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19話 事件後



「……キュウケツキ。」

「うん。吸血鬼。あとは、ヴァンパイアとか別の呼び方もあるね。」


わたしの言葉に、テュールはううん……と考え込む。

何だろう。何か知ってるのかな。


「聞いたことはないな。」

「そっか。」


そうだよね、と言葉を返して紅茶をひとくち飲む。

んー、美味しいかどうかはやっぱりよく分からないや。


ここは王城の一室。普段は来客用らしいんだけど、今はわたしが使わせてもらってる。

いやね、こんな綺麗な部屋じゃなくていいって言ったんだけどね。

ロディは、また誘拐されたら大変だろう(わたしが本気で抵抗したら多分誰も誘拐できないと思うんだけど)って言うし

イヴは、折角だから使うといいよ、ついでに美味しいご飯を一緒に食べよう(わたしの味覚は人とはちょっと違うんだけどなぁ)って言うし

テュールは、悪魔に続いて魔王まで追い払った功労者に何もなしはできないだろ、って言うし

ショウは、諦めた方がいいよ、って顔で訴えてくるし。

というわけで、わたしの反論なんて聞いてもらえず、わたしはこの部屋に滞在している。


そもそもの原因は、数日前、魔王召喚事件(命名イヴ)の際に、魔王の魔法によって第三部隊の宿舎が燃やされてしまったことだった。

今急遽建てているらしいけど、あと数週間はかかるみたいで、隊員たちは街の宿泊所で寝泊まりしてるんだって。

あ、ロディとイヴはわたしと同じように王城の部屋を借りてるみたい。

こんなに広いんだから三人で使ったら良いのにって言ったら物凄い変な顔をされた。

三人で同じ部屋ってそんなに変なことなのかなぁ。

ああ、でも真っ赤になって目頭を押さえていたロディの隣で、イヴが、ちょっと困った表情をしながら、いつかはそうしようねって言ってたっけ。

番ってよく分からないけど、そういうことなのかな。


「いくつか質問していいか?」

「うん」


で、今、何をしているのかというと、テュールにわたしの種族、吸血鬼について話をしていた。

一度死んだ体で、基本不死であること。

血を糧としていること。

わたしは吸血鬼の中でも上位種だということ。


ロディとイヴには一週間ほど前、悪魔召喚の事件の時に話したけど、ショウとテュールには話してなくて、どうしたらいいかな、とわたしは魔王召喚事件後ロディとイヴに相談した。

ショウとテュールに話さなかったのは、魔王召喚事件でばたばたしていたのもあるけど、何より話すかどうかも悩んでいたのもある。だって、化け物って罵られて城を追い出されたら悲しいもの。


そうロディとイヴに打ち明けると、二人なら大丈夫だ、と笑ってくれて、それなら、と思って昨日はショウに、そして今日はテュールに吸血鬼の話をした。

二人とも驚いた様子ではあったけど、特に罵ったりすることもなく受け入れてくれて、正直少しほっとした。


「上位種、と言ったが、つまり他に吸血鬼には他にも種類がいるってことだよな?」

「うん。眷属だね。」

「ケンゾク、もアイと同じような強さを持っているのか?」

「うーん、その眷属が持つ血の強さによるけど、強くてもロディやイヴと同じくらいじゃないかな。」

「……それはつまり、人間よりは遥かに強いってことだな。」

「でも、わたしの世界には吸血鬼退治を専門とする退魔師がいて、吸血鬼を退治してたよ。多分、吸血鬼を弱らせる方法はあるんだじゃないかな。」

「へえ。アイもその退魔師に追われてたのか?」

「……始めのうちは追われてたけど、わたしがどうやっても死なないって分かってからは、それとなく監視してたみたい。」

「監視。」

「うん、監視。人を殺さないように。」

「殺したことあるのか。」

「ないよ。……人の血飲めないもん。」

「は」

「何でか分からないけど、体が受け付けないんだよ、人の血。人の血を飲むと吐いちゃうの。」

「……昔、人間と暮らしてたって言ってたな、もしかしたら心理的なものかもしれないな。」

「そう?」


血が飲めない理由なんて考えたこともなかった。

動物の血で事足りていたし、飲みたいとも思わなかったし。

わたしの反応に、まあ気にしないならいいが、とテュールは苦笑して、ところで、と話を変えた。


「これからお前はどうするんだ?」

「二人と一緒にいるよ。その上で……死ぬ方法を探す。」

「それ、隊長と副隊長には言ったか?」

「言ったけど、死ぬ方法なんてって悲しい顔されちゃったからわたし個人で探すつもり。」


わたしもロディやイヴが死ぬ話なんて聞きたくないし、自分がされて嫌なことは他人にしちゃいけないもんね。

わたしひとりじゃ限界があるかもしれないけど、そこはとにかく、頑張るしかない。

よし、とひとりで気合いを入れていると、テュールは何やら考え込むように黙ってわたしを見ていた。


「テュール?」

「……俺も協力しよう。」

「いいの?」

「これでも一応国王だからな。情報を集めるにはもってこいの立場だろ。」

「……ありがとう。」


まさか協力してもらえるとは思ってもなかったので嬉しくなる。

ふふ、と頬が緩むのを感じながら紅茶を飲む。

二人と一緒に生きる、番になると決めた日から、毎日が楽しくて仕方がない。

こんな充実した日々を送ることになるなんて、半年前は思ってもみなかった。


「ああ、そうだ、正式に番になったんだったな。おめでとう。」

「おめでとう?」

「おめでとう、だろ。晴れて両想いになったんだから。」

「両、想い……そっか、そうなるのか……。」


つまり交際してるってことだよね……。うわあ……。

ここまであまり深く考えてこなかったから、あらためてそう言われると、そわそわした気持ちになる。

いや、一緒に生きたいって気持ちは嘘じゃないし。

番になることを受け入れたのも自分で決めたことだけど。


「……交際って、何するんだろう。」

「……は?」

「あ、いや、今まで交際なんてしたことないし、他人がどうしてるかなんて知らないし……。」


この世界に来る前、人間の街で暮らしていた時も行動するのは主に夜で、わたしは正直、人間の営みを全然知らない。

どうして子どもはできるの?って前にチヨに聞いたら、鳥が運んでくるのよって言ってた。さすがにそれが嘘だってことは知ってるけど、じゃあ本当は、と聞かれると何も答えられない。

こんなことならもう少し根掘り葉掘りチヨに聞けばよかったのかなぁ。


「まあ、隊長や副隊長もあの様子じゃしばらく何もしてこないだろうから、そのままのんびり構えとけばいいんじゃないか?」

「……そう。」


もしかしてテュールは何か知っているのかな。

それなら少しでもいいから教えてくれないかな。

何も知らなくて二人にがっかりされるのは嫌だから。

けれど、わたしがテュールにそのことを聞く前に、部屋の扉がばん、と勢いよく開いた。


「何をしている。」

「……いちいち殺気出さないでくださいよ。」


扉の前に立って睨み付けるロディに、テュールが呆れた声を出す。

あれ、なんかこの光景、前にも見た気がする。気のせいかな?

首を傾げていると、ロディの後ろからひょこりとイヴが顔を出した。


「あ、テュール、財務官が探してたよ。」

「あー、はい、わかりました。……二人もなるべく早く仕事に戻ってくださいよ?」

「ああ、分かっている。」

「じゃあ、話を聞かせてくれてありがとな。」

「あ、うん。」


最後にわたしに話しかけると、ひらひらと手を振って部屋を出ていくテュール。

それを見送っていると、どさりと、わたしの隣にイヴが座った。

この部屋のソファは大きいからわたしたち三人が座っても十分余裕があって、隣と言っても多少の距離がある。


「ショウが言ってたけど、読み書きを習いたいんだって?」

「……そうなのか?」

「あ、うん。」


イヴとは反対側、わたしの左側にロディが座りながら尋ねてきたので、うん、と頷く。


「この国のこととか、種族のこととか色々と知りたいなって思って。」

「ん?聖女は何も学ばなくても読み書きできて、」

「ロディ。」

「む、すまない。」

「ううん、気にしないで。」


吸血鬼に読み書きを教えてくれる人なんているわけがない。

そもそもハナコちゃんが暮らしていた街には学校というものがあって、みんなそこで読み書きを習っているようだっけど、もちろんわたしがチヨと生きた時代にそんなものは存在しなかった。

チヨも読み書きは多分最低限しかできていなかっと思う。


「まずは読み書きができるようにならないと、本も読めないからさ。」


今後この国で生きていくなら、最低限でも国のことや種族のことなど、知っておきたかった。

同時に、色々と知れば、もしかしたら死ぬ方法も見つかるかもしれない、なんて、そんな淡い期待も含まれていることは二人には内緒だ。


「それなら俺たちも協力するよ。」

「ああ。」

「ありがとう。」

「あとはショウに任せれば大丈夫だと思うよ。俺やロディ、テュールよりは忙しくないし、ああ見えて教えるの上手いし。」

「そうなのか。」

「あのねぇ……。部下のことぐらい把握しておきなよ。」

「そういうのはイヴが得意だろう。」

「自分でも頑張れって言ってるの。」


呆れた様子のイヴに、ロディは首を傾げる。

相変わらず二人は仲が良いな、とそんなことを思いながら、わたしは少し冷めてしまった紅茶をひとくち飲んだ。


二人と番になって数日が経ったけど、特に何かするわけでもなく、二人も特に変わりはない。

ただ、前と同じように仕事の合間や食事の際にわたしの部屋に来て、用が済んだら自分の部屋に戻る。そんな日々。

わたしとしては二人と一緒にいるだけで充分嬉しいけど、二人はそれでいいのかな。


「さ、そろそろショウが昼食を持ってきてくれるはずだから一緒に食べよう。」

「うん。」

「そうするとしよう。」


ただ、こんな穏やかな日々が続けばいいな、と漠然と思っていた。




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