その9 塩味と甘味の河原
川までの道中、三人は周辺を見渡しながら焚き火に使えそうな枯れ枝を探す。
ダモは枝の匂いを嗅いだり、長さや太さを見比べながら気に入った枝だけを拾ってゆく。千馬は細い枝から太い枝まで気にせず拾い、すでに腕一杯に集まっていた。ティサリーは、普段使っている良く燃える乾いた枝を拾いながら、二人の後に着いて行く。
アカリ苔が反射して光り輝く川が見えると、ダモは速足で河原を歩き回り鞄の置き場所を探す。小さく丸い石が多い場所を見つけ、千馬とティサリーに手招きをし、拾った枝と背負っていた鞄を置いた。
ダモは木で作られたお椀を鞄から取り出し、川の水をすくって飲む。お椀の水を飲み干すと、もう一杯すくって後ろに居たティサリーに渡した。
「ん。喉が渇いてるだろ? 冷たくて美味いぞ」
「ありがと……」
そう言いうと、ティサリーはお椀を受け取り水を飲み干した。
千馬は上着と靴を脱ぎ、ズボンの裾をめくりあげ、川の中へと入ってゆく。それに気づいたダモが慌ててティサリーを連れ、川から離れる。
「千馬、ほどほどにな! やり過ぎるなよ!」
ダモの心配そうな声に、ティサリーは何が起こるのか分からず、不安そうに千馬を見つめていると、突然数十匹の魚が腹を見せて浮かび上がってきた。
「もう入っても大丈夫だから、一緒に拾って」
千馬が手招きをしながら、河原に居る二人に声をかける。
「ん。ティサリー。魚を拾いに行くぞ」
「……うん」
三人は全ての魚を拾い集め、河原に上がる。
ダモの鞄が置かれている場所には、すでに千馬が焚き火の準備を済ませており、組み重ねられた木の枝と、真っすぐに削られた串、そして塩の入った小さな木の筒が置かれている。千馬は重ねてあった枝に手の平をかざす。すると煙が立ち、火が付き、あっという間に燃え上がった。
何故、川の魚が勝手に浮き上がり、重ねられた枝に火が付いたのか、何もかもが不可思議で、ティサリーはじっと千馬の手を見つめていた。――気を取られていると、いつの間にか塩の振られた魚が、焚き火の周りに突き立てられていた。
「どうしたの? こっちに来て座りなよ」
千馬は手で地面をトントンと叩き、呆けているティサリーを呼ぶ。
――三人は焚き火の周りに座り、炎を見つめる。ダモが時折立ち上がっては、焼け具合を確認し、魚をひっくり返しながら周る。
「ん。もう焼けたな」
ダモは串を手に取り、焦げ目の付いた魚の頭にかぶりつく。千馬は自分の前にある魚の焼け具合を見て、それをティサリーに渡した。
「焼けているみたいだし、食べようか」
ティサリーは礼を言って受け取り、魚の背中からかじる。ずっと忘れていた塩の味に、この世の物とは思えない美味さを感じ、言葉がこぼれた。
「美味しい……」
「……ダモもティサリーも美味しそうに食べているし……俺もたまには食べてみようかな……」
「ん。飯を食う必要がなかったとしても、皆で食べる飯はその雰囲気が旨味となる」
「うん。そうかもしれない……。俺もそういう感覚を少しずつ思い出していかないと駄目だな」
「ん。それなら俺が選んでやる、これが美味いと思うぞ」
ダモが自分の近くにあった、魚が挿してある串を取り、千馬に渡す。
礼を言って、千馬は魚の腹にかじりつくと、フカフカの白い身から湯気が立った。千馬の反応が気になる二人は、食事の手を止める。千馬は美味しいと言って、交互に二人の顔を見ながら何度も頷いて見せた。
食事を終えたダモは、そのまま後ろに倒れる。
「……ん。村に入る途中にあった果実を採っておけばよかったな。川に冷やしておけば丁度冷えてた頃だ……」
ダモの言葉に、ティサリーは突然立ち上がり、急ぎ足で川の方へと歩いてゆく。寝ころんだまま腹をさすっていたダモは、驚いて体を起こし、千馬も心配そうにティサリーの後ろ姿を目で追う。
ティサリーは川の中へ入り、蔦で編まれた籠を見つけて引き上げた。アカリ苔の光で籠の中を照らして覗き、果実が入っているのを確認すると、また急ぎ足で千馬達の元へ戻った。
「……果実、朝採って。冷やしたままだったの……」
籠の中から取り出した果実は薄い赤色で、ティサリーの手のひらの上に収まる大きさだった。それを千馬とダモに一個ずつ渡す。ダモは黒く真ん丸な瞳を輝かせながら、皮を剥かず丸ごと口に入れた。
「ん!? 凄い冷えてるな! 美味いな。フフッ」
そう言って、ダモは口の周りに垂れた汁を、舌で舐めた。




