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「奇跡の子」だけど脇役です!~周りが主役級ばかりなのでヒロインといわれても困ります~  作者: 沙霧紫苑


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推測と仮定

 朝食を済ませた私は、特別な本の続きを見ようと自分の執務室へ入った。

 幸い、商会の方は忙しくも私でなければ回らないことはほとんどなくなっていた。

 幸い……なのだろうか。

 今の状況を思えば、いっそ、最初の頃のように学園と仕事に追われていた方がよかったのかもしれないと思ってしまう。

 時間があれば、余計なことを考えてしまうから。

 私はため息を一つ吐き、観念したように本を開いた。

 本の中では、魔王を討伐した後のことが描かれてた。

 亡国となってしまった4つの国を一つとして、勇者であるルカ=アダマスを国王としたアダマスを建国するところだった。


 ――――――――――――――――――――――


 魔王が討伐され、魔族たちの力を削ぐことで外の世界からの介入が難しくなったこの世界では、元々の神が力を取り戻しつつあった。

 外の世界からもたらされたものである勇者の剣と勇者の存在は、今や神にとっては『障り』でしかない。だが、世界を救ったものでもある。

 そんな中、シェリルはルクレツィアとして世界を呪ったことへの償いとして、神へ助力を申し出る。

 私は激しく反対したが、そうしたいというシェリルの気持ちも理解していた。


「お兄様、確かめたいことがあるの。そのためにはルカの近くに居なければならないの」


「何を確かめたいんだ? 私で出来ることなら代わりにやる。あいつの側は危険だ。あんなクズ……お前に手を出さないとは思えない」


「でもこれは、私が、私自身でやりたい」


「シェリル……」


 私とてシェリルの意志が固いことは分かっている。

 だが、兄として、危険に飛び込むのを見ているだけなんて、出来るはずはない。


「どうしてもというなら、私も中央に入る。だが、私がいつもお前の側にいることは難しいだろう。だから、絶対に二人きりになるな。自分の身を必ず守るんだ。いいな」


「分かっているわ、お兄様」


「その前にシェリル、一体、お前は何を知っている。何に気づいた?」


 じっと互いを探るように見つめ合う。

 しばらく無言でそうしていたが、私と同じ色をしたアメジストの瞳が、ふと、ゆらりと揺れる。


「お兄様……私、ルカがルキウスと何か関係がある気がしてならないの」


 その可能性を考えなかったわけではなかった。

 ルカの容姿は、帝国史に語られる最後の皇帝ルキウスに似ていた。

 だが、それだけだ。

 実際に空色の髪と深い青の瞳は純粋な帝国民である証で、ルキウスが皇帝だった頃の帝国領では少なくはあったが、ただ一人ではなかった。

 そして、ルカは、外の世界からの介入によって『作られた』勇者だった。


「あいつは……」


「そう、外の介入によってこの世界に降ろされた魂だわ。だとしたら……彼が入った身体の元の持ち主はどうしたの?」


 ルカの身体はこの世界の者だ。

 しかも、旧帝国民であることを色濃く表している。


「まさか、お前……」


「この世界の神が言ったの。ルキウスの魂は輪廻の中に帰ってきていないと。ならば、どこかに囚われていることだって考えられるわ。外の神の力が弱まっている今なら、外の神を完全に排除できるかもしれない。そうすれば、彼を探せる」


「だから、外からの介入を防ぐためにこの世界の神へ力を渡すというのか? それであいつの近くに行くだって? 自殺行為だ!」


「私がお兄様を、世界を巻き込んでまで転生したのは、彼を探すためよ」


「……っ」


「お願い、お兄様。この生で彼を救えなくても、いつかの私が彼を見つけて、救えるように……今、私が出来ることをしたいの」


 どれだけの情がそこにあれば、ここまでできるのか、正直なところ、私には分からない。

 想像もつかなかった。


 ――――――――――――――――――――――


 それから本の中では、彼らが建国のために忙しく動きまわり、シェリルは初代国王となったルカの側で聖女として働く姿が描かれていた。

 国を作る、立て直す、そう言った意味では今のアダマスは少しだけ状況が似ているのかもしれない。

 そんなことを考えながら、シェリルの推測はどうなったのだろうと、私は興味をもって次のページをめくる。


「えっ……なぜ?」


 そこには、ページが切り取られた跡があった。

 ページにして数ページではあったが、次のページをさっと見ると、すでにシェリルの時代ではなくなっている。

 この本が特別なものであることを考えれば、それが出来るのは、シェリルの時代を描いていたダリルか、その後の聖女たちと側で記す者。

『ルクレツィア』たちにも隠しておきたい何かがそこに書かれていたのだろうと、私は考える。

 もしかして、ルキウスの魂が見つかったのだろうか。

 ならば、隠す必要はないはずだ。『ルクレツィア』たちは彼を望み、彼を探しているのだから。

 もし、もしも、ルキウスの魂が、すでに喪われていたとしたら……。

 そんな考えが浮かんで、私はあわてて首を振る。

 違う、そうではない。きっと、それは違っている。

 ほの暗い感情に囚われそうになった時、扉を叩く音がした。

 ハッとして現実に引き戻された私は、とっさに動くことが出来なかったが、幸い返事はちゃんと出来ていた。


「お嬢様、王宮からの招待状が届きました。他家からでしたら控えましたが、王妃殿下からでしたので、お声掛けいたしました」


 レイモンドの持つ銀のトレイにのせられた空色の書状は、王族が使う紋章で封がされていた。

 丁寧に封を開け、中には日時の書かれた招待状とメッセージカードが入っている。


『私の友人を貴女に紹介したいの。

 私的なお茶会だから気軽に来てくれると嬉しいわ。

 美味しいお菓子も用意しておくわね。


 セリーナ=アダマス』


 こ、これは……

 私的なお茶会とはいえ、王族からのお誘いを断るのはあり得ない。

 一週間後の日にちが指定されていることから、確かに大規模なお茶会ではないだろうけれど。


「使者の方はいらっしゃって? お返事を待っているかしら」


「はい、エリオット様が応接室でお返事をお待ちです。今は、セシル様とご歓談をされております」


「エリオットさま? って、オパール家のエリオット様?」


「はい」


 流石、王妃様というべきか、宰相閣下のご子息で補佐をされているあの方で間違いないらしい。

 以前、夜会でお会いした時はまだ粛清前で、私にとっては見かけただけという認識だが、応接室にいらっしゃるならばご挨拶はしなければならないだろう。


「すぐにお返事を用意するわ。その間、失礼のないようにね」


「承知しました」


 お兄様がお相手をしてくださっているのならば安心だが、長く待たせるのはいけない。

 了承の旨をお伝えする手紙を急ぎつつも、丁寧に書いていく。その間にコナはすでにドレスの準備をしていてくれていた。

 返事を書いた勢いのまま着替えをして応接室に向かえば、中からすでに楽し気な声が聞こえてきた。


「レイモンド、頼むよ~」


 私の頭の中に疑問符が並ぶ。

 エリオット様の相手をしていたのはお兄様ではなかったの?

 なぜ、レイモンドを……そんな親し気に呼んでるのかしら……。

 混乱する頭の中を整理する必要がありそうだと、扉の前で私は立ち尽くすしかなかった。



ご覧いただきありがとうございます。

少しでもお楽しみいただけたら嬉しいです。

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