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ABSOLUTE CONTROL ~リアルの呪文をあげる  作者: メイズ
挿話 あなたがいたから
118/221

新月さんの兄弟たち〈小雪〉

 コンコンっ‥‥‥そろそろ起きなさいな。コンコンっ‥‥‥


 ‥‥‥誰かが‥‥‥扉を‥‥叩いてる‥‥‥だあれ?‥‥‥



「大鏡くん、小雪ちゃん! もう起きないと遅れてしまうわよ!」


 ‥‥う~ん‥‥‥‥まだ眠いよ‥‥‥誰かが‥‥私を呼んでる‥‥‥



「もうっ! 入るわよ‥‥‥電気つけてっと‥‥‥」


 ガタ‥‥‥ミシッ、ミシッ、ミシッ‥‥‥シャー‥‥‥



 ‥‥‥誰かの‥‥‥足音が響いてる‥‥‥朝からこんな納屋に‥‥‥お母さん? ううん、声が違うよ‥‥‥小雪、ぬくぬくのここから出たくないよ‥‥‥



「もう、二人とも起きなさい。これからお屋敷で旦那様たちのご家族にご挨拶するのでしょう? 早く起きて支度なさい」


 私‥‥‥揺すられてる。


「う‥‥‥ん‥‥‥ふぁ~‥‥‥あれっ? ここは? あ、梅子さん‥‥‥おはようございます‥‥‥寒っ」


 そうだよ! ここはもう納屋じゃないよ。梅子さんを見て思い出しました。


 隣ではお兄ちゃんが頭までお布団に潜って、身動きすらしていません。まだぐっすり寝てるみたい。


 私は目を擦りながら布団から身を起こすと、冷たい空気で身が縮みました。


 天井から伸びてる小さな傘の裸電球が、頼りないうすい黄色い光でぼやんと部屋を照らしています。


 梅子さんが開けたらしきカーテンの窓の外は、まだ暗いまんまです。


「おはよう! 小雪ちゃん。やっと起きた! 寒いわね。あらあら? うふふ、まだまだ甘えん坊さんね。お兄さんと一緒に寝ていたの?」


 私の横の布団の膨らみを見て言いました。梅子さんは半分だけ起き上がった私の肩ににふわりと羽織る物を掛けました。


「ほら、これ持ってきたよ。この綿入れを着て。風間さんが用意してくれていたものよ。あ、大鏡くんの分はこれね。お顔を洗ったら昨日のお洋服に着替えておいてね。昨日使って置いていったあの櫛で髪もきれいにとかしておくのよ。時計は読める? 小さな時計を置いて置くわね。この長い針が9のところに来たら廊下に出て待っていてね。風間さんが迎えにくるから。これからこれ、毎日ネジを巻くのを忘れないでね。う~んと‥‥‥後は大丈夫よね? 私は忙しいからもう行くね」


 梅子さんはしゃかしゃか早口で言ってせわしなく戻って行きました。


 長い針は今、3を過ぎた所。細い長い針は休まずにちっちと動いてる。


「お兄ちゃん、起きて! ねえ、遅れちゃうと怒られるよ」


「うるせぇな‥‥‥ん‥‥‥兄ちゃんまだ寝てっから‥‥‥」


「ねぇってばー、起きてよぉ」


「‥‥‥う‥‥‥ん‥‥‥兄ちゃんのことはほっとけ‥‥‥‥‥」


「‥‥‥ダメっ!」


 私は非情にも兄の掛け布団をひっぺがしました。


 だって私たちの支度が遅れたら、梅子さんまで風間さんから叱られてしまうかもしれないと思って。


「うわっ! 寒っ! 何すんだ、小雪! ひっでぇな!」


「ほら、これ着て! お顔洗いに行くよ」


 私は抱えていた掛け布団は後ろに投げ捨て、代わりに梅子さんから渡された綿入れをお兄ちゃんにほいっと投げました。




 私たちは何とか協力し合いながら昨日の洋服を着て、長い針が9に来るより少し前に着替え終わりました。


 私は髪は鋤いたけれど、今日は結んではいません。自分では上手く結わけないから。

 お兄ちゃんの肩まで伸びてた髪はお兄ちゃんが自分で結んだ。昨日みたくきれいには出来てはいないけれど、横から出てるほつれ毛が、それはそれでかっこよく見えました。お洋服はあまり似合ってはいないけれど。特にその首もとの赤いリボンのネクタイとか。くすっ‥‥‥




「迎えに来たよ‥‥‥ほら、行くよ。ついといで」


 廊下まで私たちを迎えに来た風間さんは見るからにつっけんどんな態度でした。私たちには構いたくも無さそうです。


 五十嵐さんというあのおじさんに井戸での水かけのことを注意されたのかな?


 ‥‥‥でも、私たちのために温かい綿入れを用意してくれていたなんて意外です。お礼を言った方がいいのだけれど、怖くて私から声をかけられないよ。




 私たちは風間さんに連れられお屋敷に入り、ダイニングルームという広いお部屋に連れて行かれました。



 風間さんを先頭に3人で部屋に一歩入った所で立ち止まりました。


「おはようございます。みなさま。旦那様、この子たちをお連れしました」


「ご苦労様、風間さん」


 風間さんは一礼すると部屋をさっさと出て行きました。


 お兄ちゃんと二人、こんな所に立たされたまま‥‥‥私たちどうすればいいの?


 テーブルについてるお兄さんたちの視無遠慮な視線がこちら集中して緊張します。新月さんの兄弟たちに違いありません。



「お、おはようございます‥‥‥」


 私はおどおどしながら頭をぺこんと下げました。


 隣を見ると、お兄ちゃんはそっぽを向いて黙って立っていたので、こっそり背中をつつきました。


 お兄ちゃんは 、『ちっ』 という顔を私に向けてから、『おはようございます』と言ってぶっきらぼうに頭を下げました。



 大きな長いテーブルには既に食事を取り始めていたらしき新月さんと大きなお兄さんたち4人がおり、私たちの到着を待っていたらしい旦那様は椅子から立ち上がり、一番奥の席から私たちを手招きしました。



「おはよう! 待っていたよ。よく眠れたかい? この子たちには君たちの事情はもう話してある。さあ、今度はお互いに自己紹介だ」




 新月さんの家族にとって、こんな風に家に他人が出入りすることは珍しい事ではないらしく、彼らにとっては、私たちなど どうせすぐにいなくなる設定のようで、それほど興味を引かれるような事でもないようでした。


 大きなお兄さんたちは自分のことは、さらっと名前を言っただけで、終わりでした。


 そして食事を終えた後は、それぞれこんな一言コメントをお兄ちゃんと私に残し、さっさとダイニングルームを出て行ったのです。



 一番大きいお兄さんは、


「ま、君たちがんばってね。応援してるよ。では、失敬! ゼミに遅れてしまう」


 と、言って社交辞令的な笑みを浮かべて、さっさか去って行きました。


 そして2番目のお兄さんは、こんな嫌みを残してから部屋を出て言ったのです。


「新月の友だちなんだって? だからって評価は優遇されないよ。ふふ、出来損ない同士、せいぜいがんばれよ。どうなるか楽しみにしてる」



 小学6年生だという3番目のお兄さんは、何やら旦那様に一番似ているみたいです。


「お父様の気まぐれにはもう飽きてるけど‥‥‥君たちはいつまでもつんだろう? 先月は住み込みの書生さんが1人、実家に逃げ戻っちゃったしね。君たちの場合は孤児院行き? もしくはそうなる前にどこかに逃げ出すかな? まあ、頑張ってよ。僕は期待はしてるよ」


 なんだか哀れみがこもったような目で私たちに笑いかけてからここを後にしました。


 4年生で、新月さんの2つ年上のお兄さんは、お兄ちゃんと私をちらりと見て、


「そっちの女の子のワンピースは似合っててかわいいけど、君のその衣装は‥‥‥‥相変わらず風間さんのセンスはおもしろいね。くすっ」



 などと、お兄ちゃんのお洋服姿をバカにしたのですが、お兄ちゃんは真っ赤になりつつも耐えて言い返す事はありませんでした。


 きっと自分でもそう思っていたのでしょう。お兄ちゃんが言い返さないなんてかなり珍らしいもん。



 私たち、お兄さん方に歓迎されてるのかそうではないのかよくわかりません。


 この後で新月さんに聞いたら、


『兄さんたちは歓迎しているに決まってるよ。僕が一番喜んでいるんだけどね』


 なんて言って私たちに笑顔を向けてくださいましたが、出来損ないだなんて自分まで言われてしまっても屁のカッパなのには驚きました。


『いいんだ、兄さんたちは僕の本気を知らないだけなんだ。僕が本気を出せば地球が滅びてしまうからね。ほどほどにしてるだけだよ』




 ーーーうふふ、そうなのです。新月さんは子どもの頃から、のんきでおおらかで細かい事は気にしないユニークな人でしたわ。



 所で新月さん、自分の本や、お洋服の整頓は進んでいるのかしら? 


 整頓しながら ふと出て来た懐かしい本を、うっかり読みふけっていなきゃいいですけど‥‥‥


 あら? この部屋まで新月さんのご機嫌な鼻唄が聞こえて来ていますわ。


 ‥‥‥コーヒーの匂い‥‥



「ねぇ、小雪さん。一休みしたら? 僕のお手製インスタントコーヒーどうぞ」


 トレーの上に湯気のたったマグ2つ。


「まあ、ありがとう、新月さん。相変わらず優しいのね。でもインスタントがお手製って?」


「あ~んと‥‥‥そうですねー、えっと、お湯は僕が沸かしたよ。それに、僕の愛情入りです」





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