25 アデラ
■登場人物■
ラクラミキオアラ…主人公の女の子。物語が大好き。『オズの魔法使い』のドロシーや『モモ』のモモなど、大好きな物語の主人公たちに会うのが夢。
ドイナ…ラクラミキオアラが本屋さんで出会った女の子。ムネアカヒタキという鳥の妖精。物語が大好き。
ペイズリー3世。…魔法使いの少年。偽名はコーネル。本名はコステル。
ペイズリー1世…3世の祖父。偽名はゲオルゲ。
ガブリエラ…森の女王。「物語の宝石箱」の所有者。物語が大好き。
エレナ…樹の精霊ドリュアスの一人だったが、人間であるアレックスと恋におち、ともに生きていくために、精霊として長く生きられる命を捨てて人間になった。物語が大好き。
アレックス…エレナの夫。ペイズリー1世の友人だが、1世よりずっと若い。これまた物語が大好き。
バズム…エレナの家で飼われている黒猫。
■物語が大好きな登場人物がやたらたくさん出てくる物語です!笑
黒猫のバズムを先頭にしてブランの森に向かって町の歩道を歩き始めたラクラミキオアラたちのまわりには通行人がたくさんいましたが、バズムをよけて歩くような動きをする人は一人もいませんでした。バズムの方が、通行人に蹴られないように、何度も身をかわしながら歩いていたのです。通行人が視線をバズムに向けることが全く無いことに気づいたラクラミキオアラは、"バズムはいま、わたしたちにしか見えないようになっているんだ。バズムが自分で調節して、そうしているんだ"と思いました。
森に向かって歩き始めて五分ほど経ったとき、ラクラミキオアラたちの後ろから、ボルドーと呼ばれる、暗い赤色のワンピースを着た女性が近づいてきました。その女性は胸につけていた弓矢の形をした銀色のブローチを外し、呪文を唱えるように、
「デヴィノ・ウン・アルク・シ・オ・サジェアタ・アデヴァラタ!」
と言って空中に投げました。空中と言っても、自分のすぐ目の前です。するとブローチは大きくなり、本物の弓と矢になりました。それをつかみ取った女性は、すぐさま構えて、弓を射る姿勢になりました。矢が向けられた先にいたのは、エレナでした。
子供ながら高い能力をもつ魔法使いであるペイズリー3世は、背後に強い妖気を感じ、
「みんな、伏せろ〜っ!!!」
と大声で叫びました。ラクラミキオアラやエレナたちはびっくりするだけで、すぐに伏せることができませんでした。間に合わないと判断したペイズリー3世は、近くにあった金物屋さんの店先に置かれていた麻のロープに目を留め、それに向かって、
「フリンギエ、プレファ・テ・イン・シャルペ!レガ・アチャスタ・フェメイエ!!!」
と、ものすごい速さで叫びました。すると、ロープは蛇のような動きで一瞬のうちに弓矢を構えた女性の腕に飛びつき、絡みつきました。
「ま…魔法使いかッ…!!!」
女性は悔しそうな顔でそう言って3世を睨みつけましたが、そのときには既に身体中にロープが絡みついていて地面に倒れ、全く身動きがとれない状態でした。エレナは驚いた顔で、震えながらその女性を見て、
「アデラ…」
と言いました。3世は、
「こいつ、アデラっていうのか?あんたの命を狙っていたんだぜ。とんでもねえ奴だよ!」
と言いました。エレナはまず、
「コーネル…いえ、コステル君。守ってくれて、ありがとう」
と、3世にお礼を言いました。そして、
「アデラは、樹の精霊ドリュアスの一人だったんです。でも、森の女王であるガブリエラさまに対して、いつも不満をもっていて、反抗ばかりしていました。そして、ある日とうとう"私はもう、こんなところにいたくない!"と言って、森を去ってしまったんです」
と、みんなに説明しました。3世やラクラミキオアラたちは、それをきいて驚き、倒れたまま声をあげて激しく泣いているアデラに視線を向けました。ラクラミキオアラは、"いたずらをして、叱られた子供みたいな顔で泣いている…"と思いました。ラクラミキオアラは、ペイズリー3世に向かって、
「ねえ、ペイズリー。この人を小さくすることって、できる?わたし、服のポケットに入れて、この人も連れていきたい…ガブリエラさんのところに。この人、根っからの悪人には見えない。たぶん、謝りたいって思ってるよ。そうでしょ?アデラさん」
ラクラミキオアラの言葉をきいたアデラは、しゃくり上げながら、
「いま、わたしが、謝りたいとか、反省してるなんて言ったって、誰も信じてくれないに決まってる!誰も、誰も…!」
と言いました。泣き続けるアデラのすぐそばにしゃがみ込んだラクラミキオアラは、アデラの顔に自分の顔を近づけて、
「わたしは信じるよ」
と言いました。
「だから、一緒に、行こう」
そう言ってラクラミキオアラは、アデラの身体に絡まっている麻のロープをやさしい手つきで、ほどき始めました。
ロープが完全にほどけ、身動きできる状態になったアデラは、立ち上がり、小さな声で語り始めました。
「わたしは…ドリュアスだったころ、エレナと同じように、人間の男性に恋をしてしまったの。それで、エレナと同じように、ドリュアスから人間に生まれ変わって、結婚をしたいと女王さまに言ったの。だけど女王さまは許可してくれなかった。あの男はとても悪い男だから、絶対にだめだと言ってね。わたしは恋をして夢中になっていたから、その男の本性を見抜くことができていなかった…今にして思えばね。わたしは人間に生まれ変わらずにドリュアスのまま勝手に森を出て、その男と暮らし始めたんだけど、その暮らしは本当に散々なもので…最悪だったわ。その男は新聞記者をしているとわたしに言っていたけど、実際は詐欺をしていたのよ。人からお金をだまし取って、そのお金で生活していたの。わたしが"もう、そんなことはやめて!"って言ったら、"うるさい!おれの勝手だ!"って、ひっぱたかれて…本当に最低よ…あいつは…」
「だからって、なんでエレナさんを弓矢で射る必要があるんだよ…エレナさんは関係無いだろ」
ペイズリー3世がそう言うと、アデラの目から再び、涙がこぼれ落ちました。
「本当にごめんなさい…女王さまに可愛がられて、人間と暮らすことも許可してもらって、人間としての名前までつけてもらったエレナが、わたしは…羨ましくて、たまらなかったの…嫉妬していたの…。もう、わたしはやけくそだったのよ…何もかも、どうでもいいって思ってしまって…あの男の家を出てきたの。でも、これだけは信じて。この弓矢は、人間を殺す力は無いのよ。少し気絶させるくらいならできるけど…」
「どっちにしても、悪いことだよ…」
ラクラミキオアラにそう言われて、アデラは泣きながら、
「エレナ…本当に、本当にごめんなさい」
と謝りました。エレナは、騒ぎが起きた直後はとても動揺していましたが、そのときには落ち着きを取り戻していて、やさしくアデラに語りかけました。
「アデラ…わたしは今でも、たまに思い出すの…あなたもわたしも、まだ小さな子供だったころ…一緒に川の流れているところまで行って水遊びをしたり、こっそりドラキュラ城にしのびこんで、かくれんぼをしたり…樹の精霊なのに、木登りをして樹のうえで一緒に歌をうたったりしたこと…。わたしは人間になることを選んだから、あなたよりも早く死んでしまうわ。でもね、わたしは、いつか死ぬときに振り返って素敵な人生だったと思えるかどうかは、長さでは決まらないと思っているの。わたしは、たとえ短くても、一日一日を大切にして、大好きな人のために生きていきたい。そうすれば、きっと後悔なんて、しないと思うの。アデラ…あなたと過ごした子供のころの思い出は、私にとって大切な、大切な、宝物。いま、私には人間の夫がいるけれど、夫との思い出の方が、あなたとの思い出よりも大切だなんて思ったことは、一度も無いわ。そのふたつは、比べられないものなの。どっちも大切な、かけがえのない宝物なの」
エレナの言葉をきいていたアデラの目からは、とめどなく涙が流れ落ちていました。
「エレナ…ごめんなさい…エレナ…」
アデラは吸い寄せられるようにふらふらと歩み寄り、エレナの胸に顔をうずめて泣きじゃくりました。エレナは、自分がこめられる全ての愛情をこめて、アデラの身体をつよく、やさしく抱きしめました。
「ニャ~」
鳴き声に驚いて二人が足元を見ると、バズムが二人の顔を見上げていました。そして、アデラの足首をペロリと舐めました。ラクラミキオアラはそれを見て、
「今のバズム君の"ニャ~"は、きっと、"悪い時期は終わった。これからは幸せな時間が待ってるニャ~"って意味だよ!良かったね、アデラさん!」
と、少しおどけた笑顔で言いました。アデラは涙を指でぬぐいながら、とても小さな声で、"ありがとう…"と言って、微笑みました。




