皮剥き
その後も、筑波サーキットのAライセンス取得講習に向けて、三条神流はからっ風街道等、赤城の南麓地区のワインディングロードや、赤城道路の峠道を走りに走る。
月が替わって、新しいシフトが出来た今日、松田彩香と三条神流は1台の担当車をシェアし会う相番になると思われたが、見ると休みの日も勤務日も同じになっていた。
「アヤの圧力か。」
と、三条神流はつぶやいた。
仕事終わり、三条神流は深夜2時頃に帰宅すると、シャワーだけ浴びてさっさと寝るが、朝の6時過ぎに起きてしまい、軽く朝食を腹に入れたら朝の赤城山に繰り出し、朝の9時過ぎ、一度赤城山を降りると、霧降要のいるカーショップに行く。
今日はタイヤを交換するのだ。
ヨコハマのアドバン・フレバ。松田彩香が使用しているタイヤとは違うがエコタイヤよりはある程度グリップはするだろう。
タイヤ交換をして貰っている間、辺りを見回していた時、好きであるが嫌いでもある奴がやって来たのが目に入った。
「やっ。」
「おはようサンボル。」
大あくびしながら、三条神流は松田彩香に言う。
「タイヤ交換終わったら、行くぞ。草木。」
「えーっ。走りてえ。」
「今日は日曜日。観光客だらけで、走れたものじゃないよ。サンボルなんて、最近はスマホのナビに騙されて迷い込んできた、哀れで邪魔なミニバンバンだらけよ。そんなのに頭突きするつもり?来週のAライセンス講習行けなくなるよ。」
「-。分かったよ。」
と、三条神流は言う。松田彩香には頭が上がらない。
「だが、タイヤの皮むきはしねえとな。」
作業を終えた霧降要が言う。今日の仕事は三条神流のタイヤ交換の後は無いようで、霧降要も自分のBRZを引っ張り出す。
「望月もBM引っ張り出す。それから、三姉妹もロータスで出撃するってさ。皮むきだったら、草木まで行くのでちょうどいい。」
と、霧降要。
全作業を終えると、草木ドライブインへ向け出発する。
日本中央バスの本社を過ぎた所に、ガソリンスタンドがあった。ここで全車両給油する。
「ルートだけど、このまま高崎駒形線を走り、おおぎやの所を右折して50号からの、赤堀を左折して行く形を取る。それでタイヤの表面のワックスが剝がれるだろう。その後、122を神戸まで行って、草木ダムの対岸道路を攻めてく。皮むきにはそれが良い。」
と、霧降。
「からっ風行かせろ。」
「ダメだ。タイヤ表面のワックスが剝がれて無い状態でからっ風やら353やら攻めたら滑ってドッカンやらかす可能性が高い。ある程度ワックス剥してからやれ。」
「分かった。」
三条神流、納得する。
松田彩香の赤いGR86を先頭に、霧降要、三条神流の隊列で高崎駒形線を走って、国道50号を走る。そして、大間々の町に入る。チラリと横目に、レンガ造りの洋館を見ながら、隊列は大間々の町を抜ける。
100均の交差点を通過し、一度国道122号から逸れる。
大間々警察署前の交差点の渋滞を避けるためだ。
「うーむ。」
三条神流は少し首を傾げる。
渡良瀬川を渡って対岸の道を貴船神社付近まで走り、上神梅駅に入る隊列。上神梅駅の駅舎は開業時から使用されている木造駅舎。これと、プラットホームは国の登録有形文化財として認定されている。この駅舎を背に車の写真を撮るのだ。撮影した後、国道122号に戻ると、わたらせ渓谷鐡道のディーゼルカーと出くわす。
「神戸か、或いは足尾駅まで足伸ばしてトロッコと絡めるか?」
と、霧降。今日はトロッコわたらせの運転日だ。
「いや、俺はパス。」
「アタシも。」
三条神流と松田彩香は言う。
「了解。」
夏の日差しが少し弱まり始めたこの頃。隊列は神戸駅まで走り、再び国道122号を逸れて渡良瀬川を渡ると草木ダム横のワインディングロードを攻め込む。
三条神流は松田彩香の背後に付き、松田彩香のテクニックを自分の物にしようとする。
(GR86とこのBRZは異母姉弟車。つまり、あっちが行けるならこっちも行けるって事だ。)
と、三条神流は松田彩香のGR86と同じペースで、自分の紺のBRZを攻め立てる。
(変な事はしない。グリップ基本で。)
と、松田彩香は後に気を配りながら思う。
最後尾の霧降の後に、加賀美を先頭に、東郷三姉妹の隊列が合流。
「アヤ。やれ!カンナも食い付ける限りやれ!」
霧降が引く。
「アホ!こちとらソフトコンパウンドのアドバン・ネオバ履いてるのよ!」
「N-ONEにネオバ履く奴、お前だけだ加賀美。まぁ、お前の場合はな。」
三条神流の真後ろで、加賀美のN-ONEがパッシング。
膨らみの部分にBRZを逃げ込ませ、加賀美を前に行かせる。
「無線聞いていた。ソフトコンパウンドタイヤの威力か。」
「同じアドバンでも、フレバはミディアムコンパウンドだからね。ミディアムコンパウンドは、ソフトコンパウンドより、グリップ力は落ちている。その代わり、耐久性に優れているから、基本的にタイヤ交換禁止のレースや、耐久レースにおいて有利。まぁスプリントレースでは負けるけど。」
無線交信しながら、草木ダムを通過し、右コーナーに突入。
松田彩香のGR86からスキール音が轟く。
三条神流もタイヤが鳴る。
その次の左コーナーで、加賀美がまた後に下がる。
「コーナリング性能は、BRZが上よね。こちとら車高が。でも―。」
轟音響かせ、N-ONEを一気にロータスが3台オーバーテイクしていく。
「私達が相手では、どうなるか。」
日菜子が三条神流に言う。
三条神流は、松田彩香のGR86の後にピタリと付けるが松田彩香には勝負を仕掛けない。松田彩香もそうと見ると、
「日菜子達、先行って前の状況知らせて。恵令奈!」
と、通信。
「カンナ。退避。」
「了解。」
ストレートでGR86とBRZが左ウィンカーを出し、3台のロータスが前に出る。が、恵令奈のダークグリーンのロータス・エキシージが松田彩香のGR86に勝負を仕掛ける。
「バトルのテクニック、目の前で見てて!」
「了解!こちとら―」
「ああっ!?」
「限界寸前」と言おうとした。だが、
「まだ行く!」
と言い直した。
「限界ならそれでいい。怒りゃしないから。」
「行けるところまで追従する。」
「それでいい。」
と、松田彩香は頷いた。
霧降の後、黒いBMW Z4が迫る。望月光男だった。
「みんなそうやって、自分の限界知らねえまま、或いは限界以上の事を無理にやって、クラッシュする。まずは自分の限界知れ。そして、そこから更に上へ行くにはどうするべきかを考え、勉強し、訓練し、実践する。それの繰り返しだ。」
望月が言う。
「今日の訓練は、自分の限界を理解して、その先に行くためにはどうすればいいかを考える事に意義がある。私と恵令奈のバトルにどこまでついて来られるかで、自分の限界が分かるでしょう?」
松田彩香が訓練の意味を話す。
三条神流も「了解」と答えた。




