表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏、俺は魔法使いに恋をした  作者: クスノキ
第3章 初夏、俺は魔法使いを失った。
43/44

第43話 ひかるのはなし⑤

 ――そっか。そうなんだ。


 斬られた腕が、勝手に動いて、血が白くなったのを見たとき、光瑠は自分がすでに死んでいて、人形になっていたことに気付いた。

 同時に最近おかしいなと感じていた、いろいろにも納得がいった。


 不確かだった記憶も、鮮明によみがえる。

 髪が伸びなくなった。当然だ。人形に髪を伸ばす機能は必要ない。そもそも、あの人は光瑠を長く使い続けるつもりもなかったのだろう。

 陽作への恋心が燃え盛って、おさまってくれなかった。当然だ。人形は、人形になった時点で心の変化が止まる。光瑠が殺され、人形になったとき――光瑠が陽作に振られた日だ。あの日が一番、光瑠の陽作への想いが強まっていた。


 嫌っていたはずの呪術を当たり前のように使っていたことも、光瑠が人形になって操られていたことを思えば当然だ。

 思い出す。あの日、陽作に振られ、由乃に慰められ、家に帰ったとき、あの人は聖女のような笑顔をたたえていた。

 ぐちゃぐちゃの精神で、泣きはらした光瑠に、あの人は――重日時季子は言ったのだ。


『あなたには、人形になってもらいます』

 そして、胸を何か貫かれる感触がして、意識は一度途切れる。

 目覚めたときにはもう、光瑠は時季子の忠実な人形になっていた。


 人を呪術の贄にするという、残酷な行為を、何の疑問ももたずに実行していた。

 でも、もうそれも終わりだ。


 ――人形は、人形であることを自覚すれば自分を保てない。


 だから、光瑠の全身はひび割れ、ここで朽ち果てる。

 それでいいの?

 床にへたり込み、光瑠は考える。


 あたしの人生は、これで終わっていいの?


 いい、わけがない。

 どうしても勝ちたいと思っていたあきらには負け続けて。

 誰よりも愛した陽作には振られたまんまで。

 信頼していた人に裏切られ、道具として酷使されて。

 それで、終わる?


 いやだ。


 ここで終われば、あたしはあたしを許せない。

 ここで死ぬのだとしても、このままじゃ、嫌だ!

 そう思ったとき、光瑠の死んだ体に力が灯った。冷えた死体に宿る、執念とも呼べる熱。

 その熱に従って、剣を手に光瑠は立ち上がったのだ。


 ――面白いものを見たと思った。


 人形の核を貫かれ、光瑠とあきらは抱き合うような形になる。あきらの耳元で、光瑠はささやいた。

「あなたと陽作くんは、よく似てる」

 首元狙いの突きに対して、陽作もあきらも下からの剣の打ち上げを狙った。確実に相手を仕留めようとする、合理的な戦い方。


「陽作くんを、よろしくね」

「えぇ、当然です」

 光瑠はもう消えてなくなるから。あきらは小さく笑って答えてくれた。剣を引き抜かれると、体が崩壊を始める。


 ぐす、とあきらが鼻をすする音が聞こえた。

 体が倒れる。痛みすら、もう感じなかった。体の機能が、だんだんと停止していく。音も遠く、視界も暗くなっていく。


 もう時間はない。光瑠は死ぬ。

 これまでの人生を思い出す。大変なことも、楽しいこともあった。

 由乃。

 平和な日常で、光瑠を支えてくれた大切な親友。

 結局由乃には、迷惑をかけっぱなしだったな。


「光瑠……」

「あ――」

 目の前に陽作がいた。狭まる視界で、光瑠の目には陽作だけが映っていた。


「ひ、陽作、くん。あたし、あたしは」

 気づけば、陽作に手を伸ばしていた。

 陽作はその手をとらなかった。


 それが正解だ。光瑠は思う。

 陽作はあきらを選んだのだから、光瑠の手はとっちゃいけないんだ。

 最後に見るのが陽作なんだ。

 それでもう、満足。


「光瑠、俺は」

「陽作、くん」

 伸ばした指先が崩れる。塵になって消える。これじゃ、もう手をつなぐこともできないね。言葉は口から出てこない。


 そのとき、奇跡が起こった。

 消えゆく感覚の中、熱いものを感じた。

 陽作が、光瑠の前で泣いていた。

 顔をくしゃくしゃにして、ぼろぼろと大粒の涙をこぼしながら。


 嘘つき。


『俺、泣いたことってないんだよ』

 初めてのデートのとき、そう言ってたのに。

 感動屋な光瑠と同じように、ぼろぼろ泣いてるじゃないか。


「俺は、光瑠と付き合えて、幸せだった」

 あぁ。


「そっか」

 満たされていた。


 上沼光瑠はずっと一番を追い求めていた。

 けれど、その一番はいつも遠くて。

 だからこそ、光瑠は一番というものに焦がれていた。

 泣いたことがないと語った陽作を泣かせたのであれば、


 ――それは、一番ってことでいいんじゃないかな。


 消えゆく世界の中、光瑠は目も、耳もすでに機能を失っていた。

 だから、この言葉が陽作に届いたのかはわからない。

 最期に、光瑠は言った。


「あたしも、幸せだったよ。陽作くん。ありがとう。あたしのために泣いてくれて」


 あたしの、一番になってくれて。


 誰よりも、何よりも愛してる。


 どうかあなたの未来が、あふれんばかりの幸せにあふれていることを。


 そうして、光瑠の意識は塵となって消えていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ