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ABSOLUTE CONTROL ~リアルの呪文をあげる  作者: メイズ
挿話 あなたがいたから
122/221

奥様の病気の原因〈小雪〉

 次の日から兄はお屋敷で下働きや使いっぱしりを、私は奥様のお相手とメイドさんのお手伝いなどをしながら、勉強する日々となりました。


 奥様は私を自分のために働かせたかと言うと決してそうではありません。


 奥様は私たち兄妹に対しては、預かった親戚の子のような接し方をされました。旦那様も幼い女の子の私が奥様の癒しになることを期待したようです。



 奥様はデパートの外商を呼んでは、我が子5兄弟だけの分に留まらず、兄と私にまで お洋服をあれこれ試着させては見繕って与えて下さったり、私にはレディーの歩き方やしぐさ、話し方、食事のマナー、しきたりなどたくさんの事を教えて下さいました。


『やはり男の子とは違うわ。女の子がいると華やかに出来て楽しいわ』と言って、私の髪を編んでみたり、きれいなリボンをつけてみたり。


 体の調子が良い日には、生きた着せ替え人形のように私を飾り立ててはお芝居見学やショッピングにお出かけすることもありました。

 周りのご婦人から私のことを誉められるのが楽しいようでした。


 ある日にはゆったりとお部屋でフランス刺繍を教えてくださったり、それでハンカチを可愛らしく変身させたり、またある日には奥様が外国の素敵な詩を朗読してくださったり、一緒に歌を口ずさんだり。私も楽しいことばかり。


 結局私は奥様からは恩恵しか受け取っていません。


 そのうちに私が奥様のところに呼ばれた時は、必ずと言っていいほど新月さんも来るようになりました。たまに新月さんのすぐ上のお兄様の三日月(みかづき)さんも加わることもありました。



 私はある日、私は奥様に梅子さんも連れてきてもいいか伺ったら、風間さんと五十嵐さんの許可の出た時間ならば構わないと言ってくださったので早速二人に聞いて見たところ、どちらからも即刻却下されてしまいました。


 私たち兄妹は新月さんのお願いを聞き入れ、旦那様の方から手を差し伸べた特異な存在であって、奉公で来ている梅子さんとは立場が違うと。


 私には納得できませんでしたがどうしようもありませんでした。


 梅子さん自身も恐縮していて、おかしな事を言わないで、と私をたしなめました。梅子さんが優遇を望んでいると思われるのが迷惑だったようです。


 私は梅子さんが大好きだったので、梅子さんのために何かしたかっただけなのですが、迷惑をかけただけになってしまいました。



 私にとって奥様と過ごす時間はすごく楽しい時間で、奥様のようなお母様を持った新月さんたちを心底羨ましく思いました。


 こんなお母さんを選んで生まれてこれたら良かったのにと何回考えたことかわかりません。



 半年も過ぎた頃に、


『小雪が来たお陰で詩乃(しの)も気分が良さそうだ。随分と明るくなったよ』


 旦那様はそう言って喜んでくださいました。


 

 奥様はお加減が良い時にしか私を呼びません。私は具合が悪い時こそ側にいて看病して差しあげたいと思っていたのですが。


 奥様に呼ばれる日が続いたと思えば ぱったり呼ばれない日が続いたりと、奥様の体調には波がありました。私はお呼びがかからない日が続くととても心配でした。


 奥様はどんな病気なのかわかりませんが、早く良くなって欲しいと心から願いました。


 私は、奥様はどこがお悪いのか気になっておりましたが、何かその事に触れてはいけない雰囲気が漂っていたので、私は病気のことを誰にも聞くことはありませんでした。


 私が奥様のお相手を始めて最初の夏にさしかかろう頃に、3週間ほど全く呼ばれない時がございました。


 どうにも気にかかっていた私‥‥‥‥


 そこで二階の廊下を雑巾がけしている私を見つけて話しかけてきた新月さんに、奥様の病気のことをこそっと尋ねてみたのです。




 ーーーーーあのときの会話を思い出すと、子どもって大人が思っている以上に大人のことを良く見ているもので知っているものだと思い知らされますわ。ふふふ‥‥‥




「うーんとね、ここがね、心がね、ぎゅってなって苦しいみたい。みーんなお父様のせいだよ」


 新月さんは胸を右手のグーで押さえながら自分も苦しそうな顔をして見せました。


「旦那様のせいなの? どうして?」


 なんだか私の思っていた病気と違うみたいだよ。


「えーっと、たぶんね。ねえ、秘密だよ? 小雪ちゃんだけに言う。大くんにも言ったらダメだからね?」


 新月さんが息だけの声でささやくように私の耳に顔を寄せてきたから、ちょっとドキッとしました。


 何をお話しようとしてるんだろ?


「‥‥‥うん! すっごい秘密なんだね。わかったよ。指切りげんまんっ」


 なんだかイケないお話をするみたいでドキドキします。


 指切りした後、新月さんは廊下には誰もいないのに周りをキョロキョロ見回してから私の耳元に手を当てました。


「ナイショだよ‥‥‥お父様はね、お母様じゃなくて別の女の人たちとデートしてるみたいなんだ‥‥‥‥」


「‥‥‥‥それで奥様は悲しくなって具合が悪くなってしまったの? だったら奥様も他の男の人とデートすればいいんじゃない?」


「いや、それもどうかと思うけど‥‥‥‥」


「じゃあ、旦那様に他の女の人とデートしないように言えばいいんじゃない?」


「言っても無駄だったからお母様は心が痛いんだってば!」


「ふ~ん‥‥‥旦那様はどうして奥様を悲しくさせるようなことをやめないの? 大人の気持ちは小雪、わかんないよ。大人が私の気持ちがわかんないのと同じなのかもね‥‥‥」


「大人にはさ、子どもではまだわからない何かあるんじゃないかなぁ‥‥‥」


「それね、そうかもね、うちら子どもだもん。でもさ‥‥‥なんか‥‥ひどいね。奥様はお屋敷で旦那様のお帰りを待っているのにその間に自分は他の女の人と遊びにいっちゃうなんて。それはお金持ちのおうちではよくありありのことなの? 私が小さい頃の記憶によるとね、お隣のお家のお母さんは、旦那さんが私のお母さんとお庭越しに何回か立ち話していたのが気に入らなくて うちに怒鳴り込んで来たことがあったよ。すごい剣幕で怖かったからすっごい覚えてる」


「怖いおばさんだね。お母様は人に怒鳴ったりはしないよ。そんなところ見たことないし。そういう反応は人によって違うんじゃないかなぁ?」


「ふ~ん。じゃあ、新月さんも大きくなって結婚したらそうなるの? 他の女の人たちとデートするの?」


「う~ん‥‥‥どうかなぁ? 大きくなってみないとわかんないよ。僕はまだ8才だし」


「私だったら、きっと怒鳴り込み派かもねー。だってお兄ちゃんが小雪以外の女の子とデートしたらやだもん」


「‥‥‥小雪ちゃんがお兄さんと出掛けるのはデートじゃないよ」


「どうして? 小雪はお兄ちゃんとけっ‥‥‥‥‥」




「やい、何そこでイチャついてんの? ちっこい君たち」


 お話し中に階段から三日月さんが不意に現れました! 聞かれて無いよね? 今のナイショのお話。


「イチャってないよ、何でもないよ! みか兄」


「おい、そろそろ本郷先生来る時間だぞ。早く用意しとけよ、新月」


 三日月さんが新月さんの肩を小突きました。


「う、うん。わかってるから。じゃ、小雪ちゃんも掃除用具片して早く来てね」


 何回かこちらを振り返りながら自分のお部屋に入って行きました。


「小雪、僕の部屋に来いよ。美味しい焼き菓子があるんだ」


 三日月さんが私の腕を引っ張りました。


「無理だよ。だって私は大人の許可が無いときは個人のお部屋には入ったらいけないんだもん。それに私だって今から新月さんとお兄ちゃんと勉強の時間だよ。お雑巾を片付けて急いで用意しなきゃ」


「何だよ? 新月とはこそこそ遊んでたくせに! 来いよ」


「小雪 困るよ。腕、放してください。三日月さんのお部屋に入ったら私が怒られちゃうんだよ?」


「いいじゃんか、僕が来いって言ってんのに。それに誰にも言わなきゃいいだろ? 授業だって一回くらいサボったって大して変わんないよ」


「痛いよ、放してくださいっ!」


 私より背も大きい3つも年上のお兄さんの力にはかないません。



 あ、誰かの軽い足音とこちらに来る気配‥‥‥



「おい、お前!小雪を放せ。何騒いでんだ? 後10分で新月の部屋で授業だろ? 小雪遅れるぞ」



 お兄ちゃんですっ! ナイスタイミング! 

 なんちゃってお姫様を助けに現れたヒーローです!


「っち! タメきいてんなよ。お前たち使用人なんだぞ? お父様にちょっと目をかけられてるからっていいい気になるなよな? はんっ!」


 三日月さんは怒って自分の部屋に戻ってしまいました。


「小雪、早くテキストと筆記用具にノート持ってこい! 終わった宿題も忘れんな。来んの遅れたら宿題増やされっぞ!」


 それはガチ嫌です!



 私は雑巾をバケツにぽいっと投げ入れ よいしょっと両手で持ち、水をこぼさない位の急ぎ足で、気を付けながら階段を下りました。


 掴まれた腕がまだちょっと痛いです。





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