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Express BRZ  作者: Elena
第二章 モビリティリゾートもてぎ
31/82

アヤの怒り

 ラリーカー達と別れ、三条神流は給油の後、また走り出す。

(今ある装備でも出来る事をするしかない。アヤに追いつくには。今の装備では、とても無理だって言われているが、それでも―。)

 三条神流は歯を食いしばる。

 国道353号のワインディングロードを攻め込み、そのまま、からっ風街道に突入する。

「クソッ!」

 と、三条神流は溜息。いくらやっても、タイムが伸びない。

 そればかりか、徐々に走行ラインがブレ始めている。

 にも関わらず、三条神流はからっ風街道を何度も走る。

 だが、走行ラインのブレや不安定さはどんどん増していく。

 電力研究所前ストレートを思い切り加速しながら通過。そして、養護学校前のコークスクリューの信号を突破し、粕川の橋を飛び越えるように通過。

 登り勾配を5速から4速に落として通過するが、リアが流れる。

「ちっ!」

 アクセルを抜いてお釣りを喰らってスピンしかかるも、クラッチを踏み込んで逃げる。

(クソッ!今のでまたタイムロスだよ!)

 下りの右コーナーを抜け、龍願寺前ストレートを一気に通過する際、後ろからパッシングされる。

(マジか警察か畜生。)

 三条神流は肩を落とす。だが、それは日菜子のロータス・エリーゼだった。

 日菜子は三条神流の横に並ぶと、付いて来いと言う仕草を見せた。

 付いて行くと、からっ風街道を外れた林道に入る。

 からっ風街道沿いの寂れた売れない別荘地の一角。

 そこは、東郷三姉妹の住む別荘だった。

(ああ。日菜子はバイクで前橋の高校まで来ていたっけ。こんなところから前橋まで、バイクだと遠いよなぁ。)

 と、三条神流はふと思い出す。

 別荘の前の広い簡易コンクリートの広場に、三条神流は日菜子に誘導されながらBRZを止める。

「アヤも仕事終わったら来る。飲め。」

 と、日菜子は冷蔵庫から飲み物を出す。

「その前に、カンナが呑めるか聞いた?」

「アルコール軽く飲ませる。」

 等と、日菜子と恵令奈が話している声が聞こえる。

「ほれほれ、邪魔邪魔ぁ!」

 玲愛が三条神流を押しのける。

 玲愛はロータスから荷物を降ろしている。どうやら、ヘルメットのようだ。

「どこに?」

「福島のエビスサーキットでドリフト。まぁまぁな結果。」

 玲愛は溜息混じりに言った。どうやら、納得していないらしい。

「表彰台、登れたけど3位。クソかよ。」

「-。」

「なんで、3位で不満なのって面ぁして。あのねぇ、私はトップじゃないと意味無いの!」

 玲愛は怒りに満ちて言う。

「なんとなく、対立するの分かった。」

 と、三条神流は溜め息をついた。

「何?両毛連合のアホ面連中と、私達やアヤ達が対立しているって思ってんの?対立って言うか、理解してもらえないの!モータースポーツの事を!いい!?サーキットって言う世界、モータースポーツって言う世界では、周回遅れになった途端、観客の冷たい視線に晒されるんだよ。それでも走り続けなければならない。逃げる場所なんてない!」

 玲愛は熱い。

 三条神流は松田彩香がレースの時、どんな感じだったのか、そして、ホワイトレーシングプロジェクトの坂口拓洋が何と言っていたかを思い出す。

(俺なんて、甘いなぁ。)

 と、三条神流は思いながら、BRZを見ると汚れているのに気付いた。

「あのさ、大間々か前橋に行っていいか?洗車したい。」

 と、三条神流。

「なら―。」

 日菜子は洗車用具を引っ張り出す。

「使っていいよ。洗剤もあるから。今日はずっと走りっぱなし?それじゃ、車も汚れて疲れちゃうよ。サーキット行ったんでしょ?」

「あっああ。本庄サーキットに。全然ダメだった。」

 三条神流、肩を落としながら、洗車を始めた。

「最初から上手く行かない。上手くやろうとするから失敗する。失敗して当然。両毛連合の奴等と私達が相性合わないのは、奴等は最初から全部上手くやろうとして、失敗して、つまらないって言う理由で、まったくやる気にならないから。アヤもそうだと思ったけど、アヤは違った。」

 恵令奈は言う。

「アヤは何かを求めるか、或いは何かを発散させようと走り始めた。そんな奴は危険と隣り合わせ。だからやらせてみた。生きるか死ぬか。そして、一度、アヤはやらかした。買ったばかりのGR86が、ヒーローしのいサーキットの帰り道でタイヤバースト。エコタイヤで無茶して、草木ドライブインの目の前でタイヤがね。その時、両毛連合何したと思う?姫扱いして担ぎ上げよ!満更でもない態度を取った後、アヤは私に襲い掛かって言った。「私の求める人はただ一人。」ってね。」

「-。」

 三条神流、言葉を失いながら、洗車を続ける。

「アヤが、ヤンデレ化したのは、半分以上、カンナのせいよ。そんなところへ、アホ面かいてってわけじゃないけど、泣き面晒して帰ってきたらどうなる?」

「-。」

「怒り任せに、襲って、滅茶苦茶にして、下手をすれば、カンナ、殺されるよ。さっき連絡したけど、今日のアヤ、めちゃ怒ってる。何に対してか、カンナがサーキット行って、無事に帰ってこられたのに、それを無下にしかけた挙句、それに自信を持っていない事に対して怒ってる。さっきも言った。アヤは、峠で滅茶苦茶やった後に初のサーキットで無事に帰ってこられなかったのよ。帰り道でタイヤバーストさせて、姫に祭り上げられて、それ、アヤが一番嫌うって事、カンナは知っているでしょう?」

「-。」

 三条神流、何も言えなかった。


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