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夏(仮)  作者: ふゆか
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9/38

未定

(やってしまった…)


遂に始まった期末テスト。初日の数学のテストであろうことか名前を書き忘れた。

無記名は‘0点’。赤点確定だ。そして、補習確定ー。


テスト期間中は部活はない。


帰り道、ふと公園に立ち寄った。公園とは言っても遊具はほとんど無く、グラウンドと言った方がしっくりくる。


自転車を降り隅のベンチに腰掛け天を仰ぐ。


ひろゆきの心とは間反対の雲一つない青空が突き抜けている。


「んー。」


今まで幾度となく書いてきた自分の名前を、こんな大事な時に書き忘れるとは我ながらどじだなと思った。


そういえば昔から大事な時に信じられない様な事が起こる。


小学校の最後の大会も直前であんな事がー。


ジリジリとした太陽光と、降り注ぐセミの鳴き声に包まれてまた大きくため息をついた。目を閉じると、瞼を突き抜けた太陽光が目の前を赤く染めた。


(補習ってどれくらいあるのかな)


そんな事を考えていると


「あれ!?」


どこかで女性が大きな声を上げているのが聞こえた。

良いよな、悩みのない奴は。と、心の中で八つ当たりをしていると、足音がこちらに向かって来た。


背もたれに預けていた体を起こし、向かって来る足音の方を見ると見覚えのある姿が。


「ひろじゃない?」


「うん…」


見覚えはあるのだが誰か分からない。

とりあえず「久しぶり。」と言っておく。


「その反応は覚えてないね。」


見透かされている。一体誰なのか。


「えーと…」


何とか取り繕おうとするが言葉が続かない。


「まあ、仕方ないか。あかりだよ。」


あかりー。


「ああ。えっ。でも。何で。」


あまりに突然の再開に思考が停止した。


あかりは小学校の頃同じ施設にいた。同い年だった事もあり時々話す事もあったが、勉強も出来、年齢の割りに綺麗という言葉がぴったりなその容姿は同級生の男子の憧れの的だった。引っ込み思案なひろゆきは何時も遠くから見ていたが人知れず好意を寄せていた。

ただ、あかりは小学校卒業と同時に親元に戻っていった。もしかすると同じ中学校かもしれないと思っていたが、クラス発表のどのクラスにもあかりの名前は無かった。中学校の入学式から暫くの間は食事もまともに摂れない程ショックだった。


「私の家、直ぐそこだから。」


と、公園の外を指差した。


(そうか。隣の学区だったんだ。)


忘れかけていた憧れの人が実は近くに居た。その事が何だか嬉しかった。


「隣、いい?」


「あっ、うん。」


夏の日差しのせいではなく、体が熱くなるのが分かった。


「何してたの?」


「まあ、ちょっと考え事。」


「何?悩みがあるなら聞こうか?」


赤点で補習なんて格好悪くて言えない。


「いやいや、大丈夫だよ。」


「ふーん。」


ひろゆきの顔覗き込むように言った。

(やっぱりキレイだな。)

思わず見とれてしまった。


「まあ、いいや。ていうか、その制服。」


「ああ。」


「凄いね。勉強頑張ったんだ。」


(そうですね。どうせ俺は頑張らないとあの高校には入れませんよ。)と心の中で拗ねてみせた。


「落ちこぼれだけどね。」


これは事実だ。


「でも、入れるだけで凄いよ。そう言えばあそこサッカーも強いよね。続けてるの?」


「うん。たかしも一緒にね。」


「たかしも居るんだ。」


あかりの目が僅かだが大きく開いた。


そう言えば、あかりはたかしの事が好きだという噂があった。ひろゆきはたかしの名前を出したのを後悔した。


「今度3人で会おうよ。」


「たかしに言っとくよ。」


(3人か。)

と少し複雑な心境だったが、また会える約束が出来たことが嬉しい。


「そろそろ行くね。バイトあるんだ。」


そう言って立ち上がるあかり。


「あっ。連絡先。」


今までで一番と言っていい程の勇気を振り絞った。


「そうだね。」


施設ではアルバイトをして自分で料金を払う事が出来なければ携帯電話を持つことが出来ない。あかりもそれを知っている。ひろゆきは鞄からノートを取り出しあかりの連絡先をメモした。


「じゃあね。」


帰り道、足取りが軽かった。公園までの足取りとは全く違う。

補習になって良かったとまで思った。

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