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ABSOLUTE CONTROL ~リアルの呪文をあげる  作者: メイズ
挿話 あなたがいたから
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新月さんのお父様〈小雪〉

 窓の外はまだ明るさを保っているものの、既に部屋の中は薄暗くなりつつありました。



「さあ、今から旦那様の所に行くよ。ついといで。逃げたって無駄だよ。取っ捕まえてお仕置きだからね」


 非情な声が私たちを無言にさせました。



「これはあんたたちに用意した屋敷の中専用の履き物ですからね、床を汚さないようにここでは必ず履きなさい。それと、あちこち触るんじゃないよっ」


 私たちは風間さんに連れられ、使用人部屋の離れと短い通路で繋がっている母屋の勝手口からお屋敷に入りました。



「うわー、きれい‥‥‥」


 私は緊張感の中にいたにも関わらず、思わず呟いてしまいました。


 だってバックヤードから廊下に一歩踏み込んだら、私はまるで夢の中に入ってしまったような‥‥‥


 だってそこには私が窓からこっそり覗いていたあの絵本の物語みたいな世界が、私の全方位360度、広がっているんですもの。


 床板はぴかぴかつるつるの光沢を放ち、廊下の壁板上部の白い漆喰の上方には、暖かそうな(だいだい)色がぽおっと浮かぶおしゃれな灯火が向こうまで点々と連なり、通りすぎる部屋の扉にはどれも少しずつ違った意匠の花や小鳥などの美しい彫刻が施されているのです。


 大きな広間の中に入りました。


 私はもちろん、きょろきょろ落ち着きません。


 私たちは風間さんの後について、部屋の横の方にある 手前がカーブから入る幅の広い階段に向かいます。風間さんは階段に一歩踏み込んだ時ふっと足を止め、私たちに振り返りました。



「旦那様に余計なこと言うんじゃないよ? わかっているね?」


 私はお兄ちゃんと繋いでいた手をぎゅっと更に強く握りました。だって私はこの恐ろしいおばさんは大キライです。


 兄も私も返事はしませんでしたが、ひきつった私の顔を見て満足したのでしょう。そのまま階段を登り始めました。


 たどり着いた扉の前で風間さんは、コンコンとノックしながらもう一度振り返り、私たちを睨みました。



「どうぞ、お入りなさい」



 開かれたその扉の中の真ん中には立派な机があって、その向こうに新月さんのお父様が座っていました。


 私たちは風間さんに促されその正面に立たされました。


「旦那様、先ほどの子ども二人をお連れ致しました」


 風間さんは旦那様の前だと慇懃(いんぎん)な態度に変わります。さすが大人って本当にわきまえているのですね。


「ありがとう、風間さん。ほお‥‥‥見違えたよ‥‥‥あの姿からここまで整えたとは‥‥‥大変だったでしょう?」


「ねぎらいのお言葉、ありがとうございます。私に任せて頂ければこれくらいのことは」


「‥‥‥風間さん、ご苦労様。もういいよ、下がって」


「はい、旦那様。失礼致します」



 風間さんはお辞儀をし、後ろを向くと横目で私たちをじろりと見ました。



「ちっ、早くうせろ。鬼ばばぁ」


 お兄ちゃんがまっすぐ前を向いたまま呟くように言いました。



「‥‥‥えっ? なっ、なんて言ったのっ! 私にっ、この子っ!」


 風間さんはピクッとしてお兄ちゃんにヒステリックな声を上げました。


「本当の事だろ、ばーか。砂かけ、じゃねーや、水かけばばぁってか? はんっ!」


 お兄ちゃんは悪びれる風もなくさらっと言い返しました。


「まっ、まっ、まっ、なんて育ちが悪い子どもでしょう! 旦那様!」


 風間さんは真っ赤な顔をして旦那様に訴えましたが、旦那様は、


「く、‥‥‥‥‥もういいから、風間さん。下がっていいよ」


「でも、旦那様っ!」


「私が言い聞かせておくから。風間さんはもう行っていいですよ」


 風間さんは悔しそうな顔で私たちをカッと睨んでから鼻息荒く部屋から出ると、ばたんっ と扉を閉める大きな音が部屋に響きました。


 すごく大きい音がしたので私はびくっと飛び上がってしまったほどです。


 それで部屋に残された私たち3人の間に数秒間の静けさが通り過ぎました。



「‥‥‥くっくっ‥‥あーっはっはっは! いやはや‥‥‥くっくっ‥‥‥」 



 風間さんが部屋を出て三拍ほどおいてから、旦那様は急に大声で笑い始めました。


 とても愉快そうに。



「はっは‥‥‥‥ああ、久しぶりにこんなに笑ったよ。いや、ごめんね。君たち。あの人、根はそこまでは悪くは無いと思っていたんだけど‥‥‥ああいう人もここでは都合上必要でね」


 机の上に両肘をついて、組み合わせた指の上に顎を乗せて言いました。


「うーん、君はなかなかやるじゃないか。度胸がいい」


 本当に褒めているのか嫌みで言っているのか良くわからない言い方でした。



「この屋敷の中の噂はね、私 実はある方法で全部把握していてね、‥‥‥‥この分では水責めの噂は本当だったようだね。君たちをひどい目に会わせてすまなかったね。今回彼女はやりすぎだ。後で五十嵐から注意させよう」 


「ちっ! 小雪をひどい目に遇わせやがって!‥‥‥おっさん、俺たちをどうするつもりだ?」


「‥‥‥落ち着いて、大鏡くん。私はこの家の(あるじ)の名波盈月(えいげつ)だ。君たちの知っている新月の父親でもある。で、君たちは?」


「‥‥‥俺は牧野大鏡、こいつは妹の小雪。どうせ知ってんだろ? あの裏切り者の新月から聞いて」


「‥‥‥それは違うぞ。新月は君たちのことを本当に心配していたんだ。この家の誰もが新月が君たちの納屋に行っていることに気づかなかった。でも最近になって新月が兄に君たちのこと相談してね、大鏡くんと小雪ちゃんを密かに助ける方法は無いのないかと。それが私に伝わった。私が新月に君たちに関わることを禁じるとあいつはハンガーストライキを始めてね‥‥‥」





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