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14話 彼らとの日常 



「……百、歳。」

「ああ、俺もイヴも今年で百歳になる。言ってなかったか?」

「聞いてないよ。」

「そうか、それはすまない。獣人属の寿命は大体三百年弱なんだ。」

「そうなんだ……長生きだね。」


五百年生きてるわたしが言うのもなんだけど、三百年って結構長いよね、なんてロディの話を聞いて、のんびり思う。


あれから、二人に対して考えてみる、と話したあの日から、数日が経った。

(イヴに泣きつかれて)二人の呼び方がロディとイヴになったり、敬語を使うこともやめたり、色々あったけど、わたしはまだ何も答えを出せないでいる。


「この国で生まれたの?」

「いや、生まれたのは大国だ。」

「大国?」


何故こんな話をしているのかといえば、そもそも、わたしが二人のこと殆ど知らないな、と思ったからだった。


ゆっくり話したのって初日ぐらいで、あとはずっとドタバタして、こういう風にゆっくり話せる時間がなかった。

仕方ないよね、テュール様っていう新しい王様が就任してバタバタしているみたいだから。二人もよく分からないけど忙しいみたい。

もっとアイとおしゃべりしたいのに……ってイヴはしゅんとしてた。

隊長と副隊長って大変なんだね。


そんな中、今日はゆっくりできそうだってロディ様が嬉しそうに言ったから、まずはこれを機に、二人のことを知ろうと思ったんだ。


「元々この国、は大国の一部だったが、今から百年前に独立している。」

「百年前……。」

「丁度俺たちが生まれた時期だな。俺とロディはその数年後にこの国に逃げてきた。」

「逃げてきた?何か辛いことがあったの?」

「大国は獣人属を奴隷として扱う。俺とイヴはそれから逃げてこの国に流れ着いたんだ。」

「それで騎士になったの?」

「ああ。俺たちを拾ってくれた先先代の王には感謝している。」

「先々代?」

「この国を独立させた立役者だ。テュールで丁度5代目となる。」

「そうなんだ。」


ロディはとても真面目だ。

二人のことを知りたいんだ、と話したら、こうして、年齢から生い立ちから全て包み隠さず教えてくれるぐらいには真面目だ。

イヴは、頭が固いって言ってたっけ。


でもこうやってわたしの些細な問いかけに真面目に答えてくれるのは嬉しいと思う。

たまに言葉が難しくてよく分からないことがあるけどね。


「それより暑くはないか?そろそろ日差しが強くなる時間だ。部屋に戻るか?」


あとロディはとても心配性だ。

ちょっと欠伸をしただけで、疲れたか?横になるか?と心配そうに尋ねてくる。

今もちょっとテラスに出て話していただけなのに、こうして心配そうにわたしの顔をのぞきこむ。


「大丈夫だよ。折角だからもう少しここでお話ししたい。」


だってこうしてテラスに出ることを許されるのは二人がいる時だけだから。

ロディはわたしが部屋を出たり、二人以外と話すことをすごく嫌がる。

といってもわたしの部屋を訪れるのなんて二人以外だとショウ(上司の番に敬語を使われても、と言われたから様づけも敬語もやめてる)とテュール(ショウだけずるいだろ、と良く分からないけれど押しきられた。ロディがすごい怖い顔でにらんでた)ぐらいなんだけどね。

その二人でさえロディは嫌みたい。

イヴに聞いたら、ロディの狼属は独占欲が強くて、自分以外が番に近づくのを極端に嫌がるんだって。

イヴは大丈夫なんだねって言ったら、まあ昔からの腐れ縁で、兄弟みたいなものだからね、って笑ってた。


「ロディはいつまでいれる?」

「……あと一時間ほどだな。」


残念だが……、と悔しそうな表現を浮かべるロディ。

そういえば、この百年間この国で騎士として働いてるって話だったけど、他の国とか行ったことあるのかな。

そもそも、獣人族の寿命は三百年らしいけど、あと二百年、ずっとこの国で騎士をするのかな。


「ねえ、ロディ、聞いてもいい?」

「勿論、いいぞ。何でも聞いてくれ。」

「ロディはこれからもずっとこの国にいるの?」

「……いや、正直、そこまで考えたことはないな。この国に感謝しているからと、恩返しのつもりで騎士を続けてきたが……。そうか、確かにあまり長く居続けると、俺たちがいなくなった後が大変になるか。」

「そうなの?」

「ああ……。アイは他の国に興味があるのか?」

「うーん、どうだろう……。でも折角だから色々なところを見てみたいとは思うかな。」

「そうか。アイがもし他の国を見てみたいというなら喜んで一緒に行くぞ。」

「……あ、あと、海も見てみたいな。」

「ああ。三人でいつか見に行こう。」


ふわりと微笑むロディに、むずむずとする。

二人はいつだってわたしの気持ちを優先しようとする。

その度に、何だか、そわそわ、むずむず、してしまう。


「……ありがとう。」


でも、二人との時間が、少し、待ち遠しいと思うわたしがいた。



「はあ……。」

「大丈夫?」


大きなため息をつくイヴに顔をのぞきこみながら尋ねると、うん……と疲れた顔で頷かれる。


「ごめんね、折角のアイとの楽しい時間なのにため息なんてついちゃって」

「仕事忙しい?」

「いや、仕事は全然。この一週間で大分落ち着いたよ。ロディは筋肉バカだから使えないけど、ショウは優秀だし、俺も事務仕事はそれなりに得意だから苦じゃないし。それよりも、ちょっとね。」

「?」

「本当になんなんだよ、あの女。一応とはいえ貴族の娘なんだからもう少し慎みを持つべきだろ。もともと、あいつの娘って時点でヤバイとは思ってたけど。というかもういっそのことあの一族出禁にした方が良くない?」


ソファにうつ伏せになったかと思うと置かれたクッションに顔を埋めて、なにやらぶつぶつと言い始めたイヴ。

嫌なことでもあったのかな。

イヴはいつも笑顔で大人っぽいけど、意外と子どもっぽいところがある。

甘いものが好きで、よく買ってきては、美味しそうでしょ、と目を輝かせているところとか。

ロディが、ショウが、と頬を膨らませながら愚痴を言っているところとか。

情けないところばっかり見せてごめんね、と言っていたけれど、そうやって本当の姿を見せてくれるのは純粋に嬉しいと思う。

ちなみに、ロディに聞いたところによると、鳥族は番に対して愛されたいっていう思いが強いんだって。だから、番に愛されようとして、甘えたり、ものを貢いだりするんだって。

こういう風に弱ったところを見せてくれるのも、甘えてるってことなのかな。


「よく分からないけど、大変なんだね。」

「うー……。」


よしよし、と頭を撫でると、イヴは嬉しそうにへにょりと笑う。

前に何気なくやったらすごい喜ばれたから、それ以来、イヴが疲れた時にやってあげてるんだ。

頭を撫でるだけで、元気になってくれるなら何よりだもんね。


「そういえば、昼にロディ来た?」

「うん。テラスで一緒にご飯食べたよ。」

「良いね、楽しそう。」

「あとロディの生い立ちも聞いたよ。百歳って知らなかったからびっくりした。」

「あー、そっか、獣人は長寿だって言ってなかったね。ニェーボ国から流れ着いたっていうのは聞いた?」

「うん。」

「あの頃は人間が死ぬほど嫌いだったけれど、今はこうして人間のために働いているんだから不思議な気持ちだよ。」

「……人間、嫌いだったの?」

「ニェーボじゃ、獣人は人間以下の扱いを受けるからね。」


いつ死んでもおかしくなかったよ、と笑うイヴに何も言葉を返せなくなる。

そっか、二人も色々あったんだね。


「俺はね今、とっても幸せだよ。」

「?」


黙りこんだわたしをどう思ったのか、イヴは頭を撫でていたわたしの手を取って、にこりと笑った。


「こうしてアイに頭を撫でてもらえるからね。」


イヴの笑顔に、手を包むぬくもりに、またむずむずとくすぐったい気持ちになる。

ふわふわした不思議な気持ち。


「あ、何か欲しいものはない?服とか欲しいものがあったらいつでも言ってね!」

「服はもういっぱいあるよ?」

「え、でも、まだ三十しかないよ。」

「三十もあれば充分じゃ……。」

「でもさ、俺が買いたいんだよ、だめ……?」

「……そんなことはないけど……。」


イヴはロディみたいにわたしの行動をとやかく言うことはないけど、その代わりやたらと色々なものをくれる。

お菓子から始まり、服とか靴とか本とか色々。

ロディの言ってた、ものを貢ぐって、こういうことなんだろつね。

受け取ってやってくれってロディに言われてるからいつも受け取っているけれど、その量がどんどん増えてきている気がする。

というかお金とか大丈夫なのかな。


「あの、そんなにお金を使って大丈夫……?」

「大丈夫、大丈夫。副隊長って結構高級取りだから。それに百年も生きてると結構貯まるんだよ。」

「そう、なんだ……?」


そんなもんなのだろうか。

わたしはこの世界に来るまで働いたことなんてなかったし、馬番のときは給料なんて貰ってなかったから、よく分からないけど、百年もあればお金もそれなりに貯まるのかな。

でも、自分のものを買ったりもするよね?


「イヴは、自分のものは買わないの?」

「んー、あんまり買わないかなぁ。特に必要ないからね。」

「え。服とかは……。」

「街に行くことなんて滅多にないし、行ったとしても仕事で騎士服を着て、がほとんどだからね。あ、そうだ、今度さ、休みの日に街に行こうよ。」

「街に?」

「そう!アイの服とかさ買いに行きたいし、アイだってずっとこの部屋にいるとつまらないでしょう?」

「でも、ロディは、」

「そこは俺とアイが頼み込めば大丈夫。」


ね、約束。

そう笑うイヴに、わたしはやっぱりそわそわした気持ちになりながら、うん、と頷いた。




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