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夏(仮)  作者: ふゆか
現在
33/38

未定

二人が訪れたのは小ぢんまりとしたフランス料理のレストラン。


「ああ。」


入り口まで来るとあかりが驚いて声を上げた。目を真ん丸にしひろゆきの顔を見る。


「思い出した?」


「うん。懐かしい。覚えてたんだ。」


「うん。と、いうかこの間急に思い出してさ。」


予想以上にあかりが喜んでくれたのが嬉しかった。


ここは、高校時代にあかりと一緒にクリスマスを過ごした場所だった。高校生にとってはかなり高級な店だったが少しでも喜ばせたいと思い無理をしたのが懐かしい。


「よく予約取れたね。」


「かなり無理言ったんだ。」


この店は完全予約制。長い時は予約が数ヶ月先まで埋まっているということも珍しくない。今回も数日前に思い出し、電話をした時には丁重に断られた。しかし、この機会を逃したらもう来ないだろう。そして、誕生日祝いらしいことが出来るとしたらこれくらいしかないと思い随分と無理を言った。最終的には自分の生い先が短いと言って予約を取った事はあかりには内緒だ。


店内に入ると老夫婦が出迎えた。ひろゆきの言った嘘のせいでどこか不憫そうな目で二人を見ている気がした。心の中で「ごめんなさい」と謝りながら案内された席に着く。二人以外にはカップルが一組。これで満席だ。


「何か雰囲気変わった?」


あかりが店内を見回しながら小声で言う。


「言われてみれば違う気がする。」


二人は間違い探しをする様に店内を見回した。はっきりと何が違うかは分からなかったが「あれが違う」「これはあの頃のまま」とそんなやり取りをしながら時間を過ごした。


コース料理もいよいよクライマックスを迎えた。急に店内の明かりが消え、厨房から日の灯されたケーキを持ちこの店の主人が現れた。ゆらゆらと揺れる火が二人の間に置かれ店の主人が「ハッピーバースデー」と一言。


「ありがとうございます。」


ここまでしてくれるとはひろゆきも知らず、両手で口を抑える目の前のあかり同様驚いてしまった。同時に嘘をついてしまった事への罪悪感が重くのしかかった。


「さあ。」


促されたあかりが息で火を吹き消す。真っ暗になった後証明が点き店内が明るさを取り戻す。もう一組なカップルにはおそらく事前に伝えてくれていたのだろう。驚く事なく二人に拍手を向けた。


「ひろもこういう事出来るんだ。」


目を潤ませながらあかりが皮肉を言う。確かに今までこういう演出はしたことがない。ただ、今回もひろゆきは予約しただけでこの演出は老夫婦によるものだ。


「まあ…」


ここの老夫婦に後日改めて謝罪とお礼をしなくてはと強く思った。


二人は料理を堪能し、席を立った。店を出る際店主に呼び止められた。


「頑張ってね。」


「ありがとうございます。」


苦笑いを浮かべるひろゆき。何も知らないあかりは二人のやり取りを不思議そうに見ていた。


帰り道、お酒もはいりほろ酔いのあかりは余程嬉しかったのか上機嫌だった。その姿を見たひろゆきも嬉しくて堪らない。


あかりが誕生日で何故岐阜に行きたいと言ったのか理由は分からない。でも、こんな事がなければ二度と来ることはなかった。


「あかり。ありがとう。」


「こちらこそ。」

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