その2 火中の過去
ティサリーは家に着くと庭で火を熾し、魚を焼く用意をする。串に刺した魚を焚き火の周りに突き立て、近くに腰を落とし、じっと炎を見つめた――。
上流に暮らしている人々がまだこの廃村で暮らしていた頃に、ティサリーは尾人種の父と母との間に生まれた。しかし生まれつき尻尾がなく、肌の一部が鱗に覆われ、頭には小さな角が生えていた。
異様な姿に奇病が流行るのではないかと騒がれたが その後に村で生まれた子供たちには何の異変も現れなかったことで、ティサリーだけに起こった不幸なのだろうと、いつしか気にする者はいなくなっていた。
十の歳を過ぎた頃、容姿に変化が起きた。それまで黒かった髪の根本から銀色の髪が生え始め、茶色だった瞳が山吹色へと変わる。――丁度その頃から、村にも異変が起き始める。
ずっと以前から外敵の接近を知らせるために村の周りには鳴子が取り付けられてはいたが、カラカラと音をさせるのは風のみで、いつしか村の周りを囲むだけの飾りになっていた。
だが――その鳴子が風もない日に音を鳴らした。
原因の正体は擬獣だった。擬態して獲物を待ち構えるはずの擬獣が姿を現したまま襲ってきたのだ。朝も夜も関係なく、月に何回か現れる擬獣に村の大人達は武器を取って戦うが、幾度も交戦するうちに擬獣が現れるのはティサリーの家の周辺ばかりなことに疑念を持ち始める。
擬獣を呼び寄せる娘という噂が村中に広がると、いつからかティサリーは怨獣と呼ばれ、忌み嫌われるようになってしまう。人とは違う異形な容姿を持ち、擬獣に怨まれ、常に標的にされているから怨獣と――。
そしてティサリーの家との関わりを断つため上流に移り住んでゆく者が跡を絶たず、やがて周囲に住む者は誰もいなくなり、ティサリーと両親だけが下流に取り残されてしまう。
――程なくして、ティサリーの家を擬獣が襲う。これまで擬獣は、植物もしくは岩のような姿をしていたが、家の壁を破り現れたのは大きさが人間の二倍はあろう猿のような化物だった。
鳴子を避けてここまでくる知能があることを、すぐに理解した父は、ティサリーと妻にアカリ苔まで走って逃げるように指示を出し、逃げる時間を稼ぐため、枕元に置いてあった槍を拾うと化物めがけて突き刺した。




