16話 聖女(ハナコ視点)
「あなたは特別な人間なのよ」
それはお母さんの口癖だった。
特別な才能を持った選ばれた人間。
将来を約束された特別な人間。
お母さんだけじゃない、誰もが私を褒め称えた。
「君は十年に一度の逸材だ。」
「君には才能があるよ。将来が楽しみだ。」
私はそんなみんなの言葉を信じた。
私は選ばれた人間なのだと信じた。
それなのに。
「あなたの力は皆のためにあるのよ。」
十歳を超えた頃からお母さんはそんなことを言うようになった。
皆のため?
私は選ばれた人間なんでしょ?
特別な人間なんでしょ?
それなのにどうして私が努力をしなくちゃいけないの。
どうして他の人のために苦労しなくちゃいけないの。
なんで。
どうして。
そうお母さんに訴えれば訴えるほど、まわりの目は冷たくなっていった。
何でそんな目で見られなくちゃいけないの。
あなたたちが言ったんじゃないの。
私は特別だって。私選ばれた人間だって。
なのに。なんで。
お母さんやまわりの人と喧嘩が徐々に多くなっていた、あの日。
「聖女様!どうかこの国をお救いください!」
私に光が降り注いだ。
「あなたを待っていた。」
「世界を守るために魔王を召喚してほしい。」
この世界に来たとき、当然だと思った。
この世界こそ、私の生きるべき世界だと思った。
なのに。
「一度信じた相手に裏切られたら、かなりの負の感情が生まれるだろう。」
何もかもが嘘だった。
何もかもがでたらめだった。
「……残念だが、元の世界に帰ることはできない。」
「ふざけないでよ!!」
新しい王様だとかいう男にそう言われて、私は思わず叫んだ。
私が何をしたと言うの。
私はただこの世界に呼ばれただけなのに。
なのにどうしてこんな目に遭わなきゃいけないの。
あの化け物はのうのうと未だに城で暮らしてるのに。
何で私だけこんな小汚いところで暮らさなきゃいけないの。
暴れる私をまわりにいた兵士達が拘束する。
何でよ。私何も悪いことしてないじゃない。
なんでなんでなんでなんで。
「すまないが城に君の居場所はない。とりあえず町外れにある教会で暮らしてくれ。」
そう言われて連れてこられたのは小さな教会の小さな部屋だった。
硬いベッド。
薄汚れた天井と床。
簡素な服。
味のしない料理。
「……ハナコさん」
「うるさい!話しかけないで!!」
扉越しに聞こえてきた神父とかいう男の声に怒鳴り返す。
うるさいうるさいうるさいうるさい。
何でよ、何で私だけこんな目に遭わなきゃいけないの。
私は特別なのに。
私は選ばれた人間なのに。
なんで。
どうして。
全てに腹が立って、全てを否定したくて、暴れまわって、他の人に止められる日々。
そんなある日。
夢を見た。
あの頃の夢。
まだお母さんの目が私のことを真っ直ぐ見ていたあの日。
その隣でお父さんが優しく笑っていたあの日。
けれど、それも一瞬のことで、二人の笑顔はあっという間に消える。
何かに取り憑かれたかのように、嘘だと、これは夢だと泣き喚き続けるお母さん。
血だまりの中で動かなくなってしまったお父さん。
そして、最後に。
私が見たのは、化け物、だった。
「……なんで、よ……。」
硬いベッドに横たわりながら、ぽつりと呟く。
私は何もしていないのに。
私はただみんなの言葉を信じただけなのに。
ああ。
全てが消えたら。
全てが燃えたら。
この悪夢から覚めるんだろうか。




