その1 怨獣の少女
滝が水がしぶきを上げ、虹を作り出していた。その先に続く川は大きな音を出しながら様々な大きさの岩に挟まれ、どこまでも流れてゆく。平たく丸い石が敷き詰められた河原の方では、川は広がり浅瀬となり、流れが緩い場所では魚の鱗が陽に反射して時折水面を光らせていた。
広い川の中央に立ち、静かに流れる水の中をじっと見つめている少女の姿があった。
白銀に輝く髪が風で揺れると、首から背中、そして太腿を覆う白い鱗が見え隠れする。水面の反射光で金色に光る山吹色の瞳と、頭から伸びる二本の黒い三又の角は、原人種や尾人種とも違っていた。
冷たく透き通る川に脛まで浸かり、蔦で編まれた籠から石を取り出し、周辺に魚の影がないかを探す。遠くの岩陰に数匹の魚を見つけ、少女は一番大きな魚に狙いを定め石を投げる。
石に叩かれた水面がボンッと音を立てて大きく跳ねると、横たわる魚が浮いて流れて来る。魚を拾い籠に入れ、また同じことを繰り返す。三匹の魚を獲ると河原へ上がり、少女は帰路に就いた。
少女が家に帰る道中、前方から竿を持った二人の男がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。白髪で獣の耳が少し垂れ下がった老人と、もう一人は耳を立て、歩く姿と素振りから若者だと分かる。
少女は気まずそうに下を向いたまま立ち去ろうとしたが、すれ違うところで老人に話しかけられて足を止める。
「――ティサリー? おぉ……懐かしいな……。元気だったか?」
老人はティサリーの腕の鱗や角を見つめながら微笑む。
「……元気……だよ」
ティサリーは籠の紐をぎゅっと握り、下を向いたまま答えた。
「もうこんなに年を取ってしまったけど、私が誰だか分かるかい?」
「……うん。ユシンちゃん……」
「うん、覚えていてくれたか……。今日は魚の食いつきが悪くて、いつもなら上流に行くのだが、最近腰を痛めてしまってね……勾配の緩いこっちまで降りてきたんだ」
ユシンは空っぽの籠の中を見せながら、少し困ったような顔をした。
「こっちは息子のイオノフ。この子はティ――」
ティサリーを紹介しようとするユシンの言葉を、イオノフが遮る。
「知ってる。百年以上前から廃村で暮らしてる……。それより早く行こう。朝飯の支度が遅れる」
この場から早く立ち去ろうとイオノフは一人で歩き出す。
「おう……そうだな。それじゃ元気でな、ティサリー」
ティサリーは下を向いたまま頷き、また家へ向かって歩き出す。
「――あんな気味の悪い怨獣に話しかけるなよ。俺らが祟られるだろ!」
イオノフは父親のユシンを叱るように言葉を荒げる。
「……もう、六十年以上前だったか……。子供の頃に一緒に遊んでいたことがあるんだ。皆ティサリーを怖がっているが、邪険にはできないよ……」
ユシンは歩きながら振り返るが、ティサリーの後ろ姿は木に阻まれ、すでに見えなくなっていた。




