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ABSOLUTE CONTROL ~リアルの呪文をあげる  作者: メイズ
挿話 あなたがいたから
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焼失の宝物〈小雪〉

 私の大切なお人形の りるちゃんは戻って来ることはありませんでした。


 私たちがその日の 日没近くになって納屋にこっそり向かった時には中身はすっかり片されて、消毒までされていたのです。すっからかんです。


 昨日の今日なのに、お片付け早すぎない? 仕事早過ぎだよ‥‥‥



「泣くな、小雪。旦那様の話じゃ、ここで働けばちったぁ金貰えるんだろ? 今朝、そう言ってたよな。それで兄ちゃんが新しいやつ買ってやるからさ、な?」


 ショックで涙目になっていた私の肩にポンと手を乗せました。


「ぐずっ‥‥‥代わりなんてないもん‥‥‥りるちゃんは1人しかいないんだよ‥‥‥」


「‥‥‥んなこと言ったって仕方ねーじゃん。兄ちゃんだって何とかしてやりてーけど、あれ、あっちの地面黒いとこ、どう見ても俺らのもん燃やした跡じゃんか。きっと虫湧いてると思ってさ、さっさと燃やされちまったんだ」


「‥‥‥ひどい。あのハエはお屋敷のお庭で使うように用意されてるそっちに置いてある堆肥からここに入り込んで来てただけなのに。納屋で湧いてた訳じゃない。私たちだって迷惑していたのに‥‥‥それにシラミだっていなかったよ?」


「あいつらから見たらそんなこと関係ねーんだ。殺っても殺ってもここにハエが何匹も飛んでいたことには変わりねぇじゃん。俺らの着てたもんだって洗ったところで染みだらけのボロだったし」


「うっ‥‥‥りるちゃん、死んじゃったよ‥‥‥」


「いつかは皆死ぬ。気にすんな」


「‥‥‥突然過ぎる」


「人生悲劇が来んのに予告など無い!」


「‥‥‥‥でもさ、普通、フラグ立ってからだよ‥‥‥」


「ここはリアルだ、甘いぞっ!」


「うっ‥‥‥‥リアルって厳しいね。知ってたけど‥‥‥‥」


「よっしゃ! わかったらこれはお仕舞いだ! 戻るぞ。ここに来たのが見つかったら、あの水かけばばあに又もや何されるかわかったもんじゃねぇ!」


「‥‥‥うん、じゃあ今日も小雪をお兄ちゃんのお布団に入れてね」


「まったく小雪は甘えん坊だな」


「だって、暗いと怖いもん。それにその方があったかいよ」



 私たちは辺りが既に暗くなった中、走って使用人部屋へと戻りました。



 冷たい空気で白い息を吐きながらふと、暮れなずんだ空に見つけた一番星。


 前を走る兄の背中。タッタカ回る棒みたいな脚。


 ざわめく木々の葉擦れの音。




 あら、風が出てきたみたい。


 庭の木がざわざわとさざめいて‥‥‥‥‥


「‥‥‥さあ小雪さん、一休みしたし、そろそろ始めようかな。今日中に洋服と本の整頓は終わらせなきゃね。あ、カップは僕が洗っておくよ、かして」


「え? ああ、新月さん。ありがとう、おいしかったわ」



 今、なぜかあの時見た庭の景色を思い出しました。

 私の大切なお人形の りるちゃんが燃やされてしまった時の。


 そんなことは何十年も忘れていたことなのに‥‥‥


 こういう事が起きると私の寿命もあとわずかなのかしらとふと思ってしまいます。


 そうよ、この黒鮒様の御守り、どうしましょう? 


 私の宝物。


 このままではあの時同様 私の意思には関係無く、捨てられ燃やされてしまうのは必至だわ‥‥‥


 お洋服を片付けながら考えましょう。



 あ、そうそう、お片付けといえば、あの風間さん!



 後から知ったのですが、風間さんは屋敷の管理責任者でした。


 使用人部屋全般とお屋敷の建物や備品、消耗品などは風間さん、人を取り仕切るソフト面は五十嵐さんが取り仕切っていたのです。


 風間さんは大変きっちりした人で、旦那様に命令された仕事は必ず完遂する "できる人財" だとか。その完璧な仕事ぶりには皆信頼を寄せていたそうです。


 ただし、玉に(きず)があったのです。


 素晴らしい働きぶりで旦那様からの信頼も厚いのですが、ミッション達成のための その過程にはこだわりはなく、そのため しばしば過激なことをするので周囲をビビらせてしまうことが稀に起こるのだそう。


 あの日、私たちに冷たい水をぶっかけて来たことも、それは風間さんは揺るぎなくその職務を全うしているだけのことだったそうで、だから、慣れているお屋敷の方々は、風間さんの私たち兄妹への仕打ちともとれる行為のその理由は、言わずもがな、皆わかっていたのです。


 万が一でもお屋敷にシラミなど入れてはならないという責任感と、潔癖症が為した技だと。


 もちろん、良くない衛生状態で暮らしていた私たち兄妹をお屋敷に入れることには反対の立場だったそうですが、私たちそのものを嫌っていた訳ではなくて、不潔を嫌っていただけなのです。


 そういえば、私たちには床を汚さないようにだの、お屋敷の中の物を触らないようにだとか、キランと目を光らせていましたね。


 納屋だって、翌日の夕方には、もうすっかりと片付けられていました。


 確かに完璧な仕事ぶりです!


 そんな風間さんでしたから、陰では私たちの世話をきちんとしてくれていたのです。


 生活に必要な物をちゃんと用意しておいて下さったし、梅子さんに指示を出して私たちが困らないようにフォローしてくれていたのです。


 なんだか変わった人でしたが、私たち兄妹も風間さんのことがわかってくるにつれ、風間対処法のコツを会得し、悲劇は再び起きることはありませんでした。



 彼女には大変感謝しておりますが、でも、トラウマは消えず、苦手な人ではありましたけどね。


 風間さんの伝説とされる数々の逸話は面白いのでご紹介したいところですが、これ以上はお話が長くなり過ぎてしまいますのもね‥‥‥‥‥またいつの日にか。


 





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