その3 黄金に輝く瞳
明るく照らされた河原で息を切らせ父の無事を祈りながら待ち続ける。しばらくして、木の枝を踏み折る音が近づいてきた。歩く音や歩幅の間隔から、それが父ではないことを察し、ティサリーと母は抱きあいながら震えていた。
枝の折れる音が河原の石のぶつかり合う音に変わり、苔の光に照らされた化物の顔が闇の中に浮かび上がるとティサリーに向かって飛び跳ねた。
父を失った悲しみと、迫りくる恐怖に母は崩れるように地面に座り込む。ティサリーは目の前にそびえ立つ、頭上高くにある恐ろしい化物の顔をガチガチと歯を震わせ見上げていた。
目が合った瞬間、化物はティサリーを両手で鷲掴みにして持ち上げ、頭にかじり付くため口を大きく広げる。
これから起こる悲惨な結末を想像し、呼吸は乱れ、心臓が早鐘を打つ……。
――だが一向に化物は口を閉じる様子がない……。
周りを見渡そうとするが目も頭も自由には動かせず、不可思議な現象が起こっていることに気づく。背後から聞こえていた川の音が消え、木から落ちた葉が空中で止まっているかのように、世界がゆっくりと動いていた。
ティサリーは逃げるため、この状況を活かそうと考え、掴まれている化物の腕を振りほどこうと全身に力を入れる。――すると、時の流れが遅かった世界が次第に元の速さを取り戻し始めた。
迫りくる化物の口から慌てて頭を逸らしながら腕を跳ねのける。いとも簡単に化物の腕を押しのけ、体は地面に落ちる。着地と同時に再度捕まえようと化物が腕を伸ばすが、それを力いっぱい振り払うと、――夢でも見ているのか、化物の両腕は千切れ飛び、河原には肉片が飛散していた。
腕をなくした化物は一瞬怯むも、再び食らい付こうと大口を開けて襲いくる。ティサリーは片手で拳を作り、ゆっくりと近づいてくる化物の顔を振り払った――。
アカリ苔に照らされ、倒れゆく頭と腕のない化物の姿を、煌々と輝く金色の瞳が捉え続けていた……。
――体に付いた返り血を川で洗い流し、起き上がれない母を抱きかかえ、待つ者のいない家へと帰ってゆく。そして化物を瞬刻に倒した恐ろしいほどの力を目の当たりにして、――最初から、自分が人間ではなかったのだと涙を流した。




