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夏(仮)  作者: ふゆか
抜け出せない過去
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未定

3月の夜は言うまでもなく寒い。寒さをやり過ごす事でいっぱいいっぱいの中探し物所ではない。ましてや大都会大阪の街でたった一つの携帯電話を見つけるなんて。


「最後に使ったのはどの辺ですか?」


「多分…」


考え込むその横顔がまた綺麗だ。そして、やはり懐かしさを感じる。


「晩ごはんを食べた所。」


「じゃあ、とりあえずそこ行きましょう。何処ですか。」


ひろゆきの問いに女性がモゴモゴと答えた。聞き取れず聞き返すと


「吉野家です。」


今度は周りの人に聞こえる位大きな声だった。


「ああ。」


どうやら吉野家で夕飯を済ませた事が恥ずかしかったのだろう。視線を落とし顔を赤らめている。


「吉野家美味しいですよね。僕も良くいきます。」


本当はあまり行かないが慰めるためにウソをついた。


暫く歩き吉野家へ着くとひろゆきが変わりに店に入った。店員に事情を話すと直ぐに‘それ’は出てきた。


「こんなことに付き合わせやがって」と内心苛立っていたが、思いの外早く終わりホッとした。


「ありましたよ。良かったですね。」


そう言って携帯を渡すと、女性は何度も頭を下げお礼と謝罪を繰り返した。


「あっ。そうだ。」


宣伝を兼ねて名刺を差し出す。受け取った女性は何故かその名刺を驚いた様に見ている。デザイン等特に凝っているわけではなく、何処にでも有るような社名と名前が書いてあるだけの名刺だ。


「どうかしました?」


これまで幾度となく渡してきた名刺。ただ、こんな反応はされた事がない。


「うそ…。」


そう言うと女性は両手で顔を覆った。端から見ても泣いていると一目瞭然。行き交う人がひろゆきの事をまるで犯罪者を見るかの様にじろじろと見ている。


「ちょっと…」


焦れば焦る程周りの視線は冷たく向けられる。


「やっぱり。」


「えっ?」


女性の顔がこちらに真っ直ぐ向いた。泣き顔も懐かし気がした。


「ひろ。私。あかりだよ。」


全身から力が抜けていくのが分かった。



その後の事は覚えていない。仕事で疲れていたからか、余りの衝撃からかは分からないが、大袈裟ではなく気づいたら次の日の朝を迎えていた。


その翌日、あかりが「支払いを」と再びやって来たが受け取らなかった。大した事はしていないし、それと、割には合わないが過去の罪滅ぼしという思いから。「それでは気が済まない」と言うあかりの提案で後日食事に行くことになった。


それ以来、頻繁にあかりがやって来る様になり、食事等を重ね付き合い始めた。



一度離れ離れになった二人の人生が、生まれ育った場所を離れこの地で交わるなどあの頃は考えられなかった。


そして、今となってはこのまま交わった人生がいつまでも続いていくのか不安で仕方がない。


その夜、ひろゆきは畳の上でそのまま眠りについた。

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