ピンチ
「竹田。」
授業を終え、何時もの様に部活に向かおうとするひろゆきを担任の江口が呼び止めた。
7月に入りもう少しで夏休み。サッカー部も大事な大会を控え士気が上がっている。ひろゆき達一年生も少しずつボールを蹴る練習が出来る様になり、一段と部活が楽しくなってきた。
「はい。」
クラスでは目立つ存在ではなく、授業で当てられる以外に教師から呼ばれる事がほとんど無いため少し驚いた。
「お前分かってるか?」
「はい?」
何の事か分からずキョトンとするひろゆきに江口は続けた。
「次のテストで赤点取ったら夏休み補習だぞ。部活したかったら勉強もしっかりしろよ。」
「え?」
「中間、期末で赤点2つ以上は補習。」
「え…」
この時までそんなルールがあることを知らなかった。元々無理をして入学した学校で、授業についていくのがやっとだった。
前回のテストで一つ赤点を‘獲得’していたひろゆきは知らぬ間に窮地に立っていたのだ。
その日、部活どころではなかった。
蹴ったボールは明後日の方向に。
走れば転び。
ユニフォームは裏返し。
散々だ。
施設に戻り、部屋に居るとたかしが来た。
「どうした?何か調子悪い?」
「いや、実は…」
ひろゆきは今日江口から聞いたことを全て話した。
「なあ、どうしよう。」
うつむき加減で話していたひろゆきがたかしの顔に視線を移すと何やらニヤニヤしている。
「お前、笑ってないか?」
ひろゆきの言葉でたかが外れたかのように笑いだした。
「お前だけはー。」
「だって。そんな事で…」
と言いかけまた笑いだした。
「人が真剣に悩んでるのに。」
「そんなの考えても仕方ないじゃん。とりあえず勉強しとけよ。」
まだ笑っている。
「分かっとるわ。」
「何か良かったわ。心配して損した。」
そう言って立ち上がる。
「いいか。仮に補習回避しても今日みたいな事してたら戦力外だぞ。」
たかしが部屋から出ていったあと一人で天井を眺めた。
「それもそうか…。」
そう呟くと教科書を取り出した。まずは今出来る事をやらなければ。




