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ヴェクサシオン  作者: 杜若表六
第二章

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「おおい! マネージャー君! マネージャー君! どこだい? どこにいるんだい?」

 郵便局から出てきた市長は、辺りに青年の姿が見えないのに気づき、大声で彼を呼んだ。しかし、五分ほど経っても、一向に彼は現れなかった。いやな予感がした。額から汗がにじむ。それからさらに一〇分経った。青年の姿はどこにもない。全身から汗が噴き出す。

 しまった、なんてことだ! マネージャー君が消えてしまった!

「おやおや、どうしましたかな? 市長」

 途方に暮れている市長のもとへ、立派な軍服を着た、狐のような男が近づいてくる。どこか狡猾そうな印象を与える、細い目と裏腹に、その声は明朗で勇ましい。だいぶ年配のようだが、その足取りはしっかりとしている。その顔は全体としてよく狐に似ているが、どうやら人間のようである。

「ひどくお困りのようですが、祭りの準備に手間取っておられるのか?」彼は親切そうに言った。

「ああ、隊長。こんにちは」市長はポケットからハンカチを取り出して、顔を拭った。だが汗はいくらでも噴き出してくる。「いや、なに、一緒にいた人とはぐれてしまいまして。その人、この街は初めてなので、迷ってしまわれたんじゃないかと。それが心配で心配で」彼は本当に心配していることがらについては一切口に出さなかった。

「それはそれは! では、吾輩にお任せあれ。さっそく、部下たちに探させましょうぞ」狐が慇懃に言った。

「本当ですか? ありがとうございます。……いや、見つかるといいのですが」と熊市長。

「我々自警団を甘く見てもらっては困りますな! この大切な時期に、市長のお手を煩わせるわけにはまいりませぬ。とにかく、その方の特徴を教えていただきたい」狐は自信たっぷりに言う。

 熊は狐のような男――自警団の隊長なのだ――に、マネージャーの外見の特徴を説明した。狐は胸ポケットから取り出したメモ用紙に一々うなずきながらそれを書き込んだ。かなりの癖字である。一通り聞き終わり、「わかりました。お任せあれ!」と、ポケットにメモ帳をしまう。

「ところで市長、その青年は一体どこからやってきたのですかな? 広い街とはいえ、ここで育った者なら、あまり迷うようなこともないでしょうからな」

「ええ……まあ……なんというか……遠い、遠い街です。おそらく隊長もご存じないような、遠い辺境の街からやってきたのです……そう、私が呼んだのです」

「ほうほう。吾輩も知らぬような、遠い街ですな? なるほど、それで合点がゆきました! きっと、祭りの新しい出し物の、手伝いをしにやって来たのでしょうな? だからこの街にも初めて来たのですな? いや、この辺りで、この街に来たことのない者は、おりませんからな! そうですか、そうですか……これはなんとしても、その青年を見つけてやらねばいけませんな? この街の評判に傷がつきますからな、特に裏通りなど歩かれてはね!」と狐男は市長に鋭い視線を向けた。

 熊市長はその言葉に対して曖昧な微笑を浮かべたまま、何も答えなかった。狐隊長は闊達に笑って、市長に挨拶すると、さっさと去っていった。

「行方不明の青年が、違う世界から来た、だとか、悪魔にさらわれたかもしれない、なんて正直に言ったら、隊長は一体どんな顔をするだろう?」と熊顔の市長は思った。

「私が、まるで正気でない、と思われるのが関の山だろうな……とにかく、話がややこしくなる前に、私が見つけ出さなくては。そうだ、彼の言う通り、裏路地などに行ってしまったとしたら、あの青年が危ない!」

 市長が自らマネージャーを探そうと一歩を踏み出したちょうどその時、遠くの方からであろうか、

ボオオォォォンン……

ボオオォォォンン……

という重い音が響き渡った。教会の鐘を誰かが鳴らしたのである。

「火事だ! 火事だ! 役場で火事だ! 激しいぞ!」誰かが走りながら、叫んでまわっている。

 騒がしくなった群衆の中、うろたえている熊のところへ、男が急ぎ足で近づいてきた。

「市長! こんなところにいたんですか? 探しましたよ。役場が燃えているんです! さあ、さあ、一緒に行きましょう」それは、役所の会計係の男だった。「人がまだ中にいるんです! とにかく、来てください!」

 遠く、役場の方面に、長く伸びた黒煙が上がっていた。そちらの方角から、人々が群れをなして逃げてくる。言葉にならない悲鳴を上げる者さえいた。その人の波に真っ向からあらがうように、市長と会計係は走り出した。

 役場までの混雑した道を汗だくで駆け抜けながら、市長はすっかり混乱していた。いったいなんて日なんだ? まったく、この忙しい時期に、青年はいなくなるわ、隊長に借りをつくるわ、役場は火事だわ……。これもすべて、悪魔の仕業なのだろうか? いや、そのうちの半分は私のせいだ……ああ!

 教会の鐘は無情に、ひたすら鳴り続けている。

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