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夏(仮)  作者: ふゆか
過去
30/38

未定

不本意な連絡先の交換を済ませるとい大急ぎでファミレスに向かった。しかし、既にあかりの姿はなかった。


「くそ高橋…。」


そう呟くといつも通りカラオケボックスに向かった。


始めて手に入れた携帯電話。子どもの頃クリスマスや誕生日に欲しかったおもちゃを貰った時のような感覚で色々な機能を使ってみた。流行りの音楽を着信音にしたり、待受画面を換えたり、インターネットを見たり。全てが新鮮で、何だか世界が広がった様に思えた。


そんな風に携帯で遊んでいると一通のメールが届いた。


(高橋だ…)


ひろゆきのメールアドレスを知っているのは今のところ高橋のみ。メールの開き方が分からず手こずりながらも開くと、


【高橋です。今日はありがとうございました。楽しかったです。また良かった遊んでください。おやすみなさい。】


「可愛いとこあんじゃん。」


【こちらこそありがとう。おやすみ。】


と返事をした。人生初のメールを送信し、よく分からない高揚感を感じていた。


カラオケボックスが閉店すると寄り道をせず施設へ帰った。あかりに早く連絡がしたい。ここ最近では随分と早い帰宅。物音を立てないように自分の部屋に向う。


「ひろくん。」


嫌に優しい小野の声が背後から聞こえてきた。ゆっくりと振り返ると不気味な笑顔で小野が立っていた。


「ただいま。」


相変わらず施設の規則に従うことのないひろゆきだったが、父の話を聞いてからというもの小野との関係は比較的良好だった。


「おかえりなさい。」


ひたすら不気味な笑顔を浮かべている。


「分かってるでしょ。」


後ろに組んでいた手に持っていた書類を差し出す小野。


「はいはい。」


携帯電話を持つには施設に申請が必要だった。それがなければ契約すら出来ない。その申請時の約束が電話番号を施設に知らせる事だった。


観念したようにひろゆきはその書類に記入をした。


「これで、これからいつでも連絡が取れるね。」


言葉や表現は優しいのだが、何故かゾッとした。


「連絡いらないから。じゃあ。」


そう言うとそそくさと部屋に入った。



部屋に入ると、久しく開けていない通学カバンを開いた。以前にあかりの連絡先を書いたノートを探す。


カバンの中にある数冊のノートを順番に捲っていくがなかなか見つからない。あの時は舞い上がってしまっていてどのノートのどこにメモをしたのか覚えていないのだ。一通り確認作業を済ませたが見つけることは出来なかった。


「まじか…」


焦りと絶望感が襲う。朝の冷えた部屋でひろゆきの額を汗が伝う。


結局何度か見返したが見つける事は出来なかった。


「よし。仕方ない。」


ひろゆきはあることを心に決め就寝した。


太陽が高く上がる頃ひろゆきは目を覚ました。午後一時。いつもより少し早い起床。


ひろゆきは手にいれたばかりの携帯電話でバイト先の電話番号を入力した。


数回の呼び出し音が鳴った後店長が電話に出た。


「お疲れ様です。竹田です。」


「お疲れ様。珍しいな。どうかしたか?」


「実はちょっと体調が悪くて。今日休みたいんですけど。」


「ああ…」


今の店にとって欠かせない存在に綯っているという事はひろゆきも自覚していた。暫く考えた後、


「まあ月曜だし、分かった。しっかり治せよ。」


「ありがとうございます。」


あかりに会うため仮病を使ったのだ。こうして作戦を決行したひろゆきは、とりあえずいつも通り施設を出かけあかりのバイトが終わる時間までの間漫画喫茶で時間を潰した。


午後九時半。あかりのバイト先であるファミレスに着いた。店の外であかりを待つ。随分と冷え込んでいるが不思議と寒さは感じなかった。


午後十時を過ぎた頃あかりが現れた。


「お疲れ。」


ひろゆきの不意討ちにあかりが体を硬直させるのが分かった。


「ひろか。びっくりした。」


ひろゆきの顔を見たあかりが胸を撫で下ろす。


「どうしたの?バイトは?」


「今日はサボった。」


「何で?」


「これ。」


ひろゆきは真新しい携帯をあかりに向けた。


「携帯。買ったんだ。」


心なしかあかりの声が弾んだ。


「そう。それで、あかりと連絡先交換する為にバイトサボった。」


「なにそれ。」


あかりが笑う。


「でも、前教えたよね。」


一瞬言葉を失う。とてもじゃないけど「無くした」とは言えない。苦し紛れに出た言葉が


「やっぱり直接がいいじゃん。」


だった。


「どういうこと?」


あかりがきょとんとした表情を浮かべた。流石に無理があったとは思ったが、真実を伝えるよりはずっとマシだ。


「とりあえず中入ろうか。」


「俺はいいけど、時間大丈夫?」


問いかけたひろゆきだったが、「大丈夫じゃない」と言われたら嫌だなと後悔した。


「全然。前何時まで一緒に居たと思ってんの?」


愚問だと言わんばかりにあかりがひろゆきの腕を掴み店内に促した。


「そうだね。」


あかりとこんな風に話が出来、一緒に居られることが嬉しくて堪らなかった。

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