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25話 魔法



「うん、これなら問題ないだろう。」

「やった。」


わたしが解いた問題の答え合わせをしていたショウの言葉が嬉しくて思わず手を合わせる。

同時に、ここまで頑張って勉強してきてよかった、と一種の達成感を覚える。

今日は今までこの勉強会で教わったことのおさらいをしていた。

テストって言うんだって。

内容は主に読み書きと計算の問題。あと、この世界や国の常識が少し。


「間違っていたのは、ここと、ここと……」


間違っていた問題を解説してくれるショウの言葉を聞きながら、忘れないように頭の中でメモしていく。

この国では紙や筆、この世界ではペンって言うらしいけど、はとても貴重でなかなか手に入らないらしい。

だからショウによる勉強会でも使われるのは本だけで、わたしはとにかく頭に詰め込んだ。

特にロディやイヴが仕事でいない時間のほとんどを費やすぐらい、ずっと頭の中で学んだことを繰り返していた。

うん、あらためて振り替えってみると、それなりに頑張った、と思う。


「どうだ?」

「うん、大丈夫そう。ありがとう。今日復習してみてまた分からなかったら声掛けるね。」

「分かった。教え始めて一ヶ月が経つが、だいぶ上達したな。」

「……これなら働いても大丈夫そう?」

「大丈夫だとは思うが……。働きに出るのか?」


ショウの顔がすっと曇る。

あ、もしかして城を出ていくと思われちゃったかな。

そう思って慌てて首を振る。


「あ、うんと、別に城を出るつもりはないよ。ただ、ちょっと考えてることがあって。」

「そうか。隊長たちは知っているのか?」

「ううん。でも明日言うつもりだよ。」

「ならいいが……。」

「で、今日の話はなに?」


ロディやイヴに話していないことを先にショウに話すことはできないから、さっさと話題を変える。

すると、ショウもわたしの意図に気づいたのか(ショウは頭がいいから多分気づいてると思う)、テストの紙を片付けて、片割れに置いたお茶を運んできてくれる。

勉強会初日に、読み書きの勉強後休憩しながら世界の話を聞いてから、勉強がひと段落したらお茶をしながら世界の話を聞くのが日課になりつつある。

この世界のこと。

この国のこと。

種族のこと。

始めは雑談のつもりだったけれど、いつしかショウが教えてくれる世界の話が楽しみになっていた。


「……では、今日は魔法について話そう。」

「うん。お願いします。」

「魔法はそもそも人族と魔族しか使えない、という話は以前にしたな?」

「うん。」

「魔族が使う魔法については不明なことも多く、今回は人族が使う魔法についてのみ話していく。」

「魔族が使う魔法と人が使う魔法は違うの?」


魔族が使う魔法、と聞いて思い出すのは魔王と戦ったときに見た魔法だ。

風とか炎とか何の動作もなしに(少なくともわたしにはそう見えた)出していたのを覚えてる。あれは戦いにくかったなあ。

一方で人間の魔法は遠目でしか見たことない。

というか、火事を消そうとして水をどこからともなく出していたのを屋根の上からちらりと見ただけ。

だから、違う、と言われても正直ピンとこなかった。


「基本的には違うと考えられている。といっても噂の類いでしかないがな。」

「そうなんだ。」

「そもそも魔素という物質がこの世界にはある。それは人の体にも、この空気中にもある。魔法はその魔素を操る技術だ。例えば空気中にもある炎の魔素を集めて炎を生み出したり、他人の体内にある魔素を操って治療したり、だな。」

「悪魔や魔王を召喚するのも魔法?」

「そうだな。空気中の魔素を操り、別次元への扉を開ける。ただ、召喚魔法は魔力の消費が激しい。」

「まりょく?」

「人族の体内にある魔素のことだ。この魔素を放出し、操りたい魔素、例えば炎の魔素や水の魔素と合体させることで、始めて他の魔素を操ることができる。」

「う、うん?」

「とにかく魔法を使うには魔力がいる。召喚魔法は魔力をかなり消耗する。そして同時に召喚魔法には召喚石が必要だ。」


ちょっと難しい単語が多くて、頭が混乱する。

そんなわたしにショウは特に怒ることなく、ささっと話をまとめてくれる。

こういうところを見てると、イヴの言うとおり、ショウって頭良いんだな、と思う。


「召喚石っていうと、元王様やハナコちゃんが持っていたやつだね。」

「ああ。ただ、召喚石の詳細な情報は分かっていない。テュールによるとニェーボ国が生産しているらしい。二人が持っていたのはそこから流れたものだと思われる。」

「ん?ニェーボ国とは交流ないんだよね?」

「ああ。だから、流れてきたもの、だ。正式に輸入したものではない。」

「なるほど。そういえば、わたしやハナコちゃんをこの世界に呼び出したのも召喚魔法?」

「大まかに分類するとそうだな。ただ、二人の召喚魔法は王族に伝えられている秘術で、細かくは違うらしい。」

「王族……ってことはテュールも知ってるの?」

「いや、僕も聞いてみたが、知らないらしい。本人曰く、必要ねぇよ、だそうだ。」

「そうなの?」

「そもそも二人を召喚した召喚魔法はランダムに異世界の者を召喚する、というだけで、何も意味はないらしいからな。」


そうだったのか、と今更ながら事実を知り、驚く。

確かにあの時、元王様の口ぶりからハナコちゃんが聖女なのは嘘なのかなと思っていたけれど、まさか本当に偶然召喚されただけだとは思わなかった。

……ハナコちゃん元気かなあ。


「でも、何でそんな魔法が秘術なんだろうね?」

「僕にもそれはよく分からない。」

「そっか。」

「それと最後にひとつ、特殊な魔法がある。」

「特殊な魔法?」

「人族にのみ使える魔法、他種族を操る術だ。」

「操る?」

「思い通りにはできない。しかし、足止めをしたり、一瞬体の自由を奪ったりすることは可能だ。」

「他種族ってことは、獣人族も?」

「ああ。その魔法を使えるからこそ今人間はどの種族よりも繁栄しているし、獣人族は人間に奴隷のように扱われている。」「竜人族は?」

「何百年以上前に、殆ど絶滅したと聞いている。」

「…………。」


そういえば、魔王が召喚された時、第一舞台の隊長さんが、魔王の動きを止める魔法があるとか何とか言ってたっけ。

悪魔と戦っていた騎士の人たちはあまり強くなかったから、そう思ってたけど、魔法ってすごいね。

なんて思っていたら、何故か真剣な表情をしているショウと目が合う。


「その魔法がアイに聞くかどうかは分からないが、用心はしてくれ。」

「うん。」


ショウの言葉に、心配してくれたんだ、と今更ながら気づく。

まあ、体の動きを止められたとこで、切っても燃やしても死なない体だから問題ないとは思うけど。

それに体の動きを止めるっていう術なら前の世界でも似たような術を退魔師が使ってたから、わりと見慣れてるし、戦い慣れてるもんね。


「魔法についてはこんなところか。」

「ありがとう。」

「本当は魔法が得意なテュールに聞くのが一番早いがな。」

「治癒魔法を使えるって言ってたけど、他の魔法も得意なの?」

「そうだな。一番得意なのは治癒魔法だが、その他の魔法もそつなくこなしていたぞ。……まあ、あいつは今忙しいから仕方ない。」

「テュール、忙しいの?」

「……ああ。最近、ニェーボ帝国と接触しようとしているらしい。」

「ニェーボ帝国。」


わたしが今いる国から近いところにある大きな国。

そういえば、魔族について調べるために、ニェーボ帝国に探りを入れるって言ってたっけ。


「確か……ニェーボ帝国はあんまりまわりと関わってないんだよね?」

「そうだな。周辺諸国とのやりとりのない、閉鎖的な国だ。テュールは帝国と国交をしようとしているらしい。」

「こっこう……仲良くするってこと?」

「……まあ、そんなところだ。ただ、この国はニェーボ帝国から独立した国だからな、下手したら戦争になる可能性もある。

恐らく、今後海は荒れるだろう。」

「ニェーボ帝国と喧嘩するの?」

「いや、喧嘩はしないと思うが、何かしらの襲撃や接触があってもおかしくはないだろうな。」

「最近、第三部隊が忙しいのはそのせい?」

「……そうだな。」


最近になって、ロディとイヴは騎士隊としての仕事が増えてきたみたいで、前みたいな一週間帰ってこないことはなくても、一日や二日、帰ってこない日が増えてきてる。

ロディとイヴは、何でもないって言ってたけれど、やっぱり心配は心配だし、怪我はなるべくしてほしくないって思う。

なんて考えていれば、そういえば、と今度はショウが話題を変えてきた。

もしかして心配してるの顔に出てたかな。


「そういえば、知っているとは思うが明日は新しい宿舎への移動作業があるから、勉強会は休みとさせてもらう。」

「あ、うん、分かった。移動させるものいっぱいあるの?手伝う?」


多分純粋な筋力でいえば、獣人族よりも吸血鬼の方が強い、と思う。

実際に比べたことはないから分からないけど。

そんなわたしの言葉にショウは首を振った。


「いや、主に武具のみで、個人のものは個人に任せているから大丈夫だ。……と言っても他の騎士が移動してくるのは明後日だが。」

「え?明日じゃないの?」

「その予定だったが、皆が辞退した。……隊長たちの番の目に万が一止まってはいけない、と。ああ、決して隊長たちが何らかの圧力をかけたのではなく、あくまで自発的な行動だぞ。」


つまり、みんなが気を利かせてくれたってことかな。

確かにロディは街に出ることはおろか、他人とわたしが会うことを嫌がっていた。

でも最近は、わたしが他人の話をしててもあまり気にした様子はないし(少し難しい顔はしてる)前よりは多分落ち着いた、と思うけど、実際のところどうなんだろう。


「……ロディはやっぱりまだ嫌なのかな……。」

「それは僕には分からないが……ただ、最近は以前ほど気にしていないと思うぞ。あくまで多分、だか。」

「そっか。」


同じような意見がショウから聞けて安心する。

何せ、明日二人に提案することは、今でもなおロディがそれを嫌がっていると、多分受け入れてもらえないだろうことだからだ。


よし、頑張ろう。

心の中で気合いを入れて、わたしはひとくち紅茶を飲んだ。






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