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夏、俺は魔法使いに恋をした  作者: クスノキ
第3章 初夏、俺は魔法使いを失った。
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第40話 光瑠②

 光る星の急襲を受けた光瑠の反応は早かった。星を剣で打ち払い、倉庫の奥へ後退する。

 驚きのあまり硬直する陽作の耳が、走る足音を聞いた。軽い、けれど頼もしさを感じる足音だ。


「あきら」

「なんで、あんたがここに」

 陽作と光瑠の考えが一致した。ありえない。そんな思いをにじませて。


「私は、向井くんの主、ですから」

 陽作と光瑠の間を遮るように、あきらが立っていた。


 *


「約束、したのに」

 右手にナイフ、左手に短杖をもったあきらは背後で倒れる陽作に振り返る。

「あきら、無事、なのか?」

 あきらの顔は眠っていたときと同じで、血の気がなかった。唇など真っ青で、小さく震えている。呼吸の音を、弱弱しい。


 陽作は自分の負傷も忘れ、あきらの心配が心配になる。

「……それは私のセリフです。あなたこそ無事ですか。光瑠さんに徹底的にやられたようですが」

「痛いけど、生きてはいるよ」

 事実、光瑠から受けた傷からの出血はすでに止まり始めていた。


 強化魔法の力おそるべし、だ。

「当然です。死んでいたら、許しません。契約違反です」

 言って、あきらは光瑠と向き直った。光瑠は憎悪というより、怪訝なものを見る目であきらを見ていた。


「どうやって? あの毒を解毒したの?」

「違います。毒はまだ私の中で効果を発揮しています」

 あきらは自分の頭に、ナイフの柄を当てる。


「毒を受けている体に、幻惑魔法をかけました。毒を受けたという事実をごまかしています。ごまかしているだけですから、そのうち毒で私は死にますね」

「なんだ、それ」

 光瑠の声が震えた。


 驚いたのは陽作も同じだった。あの昏睡状態から一時的に目を覚ましたことだけでも驚きなのに、まさか毒をごまかして動くようになるなんて。

 そんなことが、可能なのか? そんな思いは光瑠も同様のようだった。

「でたらめすぎる。あんた、そんなこともできたの?」

「だとしたら、どうします?」

「どうもこうも」


 余裕すら見せるあきらに、ぶわりと燃え上がる怒りに身を任せそうになった光瑠だったが、すんでのところで踏みとどまったようだ。目を細め、ポーチから呪術の結晶を取り出した。

「あたしと戦え。全力で。正面から」

「あきら、光瑠は解毒剤を持ってる。だから」

「そうですか。わかりました」


 あきらは自分の髪に手を当てた。光瑠から一度逃げるために、一部が短くなってしまった髪の毛、その長さをそろえるようにナイフで躊躇なく切った。

 腰まであった髪の毛が、肩甲骨のあたりまで短くなる。


「なっ」

「あなたは呪術を使って戦うんでしょう? なら、私も使わせてもらいます」

 あきらは名残惜しそうに切った髪を見つめ、それから冷たい魔法使いの目で告げた。

「〈代償〉〈強化魔法と星魔法の力を高めよ〉」

 取引が成立した。あきらのつかんだ髪が灰となって消える。倉庫全体が重苦しいものに包まれる。

 圧迫感の中心にいるあきらは、不敵に笑ってみせた。


「さぁ、使ってくださいよ。これでも私、従者を傷つけられて怒っているんです」

「言われなくても!」

 光瑠は呪術の結晶を砕いた。ゆがみが生じて、光瑠の中に吸い込まれる。

 どろどろとした、濁った闇を光瑠はまとう。

 息がつまりそうな緊張感。あきらと光瑠は互いに視線を交わした後、同時に姿を消した。


 刹那、あきらのナイフと光瑠の剣が衝突した。その衝撃で、倉庫全体が揺れる。

 見えなかった。陽作は全身が鳥肌立つのを感じる。

 あきらの周囲で星が展開。多い。百近い星が至近距離にいる光瑠を襲う。


「〈撃て〉」

「ちっ……〈硬化〉!」

 星は音を発さない。無音の暴威が光瑠を襲う。暗い倉庫が輝かしい光で満ちる。空気の焼ける匂いが漂う。

 星の猛攻を受けた光瑠は、肌の一部が焼け焦げていたものの、立ってあきらをにらみつけていた。反撃とばかりに、剣をふるう。


 あきらは避ける。追いすがる光瑠に対し、あきらは再び星を展開。星はさっきよりも数は少ないが、輝きが増していた。短杖を指揮棒のようにふるって光瑠を包み込むように攻撃する。

「なめるな」

 光を遮るように、黒い靄がポーチから吹き出た。靄は光瑠を守るように広がり、星の光を遮断する。


 光のいくつかは靄を貫通し、光瑠の体を撃つが威力が足りていないのか、あるいは光瑠の意地なのか、光瑠の動きはとまらない。

 魔法使いは星の光で攻撃し、呪術師はその全てを身体能力のみで対応する。二人の息もできないような激しい攻防の行方は、次第に光瑠の方へ傾いていく。

 倉庫を駆け回る二人。光瑠の銀閃が風を切り、あきらの星が闇を焼く。その果てに、呪術で高まった肉体は、代償で高められた魔法を凌駕し始める。


「くっ」

「あたしは!」

 あきらの顔に焦りが浮かぶ。距離を取ろうと後ろに下がる。そんなあきらに光瑠は強引に迫る。光瑠はあきらを剣の間合いにとらえた。

 呪術で極限まで高められた光瑠の剣技を、陽作の目は追いきれない。星の光と、呪術の闇を引き裂く光瑠の剣技がほとばしる残影のみ見える。


 歯を食いしばり、あきらは剣をしのいだ。かわし、ナイフで受け、星で迎撃する。だが光瑠の手数はあきらを上回る。しのぎ切れず、あきらの体のあちこちが斬られる。

 光瑠の口がつり上がる。かすり傷だ。それでも、光瑠の猛攻にあきらは押されている。


「使えよ」

 光瑠のつぶやき。あきらが小さく口を開く。


「〈貫け〉」

「ぁっ」

 突如、光瑠が横に吹っ飛ぶ。床を一度バウンドし、すぐに立ち上がり、横腹に手を添えた。

 ビー玉よりも小さい、エアガンの球サイズの星の光だった。おそらく貫通力に特化していたのだろう攻撃は、しかし、光瑠を傷つけるだけに至る。劣勢においてなお、あきらは罠を張って対抗してみせる。


 生まれた隙はわずか。そのわずかな隙を使って、あきらは光瑠から大きく距離をとる。

 近距離戦は不利と見たのだろう。

 倉庫が昼間のような明るくなった。床のへこみや汚れすら見えるほどのまぶしさに、陽作は思わず目を閉じる。


「〈輝き 奔り 巡り 狙い〉」

 目を開けた陽作が見たのは、倉庫の壁に立ち、無数の星の光を展開したあきらの姿。真っ青な顔をぎゅっと引き締め、短杖をふるう。

 星の光はますます増える。あきらの周辺から壁をつたい、天井を覆いつくすほどに。

 満点の星空、というには、あまりに強烈な光の群れが光瑠に照準を合わせていた。


「なんでだ……」

 その光の暴力を見た光瑠は、驚きではなく、強烈な怒りを浮かべていた。殺意のこもった視線を、光の中心にいるあきらに向ける。


「使えよ」

「〈――滅ぼせ〉!」

「使え!」


 満点の星空がたった一人、怒りに震える声で叫ぶ光瑠に向けて降り注いだ。

 冷たい輝きが、広い倉庫を埋め尽くした。


 ――あきらの星の魔法は質量を伴わない、エネルギーの塊だ。触れたものへ衝撃を与え、破壊する。

 実体を伴わないために、威力や速度の調整がしやすい。攻撃魔法の中でも汎用性が高く、使い勝手のいい魔法だと言われている。

 だが質量を伴わないということは、魔法による防御を容易にするという欠点をもつ。


「うそだろ」

 思わず陽作の口から言葉がこぼれた。

 輝きが消え、暗闇を取り戻した倉庫の中には、黒い靄に包まれた光瑠がいた。

 無傷ではない。身に着けた制服は焼けこげ、光瑠自身も顔をゆがめ、肩で息をしている。だが、大きな負傷はなく、小さな負傷も黒い靄が入り込んで癒してしまう。


 さすがのあきらも、今の魔法をほぼ無傷でしのがれたことには驚いたらしい。目を見開いている。

「ふざけるな」

 地の底から響くような光瑠の声。


「なんで使わない」

「……なんのことですか」

「お前の、魔法だ」

「私は」

「全力で戦えと言っただろ!」

 光瑠は叫んだ。


 目には涙すら浮かび、肩を震わせている。剣を握る手は、柄を握りつぶしてしまいそうなほど強く握られていた。

「あたしは知ってる。あんたが、もう一つ魔法を隠しもっていることを。使え、使ってよ、あの魔法を。その上で、あたしはあんたを上回らないといけないんだ」

「あれは、いや」


 あきらの顔に動揺が浮かび、顔が引きつる。ナイフをもつ手が震えている。

 使いたくないと、あきらは言外に語っていた。

 光瑠はもはや懇願するようだった。壁に立つあきらを見上げ、光瑠は涙をこらえるように大きな声を出す。


「あたしから一番を奪ったあんたを、あきらを倒さないと、あたしはあたしを認められないんだ! もし、まだ使わないっていうのなら」

 息が止まる。

 光瑠の目は、倉庫の隅で動けない陽作を向いていた。


「陽作くんを、殺す。それであんたも本気を出すでしょ」

 光瑠の目から、涙が一筋流れた。判断は早かった。光瑠は剣を構え、圧倒的な速度で接近。その心臓を狙って、剣を突き出す。


 迫る光瑠の顔は、くしゃくしゃに歪んでいた。怒っているのか、悲しんでいるのか、恨んでいるのか、とにかくいろいろな感情がめちゃくちゃにかき混ぜられた表情だった。

 何かを考える時間すらなかった。ただ一秒にも満たない時間のうちに、陽作は光瑠に殺されることを悟った。


「だめ」

 消え入りそうな声が聞こえた。陽作は、それがあきらの声だと脳が理解した瞬間。

 キィィン、という甲高い音が倉庫に響いた。

 陽作と光瑠の間に、七色に輝く結晶が撃ち込まれていた。


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