その8 夢想であれば
「――ドクンッ」と、心臓が跳ねたような音が全身に響き、千馬はその音の大きさに驚き目覚める。
立ち上がり、青白く光り続ける石を見上げ、フッと鼻で笑う。
人家があると期待して来たが、光の正体が岩だと知り、緊張の糸が切れ、ここで寝てしまったのだろうと考えた。
辛い夢を見た気がすると、千馬は再度石に触れるが何も起こらなかった……。
光る石に背を向け、淡い光に照らされる森を歩いて見渡していると、不思議にも常に付きまとっていた死への恐怖や不安が一切感じられなくなっていた。森が小さくなったのか、自分が途轍もなく大きくなったのか、まるで全ての生物の頂点に立ったかのような高揚感を感じていた。
そしてあれだけあった擦り傷や切り傷が全て消え、痛みや、疲労していたことさえ、もう思い出せないほどに体力が回復していることに気がつく。
普通ならばこんなことは起こるはずがなく、ならばこれは夢を見ている最中なのかもしれないと、両手で顔を擦り、頬を叩き、寝ている自分に起きろと声を上げたが、何も変化は起きない。
夢ではなく、やはり現実なのかもしれないと茫然と立ち尽くしていると、すぐ後ろでドスンッと大きな音がして地面が揺れた。
千馬は驚き、岩が崩れでもしたのかと後ろを振り返った。その光景に目を見開き数秒固まった後、脱力し苦笑する。
そして「やっぱりそうか……」と言って大きくため息を吐いた。
ここが自分の見ている夢でないのであれば、事故にでもあって頭が狂ってしまい、現実世界が森にでも見えているのだろうと考えた。
きっとこの森は自分が暮らす街で、立ち並ぶ木々は人なのかもしれない。青白く光る石も、パチンコ屋かショッピングモールあたりが夜中の街で光っているだけなのだろう……。
――そして、今目の前にいる巨大な化物は、街を徘徊する俺を職務質問しに来た警察官あたりではないかと予想をたて、力なく笑った。
目の前に立ちはだかる化物は、猿のような頭の中央に大きな目が三つ並び、体は像の三倍くらいはある巨体で、皮膚は木のような鱗で覆われていた。
千馬は自分が創り出した頭の中の世界観に関心しながら、おくびれることもなく化物に近づき、申し訳なさそうに話しかける。
「えーっと……どのようなご用件でしょ――」
話し終える間もなく、千馬の体は腰から下を残して喰いちぎられていた。
青白く光る石に照らされる静寂な森の中に、肉を引きちぎり、骨が砕ける音が響いていた――。




