第三話 ソロ最強、仲間と潜る。
ハウスの建物からダンジョンへと向かう道中。
ルアはパーティの仲間たちに気になっていたことを聞いてみた。
「みんな、随分と軽装備なんだな。そんなんで大丈夫なのか?」
その言葉を聞いて皆ポカンとしていたが、フィナが代表して口を開く。
「ルアにだけは…言われたくないかも…?」
ルアは自分の体を見下ろし、ハッとしたようにみんなに謝罪する。
現在のルアの装備はというと、黒の革製のインナーシャツに、同色同質のインナーパンツ。
その上から胸部と膝部分、脛のあたりに鉄製の小さな鎧をつけ、赤のマントを羽織っている。
それだけであった。
あとは腰に刀を刺してはいたが…。
「ほんとに。ルアくんそれで大丈夫なの…?」
今度はメイナが問う。
ちなみに彼女は、ブルーのインナーシャツにルアと同じような鎧を、しかしルアの倍ほどの数身につけていた。
と言っても、メイナでも少ないくらいで、ルアが少なすぎるのだが。
それ以外のメンバーも、全身を鉛色の大きな鎧に包んだ前衛のガルドを除けば、みんなそのような装備であった。
「俺はこれが普通だな。刀を使うとなるとどうしても、重装備や中装備は邪魔になる。素早く動けるのが俺の売りだからな。」
本来ならばどんな装備を身につけていても第16部隊が行ける程度の階層の敵であれば倒せるだろうが、ルアは実力を隠さなければならない以上、こういうしかなかった。
「そっか…。まあ大丈夫ならいいけどね?」
そんな会話をしているうちに、ダンジョン前の受付まで到達する。
「ハウス・アイギスの第16部隊です。5名入場お願いします。」
「あらら、メイナちゃん!一人増えたの?でもだからって簡単に先に進もうとしちゃあだめよ?」
受付の女の人が言った。
「大丈夫です!今日も連携確認のために来ただけですし、行っても10階層までですよ。」
「そう?ならよかった。がんばるのよ」
「はい!ありがとうございます!」
5人は各々の装備を今一度確認し、戦利品をしまう用のバックパックを後衛のアルサがもって、1階層へと足を運んだ。
初めのうち、ルアは自分がいない状態でのパーティの戦闘の観察に徹した。
自分がどこのスペースに入り、どんな立ち回りをするべきか確かめるためである。
彼にはいわゆるトラウマというものがあり、連携に対しては人一倍の恐れがあった。
それだけに、必要以上に慎重になっていた。
「ルア!そろそろ混ざったらどうだ。ポジションは俺の左側に入ろう」
オークをその斧で切り倒したあと、ガルドが声をかけてくる。
「そうだな。そろそろ入ってみよう。それからアルサ。多分今のをみている限り、この階層の骨馬くらいなら、俺もソロでも倒せると思う。次出てきたら俺に任せてもらってもいいか?」
一人で倒せる魔物を教えると約束したアルサに、ガルドの声かけに同意しながら伝える。
「わかった。次出てきた骨馬はルアに任せてみよう。」
「助かる。ありがとう。」
5人での連携は、まず問題なかった。
初めはためらいを見せていたルアも、数匹のオークを倒しているうちに慣れてきたのか、素早く動くようになった。
そもそもがルアのパーティへのトラウマは、人間関係からきている。
戦闘のみであれば、ソロの時にも周囲の冒険者と協力してボスモンスターを倒したこともしばしば。
冷静に考えれば、特に問題はないのだ。
一方、ルア以外の4人は、内心驚きを見せていた。
ルアは、申請書を見た限りではまだ駆け出しで、冒険者登録を終えてからまだ二ヶ月程度しか経っていなかったはずだ。
にもかかわらず、彼は馬力こそ足りなくとも、そのスピードが段違いであった。
手数に物を言わせ、確実に前衛としての役割を果たしていた。
『ゴオォォォォォォォォォォォ』
ダンジョン入場からおおよそ1時間。
ルアが戦闘に参加してから7匹目のオークが、地面に倒れて灰となった。
「やるじゃんルア!こんなに強いとは思ってなかったよー。」
「ほんとだぜ!スピードなんて俺より早かったぞ!」
フィナとガルドが口々に褒め、メイナが微笑ましそうにその光景を眺めている中、ただ1人、アルサだけが、何か怪しむような目つきでルアを見つめていた。
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「結局骨馬は出てこなかったね」
「まあだが代わりにオークはソロで倒してくれたしよ。それにあのスピードがあれば俺たちに遅れを取ることはまずないし、なんなら俺らが必死に追いかけないといけないかもってくらいだ。それが分かっただけでも十分だろ。」
「そうだね!いやあそれにしても、ルアくんつよかったね…」
ルアが別れたあと。
フィナとガルド、メイナが会話する中、相変わらずアルサだけは悩むような顔をしていた。
そんなアルサを見ていたフィナが、口を開く。
「どうしたの?アルサ。途中から無口だったし、今もなんか考え事?してるじゃん。ルアのこと?」
アルサは、少しの間無言で仲間たちの顔を見渡したあと、口を開いた。
「……。みんなはおかしいとは思わなかったか?あれは絶対に2ヶ月で身につく動きじゃない。それに、しなくてもいいと言ったのは俺な手前言いにくいが、ステータスの開示をしなかったことも、あの時言葉に詰まっていたことも気になる。どうしても、ルアは何か隠し事をしているのではと思ってしまうんだ。」
「つまり……。つまりアルサは、ルアくんが実力を偽っていて、それを隠すためにステータスを開示しなかったと思ってるってこと?」
「そうなるな…。魔法とかスキルにコンプレックスを抱えているからステータスを見せたくない、なんて人もいることはわかっているし、もし実力を偽っているとしても、何か理由があるのだろうというのはわかっているんだがな…。」
「そうだよ!まだ出会ってから最初の日を含めても2回しか会ってないけど、ルアくんはそれでもわかるくらいいい人だし。何か事情があるなら、それを話してもらえるくらいにまで信用されるように頑張ろうよ!」
「そうだな。そうしよう。」
メイナの言葉を聞いて吹っ切ったかのように、アルサも言った。
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「おはよう。」
「おはよう、ルア。」
アルサが笑顔で出迎える。
今日は休息日ということで、第16部隊の寮に集まることになっていた。
アイギスは各部隊に寮を設けており、希望するパーティメンバーは自分のパーティの寮で生活することができる。
第16部隊は、アルサとフィナがこの寮を使用している。
尚、男女同室であるだけにトラブルも多いんだとか…。
「ルア、昨日はすまなかった。もう他のみんなには既に来ているから先に謝罪したんだが、昨日は少し途中から体調がすぐれなくてな。最後の方態度が悪かっただろう。」
「そうだったのか。俺こそすまなかった。何か様子がおかしいとは思っていたんだが、あまり気にかけていなかった。今日はもう大丈夫なのか?」
「ああ。大丈夫だ。入ってくれ。」
ルアが寮の部屋の中に入ると、そこには既に集まっている他のメンバーの姿があった…のだが。
みな、ルアを見て呆然としている。
やはりここでも、フィナが代表して口を開いた。
「ちょっとルア…。その服装、昨日の探索の時と全く同じじゃない…?」
「ああ。まあこのマントは愛用しているしな。インナーも同じのをたくさん持ってる。探索じゃないから鎧は外したぞ?」
「インナーって戦闘用のじゃ…。」
「戦闘用も私服もそんな変わらないだろってスタンスでこれ以外持ってない。」
「えぇ…」
「まあまあ、服装なんていいじゃねえかフィナ。それより、メイナに今日集めた理由を教えてもらいたいな俺は。昨日の反省会とかか?」
ガルドの問いに対してメイナは神妙な面持ちで答えた。
「実は、みんなに話さないといけないことがあるの。大事な、話…。」
内容を悟ったルア———ゼノは、他の仲間たちがメイナのそのくらい顔に不思議そうにする中、1人メイナをじっと見つめていた。




