未定
店内に入ると店員が敵意剥き出しの目をひろゆきに向けた。きっとこの間の一件であかりを泣かせた不良と認識されているのだろう。
禁煙席に案内させると二人は向かい合って座る。
「何か俺ってここの人に嫌われてる?」
一応あかりに聞いてみる。
「そりゃそうでしょ。高校生のくせにタバコ吸って、ドリンクバーだけで朝まで居座って、挙げ句の果てには私を泣かせてさあ。」
言葉だけ聞くと責められている様に感じるが、そう言ったあかりの表情は穏やかだった。
「あれって俺が泣かせたの?」
その点だけは合点がいかなかった。
「まあ…」
そう言うと視線を天井に向ける。暫く店内を漂った視線はやがてひろゆきに向けられ止まった。
「何?」
照れ隠しで冷たく言うとあかりがにっこりと笑った。
「あれはひろのせい。」
「うそ?勝手に泣いたんじゃん。」
「ううん。ひろのせい。」
必死にあの日の事を思い出すが、泣かせてしまう様な事を言ってしまったのだろうかー。困惑の表情を浮かべていると、
「嘘だよ。ごめんね。」
「なんだ。良かった。」
ほっとして体の力が抜ける。うなだれるひろゆきを見てあかりが笑った。
「それよりさ、携帯見せて。」
「ああ、良いよ。」
あかりが差し出した右手に取り出した携帯電話を乗せる。僅に触れた手と手。それだけで胸が高鳴る。そんな事は気にもとめずあかりがひろゆきの携帯電話を開く。
「これ、最新のやつじゃん。」
「そうなの?」
「えっ、知らずにかったの?」
「店員に勧められてさ。」
「へえ」と言いながらひろゆきの携帯電話を操作するあかり。その姿を微笑ましく見ているとあかりの手が止まった。
「電話帳全然いないじゃん。」
「昨日買ったばっかりだからまだ誰も連絡先聞いてないんだ。」
友達がいないと思われるのが嫌でそう言ったものの、実際に連絡先を交換する相手はほとんどいない。苦笑いを浮かべているとあかりが黙ったままじっとひろゆきの方を見る。
「どうしたの?」
「誰?」
ひろゆきの携帯電話の画面を見ながら言うあかり。先ほどまでの陽気な感じではなく、どこか不機嫌そうに見えた。
「何が?」
そう言って携帯電話の画面を覗き込むと画面には【高橋さん】と言う文字が浮かんでいた。
「ああ、バイト先の後輩の子。」
「女の子?」
「うん。何で?」
それを聞いたあかりは携帯電話をたたみひろゆきに手渡した。
「別に。」
ついさっきまでの明るさが無くなっている。肘をテーブルにつき、手で顔を支えながら外を眺める姿は寂しげにも見えた。いたたまれず席を立つひろゆき。
「どうしたの?」
「飲み物取りに行ってくる。あかり何かいる?」
「一緒に行く。」
二人でドリンクバーの前に行きあかりはホットコーヒー、ひろゆきはコーラを入れる。
「大人だね。」
何とか和まようと大袈裟に言ってはみたが、「そう?」といなされてしまった。席に戻ると再び向かい合って座る。あかりは両手でコーヒーカップを包み店内を眺めている。
沈黙が流れる。公園の時の心地好い沈黙ではなく、居心地の悪い沈黙ー。
「高橋さんってどんな子なの?」
唐突に、そして意外な質問が飛んできた。
「えっと…」
正直バイト仲間の一人でしかない高橋の事を聞かれても即座に答えられなかった。
「可愛い?」
「いやいや。すっごい地味。」
「ひど。」
あかりの頬が緩む。ついさっきまで見ていた表情なのだが、随分と久々に見れた気がした。
「仲いいの?」
両手に包んだコーヒーをすすりながら次の質問がきた。
「まあ、どちらかと言えば良いのかな。」
「そっか。一緒に遊んだりするの?」
「しない、しない。」
そう言った後に携帯電話を一緒に買いに言った事を思い出した。でも、あれは遊んだ訳ではない。そんな風に思ったが何となく後ろめたさを感じた。




