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ABSOLUTE CONTROL ~リアルの呪文をあげる  作者: メイズ
挿話 あなたがいたから
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虚勢にて対決〈三日月〉

 今、俺の隣に座ってオレンジジュースを飲んでる小雪の横顔を見ている。



『旦那様は千年も昔の物語に憧れていたそうですが。どうして急にそんな話を私にされたのかわかりませんけど‥‥‥‥』


 お前がさっき事情を話した時に言った言葉。



 小雪はまだ源氏物語を知らなかったらしい。はっ。不幸中の幸いだろうな。


 知っていたら今頃 人生詰んで絶望ドン底味わってる。


 まったく、恥ずかしい男だぜ。おやじが、"光る君" もどきになろうだなんて。嗤えるじゃん。


 どうかしてる。幼い女の子を育てていつかは自分のものにしようだなんて。



 きっと母さんはおやじのしようとしていることに気づいたんだ。


 しかも知らぬ間におやじ好みに小雪を育てる手伝いまでさせられていたんだからな。結婚相手が救えないクズだったって判明したんだ。母さんが新月の中学入学を見届けたらすぐさま去って行ったのも納得だ。

 小雪を置いて行ったのも。


 めっちゃ苦しんだんだろうな。憎んだんだろうな。おやじを。罪の無い小雪の事も。


 でもな、だからこそ小雪を置き去りにした母さんは無責任だと思うぜ?



 この屋敷にまつわるものは全て捨てて行った母さん。


 おやじも、俺たち兄弟も、母さんから捨てられた。


 おやじとはもう関わりたくも無いんだろうな。おやじの血を半分引いてる子どもの俺たちとも。全員男だし。


 俺だってあいつがおやじだなんて虫酸が走るけど、今はどうしようもない。



 俺はたった今、小雪をくそおやじから守ることを決心したんだ。

 あんなタラシの中年ジジイに小雪を汚される訳にはいかねぇよ!


 もう、こうなったら小雪を連れてこんな家は出て行きたいところだけど、母さんにも頼れない以上、ここで自立するまで耐えるしかない。くっそ、俺はまだ16になったばかりだ。後、何年?



「‥‥‥‥‥俺が、俺が守ってやるから」


「はい?」


「大鏡では無理だ。俺じゃねーと」


 そうさ、おやじに拾われて生活頼っている大鏡じゃ太刀打ちできるわけねーよ。


「あの‥‥‥‥‥?」


「だから小雪は今すぐここでブラコンは卒業しろ。いいな?」


 いつまでも、にーちゃんにーちゃん言ってんじゃねぇ! 兄貴なんていくら慕っていたってこのまま一生頼れるわけでもないだろ?


「私‥‥‥‥ブラコン‥‥‥ですか?」


「ったく、自覚無しかよ? 小雪だってもう()()()になったんだろ? しっかりしろよ!」



 書生のやつらが小雪の噂をしていたのを聞いた。


 あいつらの関心はあの梅子っていう素朴でグラマーな使用人に向いていたけれど、これからは小雪も要注意だ。


 あれ? 小雪怒った? そんなに顔赤くして。


「小雪、俺の話を聞け!」


「なっ、なんですか? 私をからかうのはやめて下さい!」


 むきになって怒ってくる小雪もかわいいけど、できれば俺にも微笑みかけてくれよ。


「俺、からかってなんかいない。俺はマジだから。小雪を諸々の悪から守るって決めたから」


「悪から守るって‥‥‥?」


「小雪は俺のこと、キライ? 俺は好きだけど」


「えっ?」


「俺は小雪が好きだって言ってる」


「‥‥‥‥‥」


 黙った。


 刺さった? 俺はこんなに赤くなった人、見たこと無い。そんなに照れてるって事は俺のこと意識はしてるよな?



「だから、これからは俺がお前を守る。OK?」


「好きって‥‥‥あの‥‥私のことを? 守るって? 何からですか?‥‥‥んっ? きゃー! 新品の白いドレスにオレンジジュースがっ! ああんっ、どうしようっ」 


 突然の俺の告白に焦って手元がおろそかになっちまったみたい。


 持っていたカンが傾いてスカートにおもいっきりこぼしてしまったようだ。


 染みどころか、最早(もはや)ひざにジュース溜まってる。


「ふぇっ‥‥‥動いたらソファーに垂れちゃう‥‥‥」


 半泣きで俺を見た。


「わかった、動くな! 今、タオルを持ってくるから!」


「ふぇん‥‥‥ひっく ごめんなさいっ、私‥‥‥」



 俺と新月の部屋は元来客用の部屋だから洗面台とシャワー室がついてる。シャワー室は普段は使わないけど。


 俺は洗面所にかかっていたタオルを引き抜き、濡らして小雪に渡した。



「‥‥‥‥ダメだわ。どうしよう‥‥‥いただいたばかりのワンピースドレスを台無しにしてしまって。きっと旦那様は気を悪くなさるよね‥‥‥」


「いいじゃねーか。貰ったんならもう小雪のもんだろ。破こうが捨てようが小雪の勝手だろ? おやじにどうのこうの言われる筋合いはねーだろ」


「そういうわけには‥‥‥私は使用人としてここに置いて貰っているんだもの。私が旦那様のご機嫌を損ねたら、お兄ちゃんの勉強だってどうなるかわからないもん‥‥‥」


「ったく、そんなドレス、俺が大人になったら小雪にいくらでも買ってやんのによ。‥‥‥そうだ! シャワーですぐに流せば落ちるんじゃね? ほら、来いよ」


「ぐすっ、ごめんなさい。三日月さん」



 俺はシャワー室で、立ったままの小雪のスカートに水をかけ、小雪は石鹸をこすりつけ流す、を3回繰り返したところほとんどわからないくらいにまで染みは落ちた。


「やったぁー、消えました! 三日月さん、ありがとうございます」


 ふふ、やっと俺に笑ってくれた。


 あー、俺、さっきから小雪の濡れたスカートと脚にもやもやだぜ。



 おや? 俺の部屋のドアが開いた音‥‥‥


 きっとおやじだ。


「三日月、あれ? いないのか?」


 勝手に入ってきたおやじの声に小雪が硬直してる。



「‥‥‥追い返す」


「そうですね、落ちたとはいえびしょびしょですし、いただいたその日からドレスを粗末にしたと思われてしまいますよね。ご協力感謝です! 私はもうとっくに使用人部屋に戻ったってことでお願いします」


 こそこそと俺に耳打ちした。


 そこっ? ちげーだろっ! 空気読めねーネンネかよ?


 小雪、この状況全くわかってねぇ‥‥‥


 お前、おやじの毒牙にかかる寸前だったってのに。ったく、ますますほっとけねーじゃんか。


 俺はシャワーをよそを向けて流して音を出し、着ていたTシャツとズボンを脱ぎ捨てパンツ一丁になり、腰にタオルを巻き付け、ついでに髪もちょっと濡らした。


 びっくりして、小雪が顔を手で覆っている。


「ど、どうして脱ぐんですかっ? ああ、そっか! 三日月さんはシャワー中だったって設定にして、用はあとにしてくださいってことですね! さすが三日月さんです」


 赤い顔でこそこそと言った。


「ちょい、いや、大分違うけどまあいいや。小雪。いいからここで待ってて。絶対出て来んなよ」


 耳元でささやき、ついでに髪にキスした。


 小雪は気づいていない。ま、それくらい許せよ。今から急な勝負へ向かう俺へのご褒美だ。


 俺、いいこと思いついてる。だけど、これは吉と出るか凶と出るか‥‥‥


 すっげーリスク。 おやじはどう出るかわかんねーぞ? ガチ緊張。俺、張り倒される? 最悪殴り合いだな。


 まさか、おやじと女取り合って張り合うはめになるなんてな。でもな、ジジィに負ける訳にはいかねぇっての。



「何? ノックも無しに急に人の部屋に入って来んなよ、おやじ。親しき中にも礼儀あり、だぜ?」


 俺はふてぶてしくおやじの前に出た。


「!」


 俺のセミヌードを見て驚いてる。


「出てけよ、今、俺らとりこみ中」


 だるそうにふるまった。


「三日月‥‥‥お前‥‥‥」


 バスローブから普段着に着替えたおやじが呆然と俺を見てる。


 さっき出しっぱにしたシャワーの音がしばし沈黙中の この部屋に響いてる。


「あ~んと、おやじ、知らなかった? 隠しててすみませーん。実は俺は小雪と出来てんだ。だ、か、ら、息子の彼女に変な気起こすなよ? わかったら出てってくんない?」


 俺は首を傾げ斜めにおやじを見た。


「小雪と三日月が‥‥‥‥?」


 おやじはシャワーの音に反応して奥に進もうとした。


「おっと、これ以上奥に行くのはよしてよ。プライバシー侵害だって」


 俺はさっと立ちふさがった。


「‥‥‥‥さすが俺の息子だな、はは‥‥‥でも、子どもがその遊びをするには早すぎる」


 その顔。冷静演じて内心めっちゃ怒ってんだろ? 寸前で息子にかっさわれたんだからな。ざまー。母さんの分の(かたき)もとれちゃうかもな。


「ああ、血は争えねーって感じ? だろ?」


「‥‥‥‥‥‥‥三日月にしてやられるとは想定外だったな」


「おやじ、年相応ってあるんじゃね? それにあっち方面では俺には叶わないぜ? だからさ、やめといてくれよ? 比べられたらどうすんの?」


「‥‥‥‥はっ、小僧がずいぶんな自信だな。どうやら私の躾がなってなかったようだ」


 俺をバカにした目で蔑んだ。



 しばしの間、おやじと俺の視線が絡まり合って沈黙が続いた。



「‥‥‥しかし、お前はいつか したことの報いを受ける。‥‥‥覚えておけ」


 おやじは俺を鼻で嗤ってからきびすを返した。



 俺の虚勢はお見通しってか? でもいい。何とか今は乗り切ったみたい。



 情けない事におやじが部屋を出てドアが閉まると俺はへたり込んでしまった。


 でも、これでおやじはとりあえずは小雪を諦めただろ?


 いくらおやじだってそこまで節操は無くないと信じたい。



 "俺の彼女" でいる内は、小雪は安全なはずだ。









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