その2 異変の謎を追う
――樹海にはいくつもの異変が起きていた。そのうちの一つは擬獣と呼ばれる化物の謎の死である。擬獣は獲物を狩るため様々なものに擬態する生物で、住処は広く、樹海のあらゆる場所に生息する。
見た目や強さも種によって違っており、樹海の中心部に近いほど強力な力を持ち、擬態能力も高くなってゆく。擬態の対象は岩や草木、動物が殆どだったが、能力の高い擬獣は、体が透けたように自然と一体化し、完全に姿を消してしまう。
擬獣同士が認識できなくなると、縄張り争いをすることがなくなるため、死ぬ危険も減る。
しかし、その滅多に死ぬことがない擬獣の死体を、数百年前からよく見かけるようになっていた。そしてそれらの死因は、落雷に打たれただけでなく、焼死、凍死、一部が切断されていたり、地面から迫り出す岩同士に押しつぶされているなど、普通では起こりえない死因ばかり。
樹海の外側に生息している擬獣が火災や落雷に巻き込まれて死ぬことはあったが、中心部やその付近に生息している強大な力を持つ擬獣では、あまり考えられない。その原因を調査するため、ダモは樹海に散らばる擬獣の死骸を追って何百年も旅をし続けている。
ダモが移動を開始しようとすると、足元の地面から、地聖と呼びかける声が響く。
「泥牙、どうした? また擬獣の死体でも見つかったのか?」
ダモは杖を地面に突き立て、正面を向いたまま、耳を地面へ向ける。
「いいえ。この先で一人の人間が擬獣と交戦しています。――見張りには泥裸がついています」
ダモは驚き、聞き間違いではないことを確かめるため再度聞き返す。
「襲われているの間違いではなく戦っているのか? 擬獣を相手に?」
「はい、すぐにでも決着するかと。ご指示を……」
「……ん。樹海の外から迷い込んでしまったか……。もう殺されているだろうが、向かうとしよう……」
ダモは地面に手をかざし、泥牙と叫ぶ。すると何本もの蔦が凄い速さで成長していき、伸びて絡み合い、それが土に覆われ、四本足で立つ獣の姿を形作った。
泥牙が脚を折り曲げ低い姿勢を維持すると、ダモはたてがみを掴み背中に飛び乗る。それを見届けると泥牙は尻尾を振って立ち上がり、風を切りながら走り出す。迫りくる木々を、左右に飛び跳ねながらかわし、視界を覆う濃い茂みを、高く飛び跳ね突き進む。
――前進するにつれ、木と肉の燃える匂いが増していき、ダモは鼻を鳴らし、眉間に皺をよせる。前方で燃えている、大きな岩のようなものが視界に入り、泥牙は走る速度を少し緩めて近づいてゆく。
「……ん。どういうことだ……?」
ダモは黒く真ん丸な瞳をより大きく見開く。眼前には、炎に包まれ死んでいる擬獣の姿があった。
「地聖! 泥裸が人間を追っています!」
「ん。俺たちも後を追うぞ!」




