27話 入隊試験1
そして、第三部隊の入隊試験を受けることに決まってから、一週間があっという間に過ぎた。
寝室が一緒ということにロディとイヴ(特にイヴ)は何故かそわそわしていた様子だったけれど、実際、初日から数日は寝不足気味に様子だったけれど(別室で寝ようか?と提案したら全力で拒否された(何故かイヴは半泣きだった))少しずつ二人も寝られるようになってきていて、昨日なんかはぐっすり熟睡できていた。
まあ、そもそも、不死の存在なわたしに睡眠はどうしても必要なものではないから(不足すると倒れてしまうけれど)、無理に二人と寝なくてもいいんだけどね。
「よし。」
新しい部屋でひとり気合を入れる。
ロディやイヴ、テュールが色々と調整してくれたみたいで、わたしは今日、これから入隊試験を受ける。
二人によると簡単な実技試験?実戦試験?のようなものらしくて、ロディはいつも通り無茶はするなと心配そうだったけど、イヴはアイなら大丈夫と笑っていた。
ちなみにそんな二人は一足早く、試験会場に向かっていて、わたしは二人の部下の人に案内してもらうことになっているらしい。
なので、わたしは今、イヴがこの日のために用意してくれた服に身を包みながら、おとなしくソファに座って迎えを待っている。
「はい、どうぞ。」
こんこん、と扉をノックされたから返事をすると、がちゃりとゆっくり扉が開かれた。
そこにいたのは、ロディやイヴとも違う、ショウとも違う、彼らの服をもう少し簡素化したような騎士服に身を包んだ男の人だった。
「し、しつ、れ、れいしあす!!」
「あ、はい。」
「ほ、本日、あああ案内を担当する、第三部隊のマリユス(フランス)と申します!!」
がちがちに体を固くして、敬礼をする男の人。
何でこんなに緊張してるんだろう、と不思議に思う。
だって、わたしが吸血鬼だってことは知らないんだよね?それとも何か知ってるのかな。
「……あの、」
「は、ははは、はい!何でありましょうか?!」
「わたし、元馬番なので、敬語を使う必要はないと思いますけど……。」
「そ、そ、そんな純血であられる隊長と副隊長の番様に、恐れ多いことはできません!む、むしろ、番様は、自分相手に敬語を使う必要はありません!!」
「えっと……。」
え、この場合どうすればいいの?
つまり、マリユスさんが怖いのはわたしじゃなくて、ロディやイヴってことだよね?
でも、これから騎士になるなら先輩ってことになるだろうし、あんまり困らせるのもいけないよね?
「案内、よろしく……?」
「はい!!!」
結局悩んだ末に首を傾げながら、そう告げればものすごくいい笑顔で返事をされた。
そのまま、こちらです!、と廊下を進むマリユスさんの後を追いかける。
「あの、マリウス?さん?はロディとイヴの部下なの?」
第三部隊ってことは、ロディやイヴの部下ってことだよね?
ああでも、騎士隊では部下って言葉は使わないのかな。
うーん、今まで働いたこともないし、そういう仕組みはよく分からないや。
「は、はい!より細かく言うと、自分は第三部隊の中でも元テュール補佐官の班に所属する騎士であります!」
「班?」
「第三部隊は五十人ほどいるのですが、大きく五の班に分かれています。それぞれの班長に指示を出すのが隊長と副隊長です。」
「元テュールの班ってことは……前はテュールが班長だったの?」
「はい!……正直、まさか班長が陛下になるなんて思いもしませんでした……。」
「知らなかったの?」
「ええ、全く……。まあ、自分は下っ端ですので、先輩方は何か知っていたのかもしれませんが……。」
「そうなんだ。今は違う人が班長なの?」
「いえ……その自分の所属する班は少し特殊というか、個性的な騎士が多いというか……。未だ班長はいません……。」
「?」
何故か疲れた表情を浮かべるマリユスさん。
班、かあ。
「じゃあ、わたしが第三部隊に入ったらどこかの班に入ることになるのかな。」
「そ、それは、どうでしょう……?番様は特殊な立場であられますし……。」
「そうなの?というか、あの、アイでいいよ?番様って言いにくいよね?」
「そ、そんな恐れ多いことは、できません……!!」
「そうなの?」
「そうです!少なくとも隊長や副隊長にご許可をいただいてからでないと、名前をお呼びするなんて命知らずなことできません!」
「ああ……。」
イヴはともかく、確かにロディは怒るかもしれない。
未だにショウやテュールがわたしの名前を呼ぶと嫌そうな顔をするから。
確かになあ、とのんびり思っていると、城壁が見えてきた。
そうして、城壁にある門の前でぴたりと止まるマリユスさん。
「闘技場は城と隣接しているのですが、直通はしていないので、ここから一度城の外へ行きます!」
「……うん。」
「な、なにか?」
「うん?ううん、あのね、こうやって門から城の外に出るの始めてだなって思って。あの橋を真っ直ぐ行ったら街?」
門は開いた状態になっていて、向こう側には真っ直ぐ街へと向かう橋が見える。
以前夜に城から抜け出した際に、気づいたのだけれど、この城のまわりには大きな川が流れている。丸を描くように流れる川と、城を中心に円を描く街。
「はい、王都とあって賑やかで様々なものが売り買いされています!暮らしている人間も寛容で、獣人族でも差別なく接してくれますし、良い街ですよ。」
「獣人族も?」
「はい。前王は我々獣人族を嫌悪していましたが、国民はそんな国王の考え方をあまりよく思っていなかったみたいです。この間、宿舎を再築していた際にそんな話を聞きました。」
「そうなんだ。ユリウスは街の人と仲が良いんだね。」
「そ、そうでしょうか?確かに隊の中でも新人の俺はよく買い出しや雑用で街に行くことが多いですが……。」
街の方を見ながら、いつかロディやイヴと行けたらいいな、と思う。
そんなことを考えながら、マリユスについて行くと、川は渡らず、しばらく川沿いを歩いていくと、川の向こう側に大きな建物が見えてきた。
あれが闘技場だろうか。
「あそこで試験をするの?」
「はい!国の管理する闘技場です。騎士隊や護衛隊の入隊試験、親善試合などを行っています。」
「そうなんだ。ロディとイヴが見に行くねって言ってたけどもう来てるのかな。」
「はい、隊長たちはすでに観客席におられると思います!また今回は第一騎士隊や第二騎士隊だけでなく、テュールは、いや、陛下も見に来てるみたいです。」
「……そんなにいっぱいいるの?」
「まあ、その、色々注目を浴びている試合ですので……。」
「そうなの?」
第三部隊が見に来るのは分かる。けれど、なんで第一や第二部隊も見に来ているのか分からない。
ただの入隊試験を見て何が楽しいんだろう。
うーん……よくわからない。
「番様はこちらの裏口から控室に行っていただきます。」
「うん。」
マリユスに案内されて、裏口から闘技場内に入る。
闘技場内は薄暗くて、どこかひっそりとしていた。
「控室に入ったらしばらくお待ちください。闘技場専門の職員が来ると思うので、彼らの指示に従ってください。」
「職員?」
「通称、審判員ですね。闘技場の管理や試合の審判をする専門の職員です。」
そうこうしているうちに、小さな扉の前でマリユスは立ち止った。
「こちらが控室です。しばらくするとこの闘技場の専門の職員が来ると思うので少々お待ちください。」
「分かった。ありがとう。」
「いえ……。」
「?」
何か言いたげな様子のマリユスに首を傾げる。
何か気になることでもあったのかな。
「その、同期が言っていました。番様の馬に対する扱いは完璧だった、と。」
「え?」
「俺の同期に馬族の獣人族がいるんです。そいつ、いつも第一部隊や第二部隊のことを気にかけてて……その、俺たちはそれぞれの動物となら言葉を交わすことができるので……。第一第二の馬はあまり良い扱いを受けていなかったようで、そいつずっと心配してて。でも番様が丁寧にお世話してくれてから馬たちの調子が良いみたいで……そいつ、番様に感謝してました。」
「……そっか。」
実は馬のことはテュールやショウからこっそり聞いていた。
あの頃のことを話すとロディやイヴが嫌がるから、あくまでこっそりと、だったけれど、第一第二部隊の体制が見直されて、馬の扱いもかなり良くなっているみたい。
言葉も何も分からなかったけど、不死の存在であるわたしに懐いてくれていたから、やっぱり元気なのは良かったな、とその時はのんびり思っていた。
まさか、マリユスの友だちに感謝されるなんて思ってもみなかったけど。
「すみません、辛いときにことを思い出させてしまい……。」
「ううん、嬉しいよ、ありがとう。」
ロディやイヴはあの時の話を嫌がるけど、わたしにとっては別段、嫌な思い出だとは思ってない。
だって、あんな風に人と関わりながら生活したのは本当に久しぶりで、楽しかったし、嬉しかった。
そんなこと言ったら二人はやっぱり悲しそうな顔をするから、言わないけどね。
わたしの言葉に、何故かマリユスさんは少しだけ顔を赤くして、ぴっと背筋を正した。
「い、いえ!!では、俺はここで失礼します!ご武運を!!」
「ありがとう。」
ぺこりと一礼して、去っていくマリユスさんの背中を見送ってから、わたしは控室に入った。
控室はいくつかの武器と装備があるだけの、こじんまりとした部屋だった。
着替えは元々着てきたので、とりあえず、手近なベンチに座る。
入隊試験について、わたしは何も聞いてない。
事前に聞くのはいけないことのような気がして、ロディにもイヴにも何も聞かなかった。
正直、ショウの勉強会でやったテストのようなものが出たら嫌だな、と思っていたのだけれど、マリユスさんの話だと、実技のみのようで、少しほっとした。
闘技場でテストはしないよね?
そんなことをのんびりと思っていたら、がちゃりと勢いよく扉が開いた。




