俺を信じてくれ〈三日月〉
「はぁ~‥‥‥」
俺はふらふら立ち上がり、小雪のいるシャワー室に行った。
「おやじ、戻ったから」
小雪はシャワーを止めて出て来た。
「ありがとうございます。助かりました。あの‥‥‥シャワーの音で全然聞こえませんでした。旦那様は何しにいらしたのですか? 私のこと、何か? さっき強引に下がってしまったから気を悪くされていませんでしたか?」
‥‥‥こいつ、本当にわかってねーのかよ? 自分の危機一髪に。自分が周りからどう見られてるかって事に。
あのこと、屋敷中のみんな知ってるんだぜ?
大人のやつら、女の印が来ちまったら、もう手を出していいと思ってやがる。
ずばって言うしか無いよな? 放置してたらまたいつ罠にかかっちまうかわからない。
「‥‥‥小雪、だからしっかりしろよ! 俺がこんなに体張っておやじに対抗してんのに。お前、おやじに狙われて危機一髪で俺に助けられたんだろ?」
「狙われて‥‥‥? 何を‥‥‥?」
「バカ、おやじは小雪を愛人にするつもりだ」
「‥‥‥へっ? あっ、愛人っ、あっ‥‥‥?」
「へっ、じゃねーよ!」
「‥‥‥‥まさか。だって、三日月さんや新月さんのお父様が、ですよ? 私とは全然年が違うし、私、新月さんより下です。そんなことあるわけないです」
「いや、おやじは‥‥‥たぶん、小雪が他の男に触れられる前に今のうちにとりあえず自分の印をつけておこうとしたんだろ。将来の予約だろ? 小雪を縛っておくために」
「‥‥‥‥あの‥‥‥それって‥‥‥‥え?」
小雪が青ざめた。
「今までの事、よーく思い出して見ろよ。五十嵐さんだってぐるだぜ? あの人、じいちゃんの代からいるし、おやじに忠誠心半端無いからな。要注意人物だぜ。もうひとりのおやじの腰巾着の風間さんはな、命じられた仕事は手段は選ばず容赦なく完遂する危険人物だ。覚えとけ」
俺は小雪の背中を押してソファーに誘った。
小雪は座りながら神妙な顔を俺に向けた。
「あの‥‥‥‥‥なんだかうまく信じられません。あの立派な旦那様がそんなこと。私とは親子ほど年が違いますし、何かの誤解じゃないかって思えます。でも、今までの事を思い返すと‥‥‥‥?」
「信じたくなくても現実見ろよ? このままじゃ、将来小雪はおやじの愛人にされちまうぜ? 今だけはなんとか切り抜けたけどさ。油断禁物だ」
「‥‥‥そういえば‥‥‥おかしいかも‥‥‥五十嵐さんの態度も‥‥‥旦那様がやけに強引で‥‥‥」
思い当たる節がどんどん出て来たんだろ? 今頃キョドって来た。遅せーっての。
「‥‥‥‥そんな。三日月さん、私‥‥‥どうしたらいいんですかっ?」
「だから、さっきから言ってんじゃん! 俺は小雪が好きだからこれからもずっと守ってやるって」
小雪は、はっとして俺に向き直った。
「そっ、それです! さっきから、好きだとか、大人になったとか、ドレスをいくらでも買ってやるとかなんとかかんとか‥‥‥そんなこと言って私をからかうのは止めてください!」
泣きそうになりながら訴えて来た。
俺のコクりは冗談と受け止められていたとはね。俺、傷心。
「‥‥‥‥俺が小雪をからかってそんなこと言ってると思ってんの?」
「‥‥‥‥ち、違うとでも言うのですか?」
俺のこの覚悟、小雪はまったく理解して無い。
まあ、俺だって今 変なテンションになっちゃってるし、この早急な勢いは今後どうなるかわかんねーけど、小雪に何年も想いを寄せていることはパーフェクトな事実だ。
「は? 俺がこの屋敷の中を全支配しているおやじに楯突いてんのにまだ言うか? 俺だってな、さっきはすっげー覚悟でおやじを追い返したんだぜ? わかってんの? これでもうこの先、俺だっておやじにどうされるかもわかんねーんだぞ? 俺の安泰だったはずの将来もどうなったことやらだぜ‥‥‥」
「ど、どういうことですかっ? 一体さっきは旦那様と何を話されたのですか? 私、シャワーの音で全く聞こえませんでした」
「‥‥‥‥えっと、怒るなよ?」
「どうして私が怒ると思うのですか? 三日月さんの将来に何らかの悪影響を及ぼすようなことをお話されたみたいなのに‥‥‥‥」
小雪は気遣わしげに俺を見てる。
「えーっと、その‥‥‥俺、おやじに言ったんだ。小雪と俺は前から付き合ってて、そんで‥‥‥俺たちは‥‥‥男女のそういうことももう済ませちゃってっからって。でさ、だからおやじは小雪に手を出すなってイキってみた」
「‥‥‥‥」
「そうでも言っとかないとおやじはまたすぐに小雪を嵌めようとすんだろ。だから小雪もそういうことにしておけ。誰にも否定すんなよ? 小雪にはもう俺の印がついてるってことで、いいな?」
今日は赤くなったり青くなったり‥‥‥‥小雪の顔。
「‥‥‥ひどいです。私、これで誰とも結婚出来なくなりました。お兄ちゃんと結婚しようと思ってたのに‥‥‥」
顔を覆って下を向いた。
「ばーか、出来るわけねーだろ? 兄妹で。ふざけてんのか? まさか本気で言ってんじゃないだろうな? さすがに引くぜ?」
数秒してから思いきったように顔を上げた。
「‥‥‥言ってみただけです。小さいころは本当にそう思っていたけど、仕方ないです。でも‥‥‥事実ではないにしろ、三日月さんと私が‥‥‥経験済みって周りから見られるのは恥ずかし過ぎます‥‥‥好奇の視線に耐えられるかわかんないです。憧れのウエディングドレスももう着れなくなりました‥‥‥」
「たかが好奇の視線くらい このままおやじに愛人にされちまう将来よか全然マシじゃん? この屋敷の中で、おやじから小雪を何とか守れる立場があんのは、俺たち5兄弟の誰かしらしかいねーだろ? 上の3人はおやじを崇拝してるしアウト。残るは俺と新月。だけど新月なんてヤワな奴がおやじに歯向かうなんて出来るわけねーだろ? 小雪は俺が責任とってもらってやっから、誰とも結婚出来なくねーから安心しろ」
俺はさらりと言ってから、いきなり小雪にプロポーズしてる事に気がついてはっとした。
いくらなんでも酷かったかな? でも、成り行きしゃーないじゃん。
それに‥‥‥俺、小雪だったら後悔しないと思うんだ。ずっと俺の横にいるのが。
「‥‥‥‥」
小雪は赤い顔して、口許を手で押さえながらただただ驚いた顔で俺を見てる。
「黙んなよ。好きだ‥‥‥小雪。‥‥‥‥ちっ、何度も言わせんなよ!」
俺はばつが悪くなって横を向いた。
小雪の強い視線が横顔に刺さってるのがわかる。
「‥‥‥‥本当に? 好きなんですか? どんなところが? 使用人の私なんかを? 三日月さんが? 私だけを? 本気で? 嘘じゃなくて? 命懸けて? これからずーっと? こんなに身分違いなのに?」
「‥‥‥落ち着け、小雪。なあ? どうやったら俺を信じてくれるんだ? 今すぐ言ってくれよ。その通りにして証明して見せるから」
「‥‥‥急にそんなこと言われたって今はまだわかりません」
小雪の目にじわじわと涙が溢れてきた。
「泣くなよ‥‥‥‥」
「‥‥‥‥ご免なさい、ご迷惑かけて‥‥‥こんなことになるなんて‥‥‥」
「謝んな、ホントは俺が勝手にしただけだし‥‥‥」
「‥‥‥でも、三日月さん。私‥‥‥いいのですか? 私のせいで三日月さんはひどい目にあいませんか? 私なんかと付き合ったら三日月さんの将来が‥‥‥台無しなるよ‥‥‥きっと‥‥‥」
「俺は小雪が好きだから、小雪も俺を好きになってくれたらなんとかなんじゃね?」
「うん、三日月さん‥‥‥‥」
小雪は俺にうなずいてくれた。
今日はここまで。俺たちは急ぐ必要など無い。
俺はおやじとは違う。
やったぜ! 俺はおやじにレールを引かれた約束されてる将来は棒に振ったかも知んないけど、7年目にしてやっと好きな女の子を振り向かせた。
男はこうでなくっちゃな!
今までは勝手に寄ってきた女の子たちと適当に遊んでいだけだったけれど、俺から攻めたのは本命の小雪だけ。
これからは俺の横には誰もが羨むとびきりの美少女の小雪がいる!
もう、新月にも大鏡にも邪魔はさせない。
おやじ避けの協力はしてもらうけどな。ヤッホー!
「三日月さん、あの‥‥‥‥」
「なんだよ? 小雪」
「あの‥‥‥その‥‥‥早く服を来てください」
あ、スミマセン‥‥‥‥




