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ABSOLUTE CONTROL ~リアルの呪文をあげる  作者: メイズ
挿話 あなたがいたから
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主観と客観の相違〈小雪〉

 過去を思う時、あの日は運命の大きな大きな曲がり角だったって はっきりわかるのです。


 そしてそれはあのお屋敷にいた以上、私には不可避な出来事で、いつか起こるべきして起こったことだと。


 そして三日月さんがあの時 偶然旦那様の部屋に来てくれなかったとしたら、穏やかな幸せに包まれながら人生の終盤を迎えている今の私はあり得なかったのは確実です。


 今は地元の有力者となり人徳者として誉れ高い兄だって、あの一族の下、歯車のひとつとなり、冷徹な資本主義の手先として、いかに労働搾取するか、いかに儲けるか、そんな駆け引きに邁進する人生を歩いていたかもしれません。



 この黒鮒様の御守りは三日月さんから頂いたものです。


 私の初恋の人。


 まだまだ純粋な年頃の私と三日月さんとの恋。


 大人になりきっていないあの頃の想いは打算など一切なく、純情で真剣で不器用で‥‥‥切なくて‥‥‥悲しい‥‥‥



 あの運命の日曜日から、私のお屋敷での日常は、それほど変化はありませんでした。


 旦那様も、五十嵐さんも以前と何変わらぬ なに食わぬ態度で接して来ましたし、三日月さんと私の噂も流れる事はありませんでした。


 私は戸惑いながらもそれに合わせて通常通り振る舞いました。


 私に旦那様のはっきりとした真意は示されたわけでもありませんし、旦那様と私は部屋でお話しただけで実際は何も起きてはいないのです。


 事実だけ見れば私は旦那様からプレゼントを頂き、五十嵐さんと特別通路という所を通って旦那様にお礼を言いに行った‥‥‥それだけです。


 ただし、三日月さんが旦那様に、私と以前から恋人関係だったと嘘を言ったようですが、旦那様がそれを信じているのか、どう受け取ったのかはその時点ではわかりませんでした。


 何事も無かったかのように、あの出来事は幻だったかの如く時間は過ぎて行ったのです。


 表面上は。


 私はその日、起きたことを兄になかなか言い出す事が出来ずにいました。


 切り出せたのは、一日の業を終えてもう寝る間際、布団に入ってから。


 小さなスタンドの薄暗い明かりを頼りに薄汚れた巻物を見てる、私の傍らの兄に思いきって話しかけましたーーーーーー





「熱心に何読んでるの? お兄ちゃん」


「あ、これ今日馴染みの古書店でさ、見つけたんだ。ほとんどタダでさ、みっけもんだぜ!『陽の巫呪(ふじゅ)の巻』っていうんだ。持ち主に祝福を授ける祝詞(のりと)らしいんだけど、ムズいな‥‥‥でもさ、謎っぽい言い回しに引き込まれるよなー。暗号解読みたいでさ、ワクワクたまんねぇよ。これ、昔の殿様が書いたらしいんだよな、そんでーーーーーーー」


 マズい‥‥‥お兄ちゃん、語り出したら止まらないよ? 


「あ、もういいから、それ。それより私の話、お兄ちゃん聞いて。今日、旦那様から洋服頂いたじゃない? それでね、ーーーーーーーーーー」


 お兄ちゃんは最初は巻物を見ながら適当にしか聞いていなかったけれど、途中で巻物を元に戻してから私の話を真剣に聞いてくれました。


 その時は、三日月さんの部屋での出来事は言わないで、五十嵐さんが突然ここに贈り物を持って来た所から、旦那様のプライベートルームに三日月さんが偶然来て、私が部屋から出られたところまでをありのままの事実だけを話しました。



 お兄ちゃんは旦那様の "光る君計画嫌疑" には半信半疑で、小雪だけの話ではわからないから、明日の家庭教師の時間の後で三日月さんと話し、さらに真相は俺が調べる、と言いました。


 そして念のため屋敷内で一人きりにはならないように、俺がいない時はキッチンで梅子さんの手伝いでもしていろ、と私に言い含めました。



 お兄ちゃんは次の日、私の昨日言わなかった話の続きまでを三日月さんから聞いたようです。そして、三日月さんはお兄ちゃんに、私との交際宣言をして、旦那様から私を守るべく俺に協力しろ!と命令してきたとか。


 夜の10時過ぎに三日月さんの部屋から戻って来たお兄ちゃんは大変な不機嫌をさらし、私を追及して来ました。

 言いつけを破り個人の部屋に入ったことも怒られました。


 私は怖い顔をしたお兄ちゃんに言われるまま、布団の上で正座です。


「俺はな、小雪は旦那様ではなくて三日月さんに騙されてるんじゃないかと思うぞ? 落ち着いてよく考えてみろよ、な?」


 お兄ちゃんによると、客観的に見ればそうなるそうです。


 お兄ちゃんは旦那様のプライベートルームでのあの異様な雰囲気を肌で感じてはいないし、私だって、三日月さんに教えてもらうまで気付かなかったのだから無理も無いかも知れないけど‥‥‥‥‥


 私の話の証拠品は、今部屋を余計に狭くしている洋服と、私がそのまま履いて戻った赤いスリッパだけです。


 お兄ちゃんは、旦那様のことはともかく、三日月さんと私の交際には反対だと言いました。


 そして、私には厳しい現実を言いました。私のためだと言って。


「いいか? 今、小雪が三日月さんのこと好きだってのが本当だったとしてもさ、いや、兄ーちゃんはそれは小雪の錯覚であって、あいつに上手いこと操られただけだと思ってるけど‥‥‥。三日月さんがなんと言おうと、お坊っちゃまの三日月さんと小雪の結婚が認められる可能性はほぼ無いからな。そこ、勘違いしてると後で泣くのは小雪だからな。必ず別れが来る」


「でも、三日月さんは‥‥‥‥信じて、お兄ちゃん!」


「無理だ。俺たちはスラム出なんだぞ? 結婚なんて! 現実は気持ちだけじゃダメなんだ。このまま三日月と付き合ったってさ‥‥‥‥小雪じゃ無理だ。なあ‥‥‥‥三日月の2号さんにでもなる気か? それじゃ、旦那様のことが仮に事実だったとしてもさ、相手が変わっただけで同じじゃねーか。だから‥‥‥その‥‥三日月と‥‥‥そういう間違いだけはすんなよ? まさか本当はもう三日月と‥‥‥?」

「‥‥‥‥バカっ、お兄ちゃんのえっち! キライっ」



 あったまきちゃったよ! 私は布団を被ってお兄ちゃんには背中を向けてもう寝ちゃいます。



 私は三日月さんを信じます。お兄ちゃんに反対されたって。


 私を守ってくれるって何回も言ってくれました。

 私のことを好きだって。


 お互い好きでいれば何とかなるって。



 人生初でされた告白でいきなりプロポーズまでされたの。

 見かけ派手でちょっと怖そうで苦手だった三日月さんから。


 私、あれからというもの、とにかく三日月さんのことばかり頭に浮かぶの。


 思うと胸がきゅんとなるよ‥‥‥



 男の子とお付き合いするってどういうことなのかは不明です。だって、初めてのことだもん。


 恋人同士ってどんな風? 二人でどんな会話してるんだろう? デートはどんなとこに行くの? 


 私にはわからないことだらけ。


 いつの日か本当に三日月さんと私は‥‥‥お兄ちゃんがさっき注意してきたような、そういう "間違い" するのかな? そんな恥ずかしいこと、私に出来るかわかりません。いえ、無理です。大人になったらみんな出来るようになるの? 考えると、私死にそう‥‥‥


 


 ーーー私は初めての恋にときめいていたのです。私よりずいぶん大人っぽく、勝ち気で頼れる男の子の三日月さんに。


 危機一髪からたった2日後の心の比重は、旦那様に対する懸念より、キラキラ ドキドキ キュンキュンのこちらの方がはるかに勝っていたのです。







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