その1 漂浪の獣
大きな葉を傘にして、降り注ぐ小粒の雹から頭を守りながら、ダモは先を急ぐため走って目的地に向かう。
背中に背負った鞄の中からは、カチャカチャと硬い物同士がぶつかり合う音をさせ、静かな樹海を賑やかしていた。今にも千切れそうなボロボロの服とは対照的に、サラサラの体毛は光に透け金色に輝く。
小さな歩幅を補うため、足を交互に素早く前方に繰り出し、短い手を起用に使って背よりも高い茂みをかき分けてゆく。
茂みを抜け見晴らしの良い丘に立ち、鼻の先を上に向ける。空気に混ざって漂う雲大樹の葉の匂いから、もうじき雹が止むことを予期する。次第に傘を叩く雹の音が小さくなると、握っていた大きな葉を投げ捨てた。
樹海の一部にのみ生息する雲大樹の葉は、様々な気象を作り出す。葉の表面からは雨が降り、雪が降り、雹を降らし、熱気を出す葉と冷気を出す葉が触れ合えば、風が吹き荒れ、雷鳴を轟かせた。
――ダモは背負っていた革の鞄をおろし、かぶせの隙間に差し込まれていた杖を抜き出す。体の大きさと不釣り合いな長い杖は、何本かの枝が絡み合い、上部には日の光に透けて輝く大きな琥珀が埋め込まれていた。
坂道を下るため、杖で体を支え均衡を保つものの、ぬめる土に足を取られ尻もちをつき、丘を転がりながら下ってゆく。
しばしば立ち止まっては地面に一言、二言声を投げ、キョロキョロと周囲を見渡し、進行方向を調整しながら進む。しばらく走り続けると、遠方に巨大な岩のような物が見えてきた。
「ん。……また見つけた」
そう言って、見上げた先には死んだ化物が横たわっていた。
ダモは近くにあった木によじ登り、周囲一帯を観察する。
化物は雷に打たれて死んだようで、頭から足の先まで樹木を逆さまにしたような火傷の跡があり、周辺の地面にも焦げ跡がいくつも残されていた。そしてまだ上空に漂う微かな焦げの匂いが、雷に打たれてからあまり時間が経過していないことを告げていた。
木から飛び降りると上を向き、化物の近くに生える木々をぐるっと見て周る。付近に雲大樹がないことが分かると、落雷が起こった説明を付けられず、ダモは顔を少し傾けた。
「……早くこの異変が何なのかを突き止めないとな……」
未知の出来事に不安を抱きつつも、それが何なのかを知らなくてはいけないという使命感に駆られ、先を急ぐ。




