その9 漆黒を纏いし男
――それから、長い年月が流れた。
朝日が顔を出したばかりの薄暗い樹海の中、黒い服を風になびかせ疾走する男の姿があった。
足場は悪く、ごつごつとした大きな岩が積み重なり、隙間から見える深い場所には赤黒く光る溶岩が流れている。周辺に生える巨木はその溶岩石に根を張り巡らせ、根が燃やされてはまたすぐに再生することを繰り返していた。
あちこちで立ちのぼる煙に視界を奪われながらも、男は足元に注意を払う事すらなく、軽快に岩から岩へと飛び跳ね進んでゆく。
その背後には、巨木の幹に鋭い爪を食い込ませ、走る男を観察している獣の姿があった。
獣は巨木から飛び降り溶岩石へ降り立つと、体を岩に溶け込ませ同化し、姿を隠しながら移動する。しかし煙によって男の姿が隠されるたび、位置を確認しようと巨木によじ登り、その都度姿を現していた。
獣は皮膚が岩で覆われ、その下からは溶岩が吹き出し、全身から鋭い牙を生やした化物だった。
化物は男の進行方向にある巨木に先回りしてよじ登り、真下を通るのをじっと待ち、狙いを定め飛びかかった。
木の上からの奇襲に気づくことができず、化物の足が地に付くよりも先に、男は頭を食いちぎられてしまう。しかし不思議なことに、頭を喰われた体は血すらも流れることなく、何事もなかったかのように走り続けた。
噛み千切ったはずの頭は口の中から消えてなくなっており、化物は一瞬戸惑った様子を見せるも、すぐさま腕を振り上げ飛びかかり、鋭い爪で頭のない男の体を引き裂いた。
二つに引き裂かれた体は煙となり空に漂うと、集まり、混ざり合って、また男の姿を作り上げた。
化物が何度引き裂こうと煙は集まり男の姿を作り出す。
――その煙と戯れる化物を、雲に届くほどの高さがある巨木の枝の先に立って眺めている男がいた。
男は煙の男と瓜二つの姿をしていたが、黒い服から繋がる頭巾を深々とかぶり顔は見えない。
暴れていた化物の動きが鈍ると、男は躊躇うこともなく枝の先から飛び降りた。
バサバサと大きな音を立てて服がはためき、化物目掛け一直線に落下する。
豆粒ほどに小さく見えていた化物が、あっという間に大きくなり「ドンッ!」と大きな音が響いた。
砕け散った小石がパラパラと落下する中、頭巾をかぶった男は怪我一つした様子もなく悠々と立っていた。
そしてその足の下には、白目をむき仰向けで地面にめり込む化物の姿があった。
すぐに化物は目を覚まし、腹の上に乗っている男に気づいて掴みかかる。その瞬間、突風が吹き荒れ、化物はバラバラに切断されてしまう。
風に煽られて頭巾が捲れ、男の顔がさらけ出されると、――そこには死んだはずの凪無千馬の姿があった。
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