表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ABSOLUTE CONTROL ~リアルの呪文をあげる  作者: メイズ
挿話 あなたがいたから
123/221

言葉の魔法の防御法〈小雪〉

 新月さんとその上の二人のお兄様方は小学校には通わず数人の家庭教師について学んでおりました。


 一番上と2番目のお兄様方は高校、中学校に通っていましたが家庭教師もついておりました。



 私たちは新月さんの家庭教師が来る時間にはお仕事は免除され、新月さんと一緒に学ぶことになっていました。私は新月さんのお邪魔になるのではと心配していましたが、新月さんは大喜びです。


 でも、家庭教師の先生は大変ですよ。だって、兄も私も、元よりひらがなは書ける程度の学力しかなかったのですから。


 まずは私たちは漢字を覚え本を読めるようにならなくてはいけませんでした。


 そんな私たちにも先生は根気強く教えてくださいました。


 教わりながら、兄と私はお帳面に何回も何回も新しく覚えた漢字を書いて覚えるところから始まったのです。


 白髪交じりの髪を後ろにぺかーっと撫で付け、スマートにスーツを着こなした英語と日本語に長けた語学の本郷先生はおっしゃいました。



 言葉を知れと。


 言葉に敏感であれと。


 そして自らは言葉を慎重に扱うようにと。



 たくさんの言葉を覚え、その言葉の意味を、時には隠された意味をもとらえる事が出来たならば、君たちの人生はよりしなやかものになるだろうと。


 それは君たちを豊かにし、まやかしを見抜く力になるだろうと。


 人はとにかく無意識の内に言葉の魔法にかかりやすいものだからね、と。


 とかく人の言葉を精査出来ない者は世間の流言になびき、又 あおられ易く、作為し者の意図した通りに見事に踊り出す。そしてそれは当然のことであるかの如く同調せよと周りに圧力をかける。まあ、これは国民の8割方はこれだがね。いずれにせよその言葉に秘された意図を見極めるためにはまず、日本語を深く理解することが全ての基本だ、と。


 それが私と兄が学んだ第一歩でした。


 その授業は兄の運命の道筋をつけた始まりのような気が致します。


『ふ~ん。俺は誰かの巧妙な言葉に踊らされるより踊らせる方になってやるからな。これはマジでやるぜ!』


 学ぶ決意は固めたものの 内心は渋々であった兄でしたが、本郷先生の導きにより俄然やる気を出したのです。


 その後の兄は言葉を知るために手当たり次第本を読み漁り、さらに自分の足元を固めるためだと、このかつての城下町であったこの地域の郷土史を遡って調べ始め、さらに遡り、その貪欲な興味はかつての落花生(おかき)城にまつわる古文書収集にまで及ぶことになったのですから。


 兄はその頃から、休みの日には街に出て古本屋を回り、終戦後の混乱で二束三文でわんさか出回っていたよくわからない雑誌や本、古文書をお給料をはたいてはせっせと買い集めていたのですよ。


 私には無駄遣いにしか思えませんでしたが。もはやこれは趣味ですね。


 それ、おじいさんになった今でも変わりません。うふふ



 私たちは数人の家庭教師のお陰で小学校で習う一般教科の他、英語や大まかな政治経済学まで学ぶことが出来ました。


 今思えばよくもこんな幸運をつかめたものだと思います。ここまで大変恵まれた環境に計らずも潜り込めたのですから。



 故に兄も私も子どもの教育の大切さは身をもって理解しております。


 生まれた環境によって子どもの将来が狭められてしまうのは仕方がない事なのでしょうか?


 極一部には恵まれない環境下ながらも、私たちのように幸運な巡り合わせを得た人もいることでしょう。


 しかしながら、不遇な子どもたちを ご自分や私たちのような偶然幸運を得た人と比較して、『環境のせいにする人は努力不足だ』とおっしゃる恵まれた方々からのご指摘は、想像力すらも無き ただの世間知らずだと言う他はありません。


 私が冷水や熱湯を浴びせられ泣いているのを見ていたとしても、周りの方々は寒くも熱くも痛くもないのです。


 熱湯に1滴でも触れた事があるならば、熱湯のシャワーを一瞬でも浴びせられた私はどれくらい熱くて痛かったのかは容易に想像だけはつくでしょう。


 熱湯に触れたことがない人ならば、私がなぜ泣いていたのか理解不能でしょうね。


 体験に基づく想像力は他者を理解する助けになると同時に自分を守ることが出来ます。こうしたらこうなるという未来をある程度は予測することができますから。


 世の中には色々な人がおりますから、痛みを知るにも関わらず気にもかけないサディストもおりますが、他者に対する想像力に欠ける方々はせめて本に触れるべきです。読書は経験不足を補完してくれるものですから。


 せめて手軽に読むことができます なろう小説なるものでもお読みになったらいかがでしょうか。

 だからと言ってそこだけにとどまられるのもいががなものかと思いますので、徐々に読書の幅を広げて行くとよろしいかもしれません。 




 ーーー私たちの人生はその後、子どものために捧げることになるのです。



 最初は一つ年下の新月さんよりもはるかに遅れをとっていた兄ですが、1年半後には追い抜き、2年後には 自分の学年相応以上へと進歩を遂げました。


 兄は次第に新月さんのすぐ上のお兄様の三日月さんと学ぶようになりました。


 三日月さんはそれまであまり勉学には興味は無かったようなのですが、1つ年下の兄が突然加わったことにより、ライバル心をあおられ年下になど負けまいと勉学に励むようになりました。お陰で翌年は大変優秀な成績で私立の中学校に入学したのです。


 旦那様は、私たち兄妹が 奥様や息子たちをインスパイアしていると大変満足し、私たちはこのお屋敷での安定した地位を徐々に築きつつありました。



 その後、兄は学び始めてから3年後、地元の中学に入学した時には、同学年でも並ぶ者はいない程の実力になっておりました。


 それはそうですね。だって名波家に身を寄せていた私たちは、その道に特化した選ばれたエキスパート講師たちによって英才教育を施されていたのですから、成績が良いのは当然といえば当然です。しかも、兄は明晰な思考の持ち主だったようですから。


 そして、私もその頃には一つ上の新月さんと同程度まではこなせるようになっておりました。




 お兄ちゃんは地元の中学に入学し、新月さんは彼のお兄様たち同様、来年度は良いところの御子息集まる私立中学校に進む予定ですが、お兄ちゃんと同じ地元の中学に行きたいとごねているようです。


 出来れば私もお兄ちゃんと同じ昼間の中学校に行きたいな‥‥‥


 梅子さんはもう夜間中学校を卒業し、そのままここで働いています。




 ーーー月日は流れ兄12才、私は10才の春を迎えておりました。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ