22 エレナの涙
■登場人物■
ラクラミキオアラ…主人公の女の子。物語が大好き。『オズの魔法使い』のドロシーや『モモ』のモモなど、大好きな物語の主人公たちに会うのが夢。
ドイナ…ラクラミキオアラが本屋さんで出会った女の子。ムネアカヒタキという鳥の妖精。物語が大好き。
ペイズリー3世。…魔法使いの少年。偽名はコーネル。
ペイズリー1世…3世の祖父。偽名はゲオルゲ。
ガブリエラ…森の女王。「物語の宝石箱」の所有者。物語が大好き。
エレナ…樹の精霊ドリュアスの一人だったが、人間であるアレックスと恋におち、ともに生きていくために、精霊として長く生きられる命を捨てて人間になった。物語が大好き。
アレックス…エレナの夫。ペイズリー1世の友人だが、1世よりずっと若い。これまた物語が大好き。
バズム…エレナの家で飼われている黒猫。
■物語が大好きな登場人物がやたらたくさん出てくる物語です!笑
「あっ、ごめんなさい!びっくりさせちゃって!」
ラクラミキオアラは一度目をひらいて、ドイナたちに謝ってから、再び目を閉じました。
"ガブリエラさん、バズムちゃんがそんな、ものすごい猫だったなんて、びっくりです!"
"うふふ…そうよね!あの子、見た目は少し貫禄があるくらいで、ふつうの猫ちゃんに見えるからね。ふふふ"
"樹齢千年を超える黒檀の樹の精霊ってことは、バズムちゃん、わたしより年上ってことですか?"
"ええ、そういうことよ。その子、千二百三十六歳だからね"
"えええ〜〜っ!!!!!"
ラクラミキオアラは再び、声をだして驚きました。
"じ…人生の大先輩だったんですね、バズムちゃん…!そうとは知らず、さっき、頭をナデナデしちゃいました…"
"アハハハ!大丈夫よ!あの子、ナデナデされるの大好きなんだから"
"そ…それなら良かったです…。それで、ガブリエラさんのところに行くには、バズムちゃんに歩いてもらって、そのあとをついて行けばいいのでしょうか?"
"ええ。それで大丈夫よ。バズムは賢いし、見える見えないの調節も自由自在なの。だから、あなたたち以外の人間からは見えないように、自分で勝手に調節してくれるわ"
"それなら良かったです。猫を先頭にして歩いている人間の集団って、なんかちょっと、変な目で見られちゃいそうですもんね!"
"アハハハ!確かにそうね!…ラクラミキオアラ、あなたって、本当に面白いわね。早く会いたいわ。早く出発してよ、お願いだから!"
"キャハハハ!ありがとうございます!じゃあ、今から出発しますね!エレナさんも連れていきますから、楽しみにしてて下さいねっ!!"
"ラクラミキオアラ、ありがとう…。この恩は忘れないわ"
ラクラミキオアラは、ペトリファイドウッドを使った森の女王ガブリエラとの交信を終えました。ちょうどそのとき、コーヒーを買いに外に出ていたアレックスが帰宅しました。ラクラミキオアラは、せっかくコーヒーを買ってきたのに、一杯も飲まずに出発したらアレックスが可哀想だと思いました。それに、エレナに大事な話をしなければならないので、待っている女王には少し悪いけれども、十分後くらいに出発しようと決めました。
「このインスタントコーヒー、お気に入りなんだ〜」
そう言って、アレックスはケトルに水を注ぎ、ガスコンロの火にかけようとしていました。それを見たラクラミキオアラは、"少しでも時間を短縮した方がいい"と考え、3世に、
「ねえ、ペイズリー。あの水を一瞬で熱湯にすることって、できる?」
と小さな声でききました。
「おいおい、このおれを、誰だと思っているんだよ。天才魔法使いのペイズリー様だぞっ?」
そう言ってペイズリー3世は右手の人差し指を伸ばして拳銃に見立て、キッチンで今まさにコンロに乗せられようとしているケトルに狙いを定めました。
「バーン!」
そう言って、片目をつむったペイズリー3世が人差し指を上に跳ね上げると、ケトルから湯気が立ちのぼりました。アレックスは驚いてケトルの蓋を開け、中を確認しました。
「うわっ!めちゃくちゃ沸騰してるっ!!!」
「キャハハハ!ペイズリー、やるじゃない!!」
ラクラミキオアラにそう言われた3世は、
「えっへん!どうだっ!これがペイズリー3世様の実力だっ!」
と、明らかに調子に乗っている顔で言いました。ラクラミキオアラは、
「エレナさんに、大切なお話があります」
と言って、真剣な顔でエレナの顔を見ました。
「えっ。わたしに?…何かしら…?」
「さっき、森の女王であるガブリエラさんと心の中で、お話しました。道案内は、バズムちゃんがしてくれるそうです。エレナさんも、いっしょに行きましょう。ガブリエラさんのところに」
ラクラミキオアラにそう言われたエレナは、とても切なそうな顔をして、少しうつむきました。そして、
「行きたいわ…でも…行くことはできないの…。"人間になる決意をしたのだから、もう、わたしのところに来てはいけない"って、女王さまに言われたの…」
エレナの目には涙が浮かんでいました。ラクラミキオアラはエレナの両手をにぎって、とてもやさしい、エレナの心をつつみこむような笑顔で、こう言いました。
「大丈夫です、エレナさん。その女王さまが、エレナさんに会いたいと言っているんです。エレナさんにそう言ったことを、後悔しているんです。エレナさんがいない毎日が、こんなにも寂しくて、むなしいものだとは思わなかったって、言っていましたよ。女王さまは」
ラクラミキオアラの言葉をきいたエレナの目から涙があふれ、こぼれ落ちました。
「さあ、行きましょう。エレナさん。女王さまが、お待ちです」
「ありがとう…ありがとう…ラクラミキオアラ…」
そう言って顔を上げ、ラクラミキオアラを見たエレナの瞳は、涙に抱かれてきらきらと輝いていました。




