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ABSOLUTE CONTROL ~リアルの呪文をあげる  作者: メイズ
挿話 あなたがいたから
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お兄ちゃんの危惧〈小雪〉

 私たちは後からお手伝いに来たメイドさんのお陰で、温かい湯船にゆっくり浸かることが出来ました。


 先程、凍てついた指先の感覚はそこだけ妙に熱くて痛い。


 お風呂に入るなんて本当に久しぶりでした。


 私たちは暖かい日には早朝、川の浅瀬でお洗濯をしながら水浴びをし、寒くてそれが叶わなくなると納屋で練炭でお湯を沸かして体を拭いておりました。残りのお湯で髪もすすぎます。


 それでもこの1年間随分と汚れがたまっていたようです。


 清潔な暮らしをしていた風間さんが、薄汚れたボロい服を着た私たちを卑賤の者として扱うのは無理もなかったのでしょうか?


 新月さんは私たちに同情し、ねだられた訳でもないのに自分のおやつや絵本などをこっそり差し入れしてくれたり、子どもながら助けてくれていたというのに。


 温まって来ても兄はちっともすぐれないようでした。


「お兄ちゃん‥‥‥大丈夫?」


 湯船に二人浸かりながらうつむいたお兄ちゃんの顔を覗き込みました。


「‥‥‥‥‥くっ‥‥」


 お兄ちゃんは声を殺して泣いていたのです。


「お兄ちゃん‥‥‥」


 私は湯船の中でお兄ちゃんを横から抱き締めました。私の長い髪が湯船でお兄ちゃんの背中を絡めとるように揺れてうごめいている。


 お兄ちゃんは私の肩におでこをくっつけて来て、ただそのままじっとしていました。


 そして私の顔を見て言いました。


「このままじゃねぇ‥‥‥俺はこのまま俺たちにを終わらせはしねぇ‥‥‥だけど兄ちゃん、どうしたらいいのか見当もつかねぇんだ‥‥‥一体あいつら俺たちをどうしようって企んでんだ? 新月は敵だったのかよ? 親切ぶってよ? 俺たちをスパイしてたんだ!」


「‥‥‥新月さんはそんなお兄ちゃんじゃないよ?‥‥‥大丈夫だよ。私たち兄妹二人でいれば何とかなるよ? 今までだってそうだったし、これからだって。小雪、お兄ちゃんのためだったら何でもするよ? 元気出して‥‥‥」


「‥‥‥気を許すな、小雪。小雪は器量良しで将来が楽しみだって昔から言われてただろ? あいつら、俺を庭師の手伝いでもさせて、小雪は売り飛ばそうとしてんのかもしれねーだろ? 隙を見てこっから逃げようぜ」


「うん、わかった」


 即座に返事をしました。


 新月さんに会えなくなるのは寂しかったけれど、仕方がありません。私にとって兄以上の人はいないのですから。



 後から来て私たちを助けてくれたメイドさんに石鹸でごしごし洗われ、用意されていた古着のお洋服を着せられて、兄と私は今までが嘘みたいに小綺麗に変身しました。


「まあ、二人ともこんなにきれいになって‥‥‥なんてかわいらしいこと! うふふ」


 4畳半の小さなテーブルしかない和室に連れてこられた私たち。


 優しい方のメイドさんはポケットから飴の小さなカンを取り出して、私たちの手のひらに一個ずつくれた。


「これなめて ここで待っていてね。今、温かいお食事を持ってくるからね」


 お姉さんが部屋を出て、パタンと戸がしまった瞬間お兄ちゃんが言った。


「食うな、小雪! 毒が入っているかも知れないぞ!」


「もう遅いよ‥‥‥あまーい‥‥‥すっごくおいしいよ、お兄ちゃん!」


 お兄ちゃんは私の顔を見て葛藤してるようで、なんとも情けないような怒ったような困ったような顔をしています。


「大丈夫だよ。毒は入ってないよ? お兄ちゃんも食べなよ。はい、あーんして!」


 私はお兄ちゃんの手のひらに乗った金色のまあるい飴をお兄ちゃんの口の中に入れました。


「‥‥‥‥うめぇな」



 私たちは優しいメイドさんの、名前は "梅子" さんというお姉さんが持ってきてくれた大根のお粥とたくあんを頂きました。


 その間、私たちを見てにこにこ嬉しそうに見ていた梅子さんが言いました。


「二人とも髪を整えなければね。旦那様にお会いになる前に。大鏡くんは、とりあえず後ろでひとつに結びましょうか。小雪ちゃんは私がささっと前髪を切って後ろの毛先だけでも整えてあげるわね。そしてこのリボンをつけましょう。ほら、綺麗でしょう? あのワンピースに良く似合うわよ。私のとっておきなんだけど貸してあげるね」


 表面がもこもこした布地の赤いリボンを私に見せました。


 まるで絵本で読んだことがある異国のお姫様のみたい。



 今、壁に掛けられている膝丈の赤いワンピースと白くて薄くて長い、いままで見たことがないこの靴下は私がこれから着るの?


 あの肩ひもがついてる短いおズボンと白いシャツと子どもの大きさの紺色の上着はお兄ちゃんの分? 


 うっとり見とれる私はお兄ちゃんが憂いた顔をしていたことなど気づくはずもなく‥‥‥




 梅子さんの手によって私たちの髪が整えられた後、先ほどから壁に掛けて用意されていたあのお洋服を着せられました。


「きゃーんっ! なんてかわいらしい兄妹なのかしら! 私ってすごーい! って、元がいいからよねっ? めんごめんご」


 梅子お姉さんは頬を染めて、なんだか一人で何か盛り上がっていたけれど、よくわかりませんでした。

 その後は、真面目な顔になってこう言いました。


「ちゃんと旦那様にハキハキとご挨拶するのよ。いい? 旦那様に気に入られればきっと待遇もよくなるわ。お行儀良くするのよ? いいこと? 梅子お姉ちゃんとのお約束よ!」


梅子さんは私たちを一人ずつぎゅっと抱き締めてから部屋を出て行きました。



 薄ら寒い部屋でお兄ちゃんと壁際で肩を寄せあって座っていると、いきなりガラリと戸が開いて、あの怖い風間さんが現れました。 


 私たちはサッと立ち上がり警戒し、お兄ちゃんは片腕で私を抱き寄せました。  



「あんたたち、支度はできたんだね? あの薄汚な、な、な、なっ?‥‥‥‥はぁっ、嘘だろう?」



 私たちが綺麗な洋服を着ていたから見違えたのでしょう。馬子にも衣装と言いますからね。



 あの驚いた風間さんのお顔も忘れてはいませんよ。この年になってもね。うふふ




 ‥‥‥‥‥黒鮒様の御守りを手にすると、昔の、あの頃の回想が今でも鮮やかに甦るのです。




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