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13話 吸血鬼



えー、おはようございます。

いや、今何時なのか知らないんだけど、今起きたところなので、おはようございます。


流石に二回目となるとちょっと落ち着いたもので、ベッドでぼんやりと窓の外を眺める。

ちょっと薄暗くなっているってことはそろそろ夜になるのかな。

なんてね、落ち着いていると見せかけて、中では結構取り乱してたりする。


だってさ。

まさかあれ(人並み外れた戦闘力とかにょきにょき生えてくる腕とか)を見た上で、まさか心配されるなんて思っても見なかったんだよ。

普通怯えない?怯えなくても、驚いて、お前は何だとか聞かない?

大切だからとか、笑っていてほしいとか、普通言わないよね?

思わず現実逃避という名の気絶をしちゃったよ。いや、寝ちゃった、が正しいのか。

というわけで。


「……良く寝た。」


今までにないくらいぐっすり寝ちゃった。

食事をしていないのは相変わらずだけど、それでもかなり体力回復してるのが分かる。


そういえばこの世界に来てから何となく体力が増えた気がする。

というより今までは数ヶ月に一度は少量の(動物の)血を飲まないと、自我を失いそうになっていたのに、ここに来てからそういった症状は一切ない。

特に血を飲みたいとも思わない。

何でだろう。


うーん、と考えていると、とんとん、と扉がノックされたかと思えば、わたしの返事を待つことなく扉が開かれ、テュール様が顔を出した。


「よお、起きたか。」

「おはようございます。」

「時間的にはこんばんは、だけどな。」

「そうですか。」


そんな話をしている間にテュール様はすたすたと部屋に入ってくるとベッドの近くに椅子を移動させ、どかりとそこに座った。

テュール様の服はいつもの隊服ではなく、赤を基調としたきらきらとした服だった。

……そういえば、テュール様って王様になるって言ってたっけど、あの後、王様になったのかな。

ああ、それよりも。


「……あの、ハナコちゃんはどうしてるんですか。」

「目覚めて真っ先に聞くのがそれかよ。隊長と副隊長が泣くぞ。」

「?何でですか?二人にはさっき会いましたよ?」

「……。」


え、何でそんな表情してるの?

わたしの言葉に何とも言えない表情を浮かべたテュール様だったけれど、ため息をひとつつくと、ハナコちゃんのことを教えてくれた。


「聖女、サイトウハナコは今教会で働いている。城では働きづらいだろうと思ってな。」

「キョウカイ。」

「神にお祈りをするための施設だ。主に神に仕える神父やシスターが働いていて、また、身寄りのない孤児たちを育てたりもしている。この国はそこまで宗教色は強くないけどな、それでも独立前の大国の宗教がそのまま信仰されてるんだ。」

「……元の世界には戻れないのですか?」


わたしと違ってハナコちゃんには家族がいる。友だちもいる。

それなのにこの世界に召喚されてしまって、しかも、あんなことに巻き込まれてしまって、もしできるなら元の世界、日本に返してあげたいと思う。

けれど、わたしの質問にテュール様は首を振った。


「申し訳ないが、向こうへ送り返す魔法は、存在しない。」

「そう、なんですか……。」

「帰りたいか?」

「わたしは別にどちらでも良いです……ただ、ハナコちゃんは家族もいるからできれば帰してあげたくて……。」

「サトウハナコ自身も帰して欲しいと願っていた。」

「……。」

「巻き込んだのはこちらだ。それに関しては申し訳ないと思ってる。だが、今の魔法技術では、帰還させることができない。俺たちにできるのは彼女が生きることに困らないよう援助することだけだ。」


ハナコちゃんはそれで納得したのだろうか。

いや、たとえ納得していなくても、わたしにできることはない。

きっと会いに行っても、化け物って怯えられちゃうだろうし。

ただできれば、幸せな人生を送ってほしいなと思う。


「他に質問はあるか?」

「テュール様は王様になったんですか?」

「…………他にないのかよ。」

「えっ。」

「隊長のこととか副隊長のこととか、ないのかよ。」

「何で?」


あ、思わず言葉を崩しちゃった。

でもさ、別に聞きたいことなんてないんだけどな。

だってあの二人に怪我がないことはすでに確認済だし、正直、ちょっと気まずいし。


「…………いや」

「?」


はあぁ、とわざとらしくため息をつくと、テュール様は水差しからコップに水を注ぎ、ぐびりと飲んだ。

かと思えば真剣な表情でわたしを見てくる。


「……前王は捕まり、俺は王に就任した。」

「おめでとうございます。」

「王である俺にはこの国の民を守る義務がある。」

「?」

「だから確認しなければならない。………………お前、何者だ。」


そうだよね。当然の疑問だよね。

ここまできて隠すつもりはない。

だからこそ、テュール様の質問に答えようと口を開いたのだけれど、わたしの言葉はテュール様によって遮られてしまう。


「と聞きたいところだけどな、俺もまだ命は惜しいから聞かないことにする。」

「……なんで命?」

「そりゃあ、」

「何をしている?」


その時、地を這うような低い声が耳に届いた。

声のした方を見ると、ロディ様が怖い顔で扉の前にたっている。

何であんな眉間に皺を寄せてるんだろう?

そんなロディ様にテュール様はにこりと笑う。


「何もしてないですよ。」

「おやおや、陛下が騎士ごときに敬語など、示しがつきませんよ?」


するとロディ様の後ろからイヴ様も出てきた。

にやにやと、何故か楽しそうに笑みを浮かべている。


「意地悪言わないでくださいよ。今まで散々お世話になった二人に突然ため口なんて無理でしょ。公の場では何とかするんで、大目に見てください。」

「そんなことより、テュール、お前」

「ロディ、相手は陛下だぞ。一応とはいえわきまえろよ。」

「……しかし」

「それに、テュールともあろう者が、わざわざ、俺たちに、喧嘩を売るようなこと、しないよ、ねぇ?」

「……何もしてませんよ。……まだ命が惜しいので。」


イヴ様に、にこりと微笑まれて、じゃ、これで、とそそくさと部屋を退出していくテュール様。

と思えば、ああ、とわたしの方を見て話しかけてくる。


「今回の悪魔の件、礼を言う。ありがとな。何か要望があったら言ってくれ。」


それだけ言うと、テュール様は部屋から離れていった。

何故か走って離れていく足音が聞こえたけど何でだろう?


「アイ、大丈夫か?先程は突然寝るから驚いたぞ。」

「ごめんね、疲れてたのに泣きついちゃって……。一週間も寝たままだったから心配だったんだ……。大丈夫?ご飯食べる?」


心配そうにわたしの顔をのぞきこんでくるロディ様と、泣きそうな顔を布団につけてわたしの顔を見上げてくるイヴ様。

そんな二人にちょっとそわそわとした気分になる。

二人は、わたしが吸血鬼だってことは知らなくても、腕を斬っても生えてくる程の回復力を持ってるのは知ってるはずなのに、こうやって心配してくれる。

そのことが何だか少しくすぐったい。


「いっぱい寝たのでもう大丈夫です。……ありがとうございます。」

「そうか、それなら良かった。これから夕食だが一緒にどうだ?少しでも何か口にした方が良いぞ。」

「一緒に食べようよ。美味しいパンがあるし、暖かい紅茶もあるよ。アイは何が好き?」

「えっと……」


二人をじっと見る。

わたしを運命の番だと、大切な存在だと、わたしの化け物の姿を見た上で、そう言い続ける彼らに、いつまでも逃げているのは失礼だと思った。

ちゃんと向き合わなきゃいけないと思った。

だから。


「好きなものは……ないです。あんまり人間らしい食事はしてこなかったから……。あと、あの、」


わたしは。


「少し話してもいいですか。…………わたしの種族について。」


全てを話そう。

吸血鬼という種族について。

わたしという存在について。



「……と、こんな感じです。」


吸血鬼について(簡単にだけど)話している間、二人は真剣な表情で話を聞いていた。

正直、気味悪がられるかな、と思っていたのだけれど、そんな様子はなくてほっとする。

むしろ全てを話し終えると、二人はふわりと微笑んでくれた。


「ありがとう、話してくれて。」

「ああ。正直に話してくれたこと、嬉しかった。」

「……わたしは、お二人とは違います。一度死んだ人間です。こうして生きていることすらおかしい化け物です。」

「化け物ではない。」

「そんな風に言ったら悲しいよ。」

「でも、」

「たとえどのような種族でも、アイはアイだ。」

「そうだよ。俺たちにとっては何よりも大切な番だ。」


二人の言葉に、体が温かくなる。

全てを知った上で、わたしを受け入れて、番だと言い続けてくれることが何よりも嬉しかった。

こんな気持ちになるの、本当に久しぶりで、何だかそわそわする。

でも、だからこそ。


「あの、」


わたしは向き合わなければいけない。


「番とか大切とかまだどう考えていいか分からなくて……どうしたいのか分からなくて……何も返事ができなくてごめんなさい。」

「アイ……」

「アイちゃん……」


だって、誰かと夫婦になるなんて考えたこともなかった。

こんな化け物に、そんなことを願う人が現れるなんて思いもしなかった。

でも、二人はこんな化け物のわたしでも良いと思ってくれてる。

だから、わたしも、考えなくちゃいけない。

向き合わなくちゃいけない。


「あの、二人のこと、ちゃんと考えてみます。時間はかかってしまうかもしれないけど、考えてみます。だから……。」


わたしはどうしたいのか。

二人とどうなりたいのか。

答えを見つけなければいけない。


「だから……待っててもらえますか。」


二人のことをじっと見つめながらそう問うと、二人は、もちろん、と微笑んでくれた。




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