ありがとな!」
3世はそう言って、人差し指と中指の指先を揃えてこめかみに当て、目を閉じました。アデラに魔法をかけるための精神集中を開始したのです。ラクラミキオアラたちは、"本当にアデラが小さくなるのかな"と、ドキドキしながら二人の様子を見つめていました。どこまで理解しているのかは誰にも分からないのですが、バズムも行儀よく前足を揃えて座り、3世の顔をじっと見つめていました。ラクラミキオアラはそれを見て、"バズム君は、わたしたちよりももっと深いところまで、すべて分かっているのかも知れない"と思いました。
3世が精神を集中し始めて、三十秒ほど経ったときです。彼は閉じていた目を見開き、指先をこめかみから離してアデラの方に向け、こう言いました。
「フィー、ミック、スピリトゥレ!」
その瞬間、アデラの身体はまばゆい光につつまれ、見えなくなりました。数秒後、光が消えると、手のひらに乗るくらいの大きさになったアデラが、地面の上に立っていました。彼女は、
「小さくなりました〜!」
と言って、手を振っていました。本当は大きな声で叫んでいたのですが、身体がとても小さくなっていたので、ラクラミキオアラたちには、とても小さな声にきこえていました。




