その23 始まりの握手
「……良かった、本当に良かった……。ここで別れたら、もう二度と会えないと思っていたから……。ありがと、ダモ」
千馬は瞳を潤ませながら、握手をするため手を差し出すが、ダモは不思議そうに手の中を覗く。
「その手に何かあるのか?」
「あぁ、これは握手って言って、お互い手を握り合う挨拶みたいなものだよ」
「ん。向こうの世界の挨拶か。俺も真似をすればいいんだな?」
千馬は差し出されたダモの手を握り、軽く上下に振った。ダモはそれが気に入ったようで、しばらく腕を振っていた。
「――ダモは俺に会った後はどうするつもりだったの? そもそもどうやって俺の事を追ってきたの?」
「ん。俺はいくつかやることがあってな、その中の一つに擬獣の謎の死があり、それを追っていたら千馬に辿り着いたというわけだ。擬獣との戦いも無駄ではなかったということだな」
その擬獣と戦うための呪念の力を得られたのは生まれつき呪われていたためで、まさかそれに感謝する日が来るとは露程にも思っていなかったと、千馬はフッと笑った。
「ん。その後はあっちの方角へ向かおうと思っていた」
ダモは短い指をピンと伸ばし遠くの方を指し示す。千馬はダモの指先から追うように、その方向へと顔を向けた。
「あっちには何があるの?」
「まだ分からんな。だが百年程前から俺のヒゲが、向こうの方角に度々引っ張られる感覚があった。その感覚は日に日に強くなり、場所もある程度までは絞れるようになった。だからもう少し近づけばな、何があるかはっきりするはずだ」
自分ではない誰かが行き先を決めることが嬉しくて、頼もしくて、千馬は自然に笑いが零れた。それを見て、ダモは数回瞬きし、不思議そうに首をかしげた。
「あっ、いや……何か嬉しくてさ……。神様相手にこんなことを言っていいのか分からないけど、この樹海に来て、初めてできた仲間がダモで良かったなって思ってたんだ」
「ん。俺も同じような気持ちだな。この地に降り立ってから、かなりの時を過ごして来たが、呪塊は変わらず死の匂いで満ちたまま、俺の力では何一つ変えることが出来なかった。だが呪いを自分の力に変えてきた千馬なら、もしかしたら、どうにかなるなじゃないかと期待している。フフッ」
そう言って、ピンと張ったヒゲを動かしながら片手を差し出す。
千馬は照れ臭そうに笑い、ダモのフカフカな手を硬く握った。
――こうして、呪われた男と、獣の姿をした神の旅が始まった。
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